『空があぶない!』
時は冷戦も後半期。
中国が共産主義思想をめぐってロシアと決別し、しかしベトナム戦争ではひとまず共に共産主義勢力を応援して勝利をおさめた後のこと。
この戦争では歩兵に頼った「旧来の」戦争が見直されたのだが、同時に「戦争はなるべく短期で終わらせること。そのためには高度な専門訓練を受けたプロが一気に終わらせるのが理想的である」という、兵法以来の原則も脚光を浴びることになった。以降アメリカはリチャード・ニクソンが出身の共和党がよく主張するように、軍の徴兵による数増しを見直し、職業軍人を中心とした精兵集団への転換を図っていくことになる。結局、湾岸戦争では『数の多さは質のかわりにはならない』という、当たり前といえば当たり前の法則が改めて見直されることになった。
量よりも質が大事。
それに引き換え、中国空軍・海軍航空隊の装備はどうか。その当時で生産できたのはJ-6(MiG-19)にH-5(Il-28)、H-6(Tu-16)、それに発展もまだまだ途上のJ-7(MiG-21)というところで、アメリカの最新鋭戦闘機どころか、ソビエト戦闘機にすら劣るありさまだった。事実、珍宝島事件ではJ-7は当時のロシア最新鋭戦闘機に全く手も足も出ず、技術力不足が痛切に感じられていたのだった。
そこで中国は新型戦闘機の研究と開発を開始する。
が、そんなものは一朝一夕に成るものではなく、もちろん各国とも最新鋭・最重要の機密をそうそう明かすことはない。当然ながらJ-7から、どこかで見たような気がする発展(=Ye152)を遂げたJ-8でお茶を濁すことになる。(正確にはグラマンの協力の元、技術移転や装備の導入、共同開発の計画が進んでいたものの、これから本格化するという所で天安門事件が起きてしまい全てオジャンになった。)
恥を忍んで現実的解決!
結局、危機感こそあっても、80年代まではどうしようもならなかったらしく、ゴルバチョフ大統領が訪中して国交を正常化した(1989年)後にSu-27もしくはMiG-29の購入を打診し、テストの結果、1991年からSu-27の導入が始まることになった。おそらくはソビエト崩壊のどさくさ紛れに、技術を買い叩いてやろうと意図もあったことだろう。
中国は当初から国産化を目指しており、1995年にはライセンス生産契約を締結し、もはや古すぎるJ-6や、輸出するには少々恥ずかしいJ-8以来は仕事の無かった瀋陽飛機工業集団(SAC)に生産が任されることになった。
もちろんSu-27の生産には、それまで中国では未知だった技術も多くあり、まずは膨大な解説書のすべてを翻訳することから始まった。が、現在に至るも完全な国産化は許されていないようで、しかも許されていないのはエンジンや電子機器といった、軍用機としては心臓や頭脳にあたるような部分であった。
また、対地攻撃にもほとんど対応していないのも弱点で、使えるのはせいぜい単純な爆弾やロケット弾程度と、大いに不満があるものになった。結局、J-11は60機ほどの生産で終わり、またコクピットをグラスコクピット化したJ-11Aも、36機という少数生産で終わることになる。
Su-27の対地攻撃能力
なお、これは本国(ロシア防空軍)では専門外とされていた分野で、本来は長距離防空戦闘機として開発されていたのだから、当然といえば当然である。対地攻撃は空軍のMiG-29やSu-25が担当するような分野なのだ。
「隣国を支援する国は滅びる」
ロシアとしては中国に(中国にとっては最先端の)兵器を輸出することで、これを操作できると読んでいるもよう。実際、現在でもロシア製兵器は中国軍の一線を担っており、この供給が絶たれると戦争継続に困難をもたらす。
中国が独自に最先端兵器の国産化を目指す理由はまさしくコレ。
J-11B
そんな不満を解決すべく、まずは輸入しか許されないロシア製電子機器を、独自開発した国産品で置き換えたJ-11Bが登場することになった。本来求めていた「長距離戦闘爆撃機」としての能力を備えようとしたのである。
これは2002年に開発が発表され、部分的ながらも中国独自の設計変更が加えられた。機体の一部には複合材が使われて、約700kgもの軽量化を果たしている。電子機器同様、搭載兵器には中国国産の兵器が多く取り入れられ、J-10やJ-20とともに最新鋭の兵器を運用できる。
2020年代に入り、中国空軍ではPL-15やPL-10といった新生代のAAM配備を始めたが、とくにPL-15の射程はJ-11Bのレーダー有効範囲の限界とほぼ等しいため、これを最新世代のAESAレーダーに換装したJ-11BGが登場した。
