概要
裏サンデー及びマンガワンにて2016年12月30日より連載されている漫画作品。
著者は以前本誌で『ドリー・マー』を連載していたバコハジメ。
単行本は現在第9巻までリリース済み。
作品ジャンルは「ヴァンパイアホラーバトル」となっているが、物語が進むにつれてホラーの要素は薄れ、いわゆる王道のヒーロー物や人間ドラマの色が強くなっている。
比較的シンプルで使い古された舞台設定の中で、個性豊かなキャラクター達の譲れない信念と凄惨な戦い、厳しい現実世界との葛藤を描くと共に、「命の儚さ」や「善と悪の曖昧な境界線」といったテーマが作品の根幹を為している。
「次に来るマンガ大賞2018 Web漫画部門」にて7位にランクイン。
2019年9月20日からはマンガワンにて今慈ムジナによるスピンアウトライトノベル『血と灰の女王 ―善悪の彼岸―』が公開。翌年1月17日には短編とともにガガガブックスより単行本として発売された。
あらすじ
舞台は富士山が噴火した現代。火山灰を被った一部の人間は驚異的な力を誇るヴァンパイアに変身する力を得た。
ヴァンパイアの王となったものが全世界を支配するルールのなか、血で血を洗う戦いが幕を開ける。
主な登場人物
ドミノ様と犬4匹
主人公で「真祖」。ヴァンパイアの王を目指す少女。
人を正しく見極める才能を持ち、自らの強さにも絶対の自信を持つが、絵が下手なのが玉にキズ。
ヴァンパイアに変身すると露出度の高いコスチュームになるが、念動力のような能力により圧倒的な戦闘力を誇る。
下僕1号でチームのナンバー2。大学生。善に先んじてドミノにスカウトされていたヴァンパイア。
暴力と殺戮を好む一方で、他者と共生しようとする理性も持ち合わせている。
黒くシャープな姿に変身し、電撃能力を使いこなす実力者。
下僕2号かつ第2の主人公。高校2年生。
絵が上手く心優しい性格だが、人の命を粗末にするような輩を許さず、市井の人々を守るためには強敵だろうと果敢に立ち向かう。
変身するとボロボロのマントを羽織ったような風体になる。能力は高速再生と見られていたが…。
下僕3号。善とは小学校時代の友人だった。元・燦然党メンバー。
変身した姿はワイルドな狼(どう見ても可愛い犬)。触れているものを加速させる能力を持つ。
熱狂的なカープファンで、チーム内でのコメディーリーフ的存在。
下僕4号。日ノ元士郎の実の娘。巨人ファン。
あまり頭がよろしくないが責任感が強く、本気で父殺しに望む。
変身体は頑強な骸骨のような容姿をしており、その装甲を様々な武器に変形させて戦う。
ドミネコ
下僕0号。ドミノのペットで一行のマスコット的存在。
エキゾチックショートヘアの血が入ったぶちゃいくなごく普通の雑種猫。「オア~」と鳴く。
ドジで賢くないが、彼なりに健気さを見せる事もある“忠猫”。
燦然党
日ノ元 士郎
燦然党党首で明の父。政治家で「真祖」。
カリスマ性溢れる熱血漢だが、目的のためなら手段は問わない残忍な面も持つ。
400年の歴史を持つ国家工作員一族「日ノ元家」の現当主。
ガイコツ(名前不明)
士郎を「坊っちゃん」と呼ぶ側近。
今のところ変身体しか晒しておらず謎が多い。糸の束で形成された肉体を利用して戦う。
善の幼少期の主治医だったが現在も懇意で、以来9年近くの付き合いになる男。
ヴァンバイアとなってからは夜な夜な犯罪者相手に私刑を続けていたが、ドミノに敗北したのち燦然党の幹部に招かれた。
変身した姿は作中作アニメのヒーローに酷似しており、全てを断つ剣を巧みに操って戦う。
加納 クレタ/加納 マルタ
