※本記事には「新たなる帝国」のネタバレを含みます。
概要
モンスターバースシリーズ第5作『ゴジラxコング:新たなる帝国』に登場する怪獣(タイタン)で、本作におけるメインヴィラン。
地下空洞に生息していた、コングと同族たるグレイト・エイプの一頭。但しゴリラに似てがっしりした体型のコングに対し、身長はコングよりやや低めの97m程で、チンパンジーや人類に似た手足の長い細マッチョな体型をしており、コング以上に猿人に似た風貌となっている。
※スカーキングに限らずグレイト・エイプは外見に個体差があり、スカーキングと同じ細身の個体もいれば、コング同様にゴリラ型の個体もいる。
毛色はオランウータンに似た明るい赤茶色であり、目は青く瞳は白いのも特徴。自身の毛の色と同じ色のフェイスペイントをしているため分かりにくいが頭部の体毛はやや禿げ上がっている。
地下空洞においては、ス-コをはじめとした同族達のアルファ個体として君臨しているが、暴力と恐怖で他者を支配する暴君であり、大半の仲間達からは恐れられている。それを裏付けるかのように、縄張りや所有物に赤い塗料で自身の手形を刻みつけているが、群れの仲間達にも自身の下僕であるかのように刻みつけている。
スカーキングの玉座の間にはハーレムが形成されており、彼の子供と思しき赤子を抱えた雌個体が大勢目撃されたが、彼女たちの怯え具合を見るに愛情など一切ない模様。
コング同様、霊長類の特徴たる高い知能と器用な手を存分に活かしており、専用の武器として他の怪獣の骨(Jared Krichevsky氏のX(Twitter)上の質疑応答によると、ワーバットの骨)で作った鞭・ウィップスラッシュ(Whipslash)を肩にかけている。このウィップスラッシュの先端部には氷に似た鋭い結晶刃が装着されており、これを用いてとある強大な力を持つ存在に苦痛を与え、服従させて使役(というか奴隷のように酷使)している。
長年に渡り他の怪獣と戦い続けた事で、様々な怪獣との戦いに精通した歴戦の戦士であるが、その性格は前述した通り残忍かつ悪辣。特に大した理由もなく仲間を処刑したりするなど、極めて身勝手かつ傲慢で同族に対する情けなどの欠片も持ち合わせていない。また、自身は安全圏に居つつ、仲間を唆して数の暴力で敵を捻じ伏せたり、一騎討ちで不利になるとすぐさま上記の切り札を差し向けたりと卑劣な手段も躊躇なく使うため、王としての威厳はおろか戦士としての誇りすらもないという典型的な悪党である。
本来グレイト・エイプは人類を守護する善なる種族だったのだが、スカーキングは果てなき支配欲から地下空洞だけでは満足せず、地上すらも自身の支配下に置く野望を抱いており、そのためにかつてゴジラとの種族間での戦争を引き起こした。一時はゴジラを追い詰めたものの最終的に敗れ去り、一族共々「火の国」と呼ばれる火山地帯へ追放されたが、地上侵攻の野望は諦めておらず、虎視眈々とその機会を窺っていた。
謂わば、ゴジラとコングの長年にわたる種族間での対立を招いた全ての元凶と言うべき存在なのである。
また、地上で生まれ育ち善なる者として育ったコングと、地下世界で邪悪なる支配者として君臨し続けてきたスカーキングは、互いに対になる存在と言え、ある意味ではコングが辿る可能性のあったifの姿とも言うべき存在とも言える。
劇中の活躍
ネタバレ注意!