このように時代の最先端に対応できる余力を秘めたJ-11だが、本格的な「長距離戦闘爆撃機」とするには搭乗員の負担が大きくなりすぎると判断されたようだ。のちに複座練習機型を基にしたJ-16を開発する事になる。
無断コピー疑惑
2005年には搭載されている電子機器各種の無断コピー疑惑が、ロシア側から指摘された。それまでも中国は、Su-27設計書や部品などを違法に収集していた事件が摘発されており、またライセンス生産が予定(200機)を大きく下回る段階で中止されていた事もあったので、中国がロシアの知的財産権を無視して主要部品を国産化している疑惑が掛けられた。
この問題は両国とも協議が繰り返されたようで、2008年に3年ぶりに中露軍事協力協議会が開かれると、ようやく知的財産権の保護・尊重が確認される事となった。
エンジン
本家同様のAL-31Fエンジン、またはCFM56を基に研究を進めたWS-10エンジンを搭載する。J-11・J-11AまではAL-31一択だったが、J-11Bでは2009年頃を境にWS-10エンジン搭載機が増え始めた。
WS-10が最初に搭載されたのは2001年のことで、生産番号0004・0013の2機が搭載・運用テストのために改造された。テストの結果はまず良好だったのだが、しかしエンジン損傷事故が多発、信頼性が低かったので当初AL-31F搭載で完成する事になった。その後はテストや試験が続いていたようだが、2011年には両エンジンともWS-10を搭載した機が確認され、この頃になってエンジンの問題はようやく解決した模様である。
なお、AL-31FとWS-10は寸法が違っており、AL-31搭載機をWS-10に換装するためには専用のアタッチメントが必要なようだ。また両者はエンジンノズル形状が違っており、ここを見れば比較的簡単に識別できる。
レーダーFCS
J-10Bの一番の特徴が、機首に収められた1474型多用途レーダーである。
このためにレドームは黒いものになっており、Su-27シリーズとは一目で識別できる相違点となっている。ただし、最近の戦闘機でレドームが黒くないのは、最初からそういった色の材料を使っているからであり、J-11時点では黒以外のレドームを作る技術が無いからなのかもしれない。(そういえばJ-10も当初は黒かった)
のちに、1474レーダーではPL-15等の新型AAMの性能を生かしきれない(レーダー有効探知範囲とミサイル射程の方がほぼ同等)事から、レーダーFCSを最新のAESAレーダーに換装する計画が持ち上がった。これがJ-11BGで、レドーム形状が変わると共に「黒一色」からは脱している。
J-15
Su-33のような艦上型の中国国産版。当初はAL-31Fエンジン装備だったが、これも後にWS-10に置き換わるようになってきている。2001年に「プロトタイプ・シーフランカー」ことT-10K-3を購入し、これを参考に艦上機設備をJ-11に取り入れたものにあたる。
生産は21機(2015年)に16機等と推測されてきたが、2022年現在では65機以上(おそらく3~4個飛行隊。テスト部隊・教育部隊でそれぞれ1個飛行隊必要なことを考えると、本格的な実戦飛行隊編成が始まったようだ)とされる等、徐々に生産数が伸びているようだ。
おそらくJ-11が充実するとともに生産ラインが空くようになり、それでJ-15にも生産枠が回ってくるようになったのだろう。以下のような派生型も確認されている。
J-15S
2012年に初飛行した複座練習機型。
J-15T
カタパルト発進のため、前脚にランチバーを取り付ける改造をした試作機(いまのところ)。
レーダーFCS等はJ-11BGに通じる最新鋭のものが適用され、もちろんPL-15やPL-10も運用可能であるという。現在のところ飛行甲板上での取り回し訓練、試作カタパルト実験に使われている。
J-15B
2021年に環球時報が報じた最新型で、レーダーFCSをAESAに換装(おそらくJ-11BGに準じる最新型)。これによりPL-10・PL-15のような最新型AAMを運用可能になったと思われている。
J-16
とくに性能ではSu-30MK2に並ぶとされ、最近では電子戦機型J-16Dが登場した。
ブンガ・マワールさん
なお、ラーゼフォンに登場する晨星II型は、中国製フランカーの系譜に属するという設定がある。とくにTERRA仕様はエンジンがロールスロイス製に換装されている特別仕様なのだとか。