古着屋“Jelly Fish”を経営している双子の姉妹。姉妹そろって人魚型のヴァンパイア。京児は大学でクレタ(姉)、善は店でマルタ(妹)とそれぞれ接触する。
魚型の分裂体を大量に作り出し、自在に操る能力を持つ。
その実像は…。
立花 綺羅々
幹部。金髪&ジャージのヤンキー然とした外見だが、党内では至って常識人寄り。過疎の進む村の出身で、噴火前に日ノ元に援助を受けた事から恩を感じている。
キラキラネームを気にしており、下の名前で呼ばれるのは嫌な様子。阪神ファン。
燦然党幹部の中では最強と目されており、姿を消す能力と「D・ナイト」の使い手。
風見 涼
幹部。殺し合いそのものを好む文系サイコパス。京児の事が好きな同性愛者。
大量の蝶を散布して相手の神経を支配する能力を持ち、索敵や情報収集に優れる。
芭藤 哲也
幹部。七原の元上司でヤクザ。ムカデ柄の変わったシャツを着用している。
恵まれた他人を蹴落とす事が弱者だった自分たちが這い上がる手段であると考えており、とかく殺人に対しては強い執念を持つ。
両手の銃とムカデ型の金属触手を操る攻防一体の能力を持つ。特に左腕からの光線は30分のインターバルが必要な分強力無比。
葵 洸
幹部。臆病で控えめな性格。
手足が無数に重なり出来上がっている巨大な土偶に変身可能。テレポート能力を持ち、性格含めて戦闘向きではないが重宝されている。
北ノ城 篤
芭藤の後任として幹部となった男。
党内でも仲間の失敗を嘲笑う質の悪い人物で、以前から暴行事件を繰り返してきた模様。
ハエのような変身体と、ガスを噴き出し爆発する銃弾を能力として使用する。
ゴールデン・パーム
ゴールデン・パームの社長で第三の「真祖」。
成金趣味な人物だが、他の真祖に劣らない高いカリスマ性と慧眼の持ち主。優れた人材を引き抜くためなら金に糸目はつけないものの、一たび不要と考えれば容赦なく切り捨てる冷酷な面もある。
変身すると黄金色に輝く甲冑を纏った姿になる。超硬度の黄金で剣やドームを作り出し、その技には一切の無駄がない。
火防 郷
ゴールデン・パーム取締役でユーベンの右腕。
受けの良いゴリラキャラを演じているが、ユーベン配下の中でも特に頭の切れる男。
広範囲に渡って爆炎を操る能力を持ち、善の見立てでは堂島に匹敵する実力者。
水波 魚月
ゴールデン・パーム社員。海と故郷の島を愛する海洋学者。
水を操る能力を持つ。実力は燦然党幹部級だが、でんきタイプの京児相手には相性が悪い模様。
阿久津 潤
広島弁の社員。善・七原と同い年だが高校には通っていない。
始めこそ風体のせいで怖がられていたが、七原とはカープの話題で意気投合。一方で、善の利他的な思想には反感を抱く。
カラスのような姿に変身し、能力として羽を付着させた箇所を落下させる「降下(フォール)」を有する。
霧島 槇尾
ユーベンの命で燦然党に潜入していたヴァンパイア。本職は公安に所属する警察官。
噴火以前よりマークしていた日ノ元家の打倒のため、堂島と手を組んだ。
影に関する能力を持ち、生物の影への潜行や“影法師”を通じた他者との感覚共有といった芸当が可能。
その他の登場人物
狩野 京介
善の高校からの親友。京児の実弟。
腕っぷしは強く喫煙者と見た目通りのヤンキーだが、友達思いで理不尽な事を見ると放っておけない心優しい人柄。
ヴァンパイアに惨殺され、善がヴァンパイアとしての戦いに身を投じる切っ掛けとなった。
善が幼い時病院で出会った少女。4歳から続く慢性腎炎と運動障害等のため今も入院が続いている。
今でも毎週末に善が見舞いにきており、善のよき理解者でもある。
ゴア
