概要
ヒンドゥー教の維持神ヴィシュヌの化身の一つ「ハヤグリーヴァ」が仏教に取り込まれたとされる尊格。
仏教側では観世音菩薩の相としてのハヤグリーヴァと、天部としてのヴィシュヌ(毘紐天、那羅延天)との同体視は特にされていない。
チベット仏教では「タムディン」「ハヤーグリハ」と呼ばれる。サンスクリット語名のハヤグリーヴァは「馬の首」を意味し、その名の通り頭上に馬頭状の髪飾りや冠を頂く。結った髪(宝髻)の中から馬が顔を出したような作例も存在する。
またの名を「馬頭明王」といい、チベット仏教でも明王に対応する役割を持つ「忿怒尊」の一柱である。
チベット仏教においては無上ヨーガタントラに属する本尊とされ、観世音菩薩の変化身の中でも特に激しい忿怒尊とされる。
一般的には激しい形相をした姿で知られるが、寂静相の穏やかな姿でも描写される。
一例として滋賀県の横山神社に伝わる馬頭観音立像は三面で中央の顔が穏やかで左右の顔が噛みしめた口の険しい表情、という形になっている。
腕の一対で両手を合わせる印相を結んでいる作造例があるが、馬口印(ばこういん、まこういん)という、差し指と薬指を伸ばして中指を折ることで馬の口を模した独特の印相となっている。
坐像の場合は両膝をあげつつ、両足のかかと同士をくっつけてそこから両の足裏を広げるようなポーズのものもあり、これもまた馬頭観音像の顕著な特徴である。
専ら密教経典で言及される尊格であるが、酪農家、畜産業者や精肉業者など
動物と関連の深い職種の一般人の間でも広く祀られている。
六道のうち畜生道の生類を救うとされ、競馬場でも事故で死んだ馬を弔うため
馬頭観音像が建てられることが少なくない。
化身(垂迹)とされる神・人物
須佐之男(小菅山権現)
オオヤマツミ(横山大明神)
霞権現
馬頭御前(太郎大明神)