准胝観音
じゅんていかんのん
准胝とはサンスクリット語名の「チュンディー」を音訳したもの。この梵語自体は「清浄」を意味する。
チュンディー(チャンディー)とはインド神話の女神ドゥルガーの誕生時の名前でもある。
このためドゥルガーが大乗仏教に吸収されたもの、とする説がある。
仏眼仏母同様仏母と呼ばれる尊格であり、「七倶胝仏母(サプタコーティブッダ・マートリ)」とも呼ばれる。
サプタは「七」コーティは「一千万」もしくは「無量」「無数」の意味で漢訳仏典では「拘胝(こうてい)」と音訳されたり「億」とも訳された。マートリは「母」の意味。
「七千万の仏たちの母」という意味であるが、例えば釈迦の母の摩耶夫人と同一視されてはいない。
衆生のうちから仏陀を生み出す仏法(真理)のはたらきを象徴する抽象的な尊格である。
もともとは仏母とだけされていたようで、「准胝観音」という呼称は時代が下ってからの漢訳経典以降に現れる。
ドゥルガーとの共通点として、
・「チュンディー(チャンディー)」サンスクリット文法上、名前が女性形である。
・多くの腕を持ち、それぞれの手に各種の武器や蓮華を持つ。
がある。
違う部分としては
・ドゥルガーはドゥンと呼ばれるライオンもしくは虎に乗っているが、准胝観音は騎獣を持たない。
・ドゥルガーはアスラ族と戦う軍神・武神としての性格が強いが、准胝観音はこうした説話を持たない。
多くの腕を持ち、それぞれに武器や蓮華を持つ、というのはドゥルガーや准胝観音に限った話ではない。
また梵名が同じでも性格付け・位置付けが全く異なるマリーチと摩利支天の例もある。
そのため陀羅尼の一つ「チュンダー陀羅尼」を擬人化・神格化した尊格とする異説がある。
実際、ヒンドゥー教において太陽神サヴィトリへの賛歌「ガーヤトリー・マントラ」が、女神ガーヤトリーとして擬人化された例がある。
準提佛母は後述のように如来部に分類されるが、菩薩であるとも語られる。中国語版ウィキペディアでは「准提菩萨(准提菩薩)」の記事名で立項されている。中国では「準提佛母菩薩」の呼称もある。
中国から日本に持ち帰られた真言宗においては、六観音の、人間道担当の変化身とされた。
天台宗では不空羂索観音が人間道担当である。両者を同時に含めた七観音というカテゴリもある。
天台宗では准胝では「准胝観音」とは呼ばれず「准胝仏母」という呼称のみが使われている。
密教だけでなく禅宗でも信仰されている。中国においては禅と密教を一緒に学ぶ(密教自体顕教を修めている事が前提で学ばれる)宗風があり、
その流れで黄檗宗の禅僧によって准胝観音信仰と密教修法が日本に持ち込まれた経緯がある。
江戸時代の戒律復興では中国から日本曹洞宗に準提(准胝)の名を冠した陀羅尼が伝来している。
こうした理由もあり准胝観音を本尊とする禅宗寺院が存在している。