約2000年前のポンペイでの噴火によってヴァンパイアとなり、その戦いに勝利した“現王”。今でもその座に君臨し続け、世界を裏から牛耳っている。
その全貌は未だ明かされていないが、真祖達からは「最低最悪のクズ」と評される。
用語・設定
富士山の火山灰を浴びて、人外の怪物としての能力に目覚めた人間。後述の真祖と区別するため、「並のヴァンパイア」と呼ばれる。本作では「夜の間しか変身できない」「心臓に傷が付くと死ぬ」「死ぬと灰になる」といった設定が採用されている。
吸血は生存には不要だが、人間の血液を飲む事で一時的に力が高まり、興奮状態となる。いわばドーピングや麻薬に近い効果があり、多くのヴァンパイアが私利私欲のために人間を殺害している。
その姿は様々であり、善やドミノのようなコウモリを彷彿とさせる正統派寄りのヴァンパイアもいれば、悪魔や狼男、骸骨や人魚やキノコや昆虫といった、様々なモチーフの怪物がヴァンパイアとして登場している。
また、それぞれの姿や能力は「京児の電撃」→「刺激」、「堂島のヒーロー」→「幼少期からの憧れ」など、各々の人格に根ざした物が発現するようだが、能力の元になるものは未だ作中で言及されていない。
単純な「強さ」を決めるのは、以下の4要因。
①本人の素質。
②遺灰物(後述)の補食数。
③吸血行為。ただし、これは短時間のブースト。
④ヴァンパイア化してからの経過日数。
- 遺灰物(クレメイン)
死んだヴァンパイアが灰以外に唯一遺す物体。心臓のような形をしているが、金属質で生暖かい。
捕食する事でヴァンパイアの力を高める。強いヴァンパイアの遺灰物ほど効果が高い。
野心あるヴァンパイア達は、遺灰物を求めて夜な夜な殺し合いをしている。
- 真祖
本作においては富士山の噴火以前からヴァンパイアであった者達を指す。
いずれも強大な力を誇り、その遺灰物が与える力は生物を次の段階へと進めるとまで言わしめる。
その実体は「“王”に選ばれて直接血を与えられる事でヴァンパイアとなった“王候補”」。
- 富士山の噴火
物語冒頭の4か月ほど前に発生した大規模な自然災害。
現在も各地に被害の爪跡を残している。
降り続ける火山灰には、素質のある人間をヴァンパイアに変える力がある。
- 王を決める戦い
富士山の噴火と共に始まったヴァンパイアの王を決めるバトルロイヤル。
最も強い1人だけがヴァンパイアの王となり、世界を支配する事ができる。
その過程で大規模な破壊や大量殺戮が発生しているが、強力な情報統制により一般人にはその存在を感知できず、干渉もできないようになっている。
歴史の中で大噴火が起こる度に、戦いもまた千数百年に渡って繰り返し行われてきたが、未だ初代“王”を打ち破った者はいない。
余談 「主人公は誰か?」
この作品の名目上の主人公はドミノという事になっている。
しかし実際に読み進めていけば、物語は善の成長を中心にして進行している事が分かる。
一方で、作品のストーリーには「ヴァンパイアの王を決める」という分かりやすいゴール地点が設定されているのに対し、善にはそういった目的意識が薄い。物語の開始時点から、その目標を明確に持っているのはドミノである。
物語は基本的に善の視点から進んでいくが、ストーリーの主軸となる出来事はドミノを中心として展開されていく。
いわばドミノと善は別々の目標を持ったタイプのダブル主人公であり、読者それぞれの見方によって、主人公はドミノと言っても善と言っても差し支えないと思われる。
これから2人の目的地がひとつになるのか、別々のままなのかは、今後の展開次第だろう。