地下空洞のモナーク前線基地付近にてカメラ越しに足と目が映る形で登場。
その後、基地を蹂躙してそこにいた職員をも全滅させ、現場の近くの山肌に自身の縄張りを主張する手形を残した。
コングが未探査エリアに踏み込んだ時に最初に交戦したスーコやワン・アイたちは彼の親衛隊「レッドストライプス」であり、コングが王国に足を踏み入れて自分達に反抗する行動をとったのを見かねたワン・アイから報告を受けたことで遂にその姿を現し、威圧感ある佇まいで崖の上からコングやエイプらのいる足場へ降り立つと、グレイト・エイプ達が平伏する中でコングに詰め寄り、彼の周りをぐるりと回ってから改めて対峙する。
そして唐突にコングの上唇を捲って虫歯治療で差し替えた銀の義歯があるのを見ると、それを指差しながら馬鹿にするように嘲笑。そのまま周囲の配下やエイプ達にも笑うよう促すが、それに嫌々従う態度を取ってしまったスーコに気付き詰め寄る。その際にスーコを庇おうと割って入ってきた一頭の成体が懇願を受けて見逃す素振りを見せるも、傍若無人な振る舞いに怒るコングを再び見た直後、挑発するかのごとく背後にいたその成体に後ろ蹴りを食らわせてマグマの中に突き落とすという公開処刑を見せつけ、激怒したコングと遂にバトルを開始する。
これまで重ねてきた戦闘経験の差と「ウィップスラッシュ」を駆使した戦法でコングを圧倒し、隙を見せた彼の首をウィップスラッシュで締めつけながら追い詰めるも、負けじとコングからの反撃で振りほどかれ、地面に投げ飛ばされる。
だがそれに対し、加勢しようと来た配下を止めて悪辣な笑みを浮かべると、自身に服従しているエイプ達に命じてマグマの滝の中に閉じ込めていた伝説の怪獣シーモを召喚。ウィップスラッシュの結晶刃による命令でシーモにコングを攻撃させる。それにより右腕に重度の凍傷を負って戦えなくなったコングが退却するとワン・アイ達レッドストライプスにコングの追跡を命じ、彼が残したコングアックスを手に取って勝利の雄叫びを上げた。
その後、コングやスーコの反撃を受けながらもしぶとく生き残り戻ってきたワン・アイから地上に繋がるポータルを発見したとの報告を受けると、再び地上侵攻の野望を達成するために今度は自らがシーモやレッドストライプスを引き連れて出陣する。
そして問題のポータルに到達すると、コングがゴジラへの応援要請をするために地上へ向かっている間の時間稼ぎとしてイーウィス族がピラミッドの起動により辺りを一時的に無重力状態にしようとしていることを現場の様子から看破し、シーモに命じて2つのピラミッドの頂上部を凍結させて阻止。だがその直後にトラッパーの奇策により連れて来られた大量のヴァータシーンを差し向けられて足止めを食らう。
シーモの攻撃で何とかヴァータシーン達を一掃するも、直後にとうとうコングが怨敵のゴジラを連れて帰還。
シーモと組んでコング・ゴジラと2対2の最終決戦へと突入する。
戦闘開始と同時に、妨害工作でシーモに凍らせていた2つのピラミッドの頂上部がその氷を突破して激突、その衝撃波により無重力状態が発生。
想定外の状況に翻弄されながらもゴジラの相手をシーモに任せ、自身はコングと壮絶な死闘を繰り広げる。
その途中で無重力状態が解除されたことによりシーモやコング・ゴジラ共々ポータルに落下し、そのまま地上世界のブラジル・リオデジャネイロへと飛び出した。
予想していなかった思わぬ事態に最初は少なからず驚いていたが、念願だった地上世界への侵攻を遂に果たしたことを理解すると邪悪な笑みを浮かべ、即座にシーモに命じてまずは上空を寒空で曇らせてから、リオデジャネイロの街を凍らせ、地上世界侵攻の第一歩を踏み出した雄叫びを上げる。だが、同じく地上に上がっていたコングから不意打ちである渾身の一撃を食らわされて歯を1本失い、それを見たコングに義歯を笑われた時の意趣返しと言わんばかりに鼻で笑われて怒り、そのままシーモと共にコングとゴジラとの戦闘を再開。
1対1では分があるコングに対し、相変わらずシーモにコングを追い詰めさせるも、自身を狙って攻撃を加えてきた因縁の相手であるゴジラには終始圧倒され、何とか反撃しよう使ったウィップスラッシュをも噛み千切られて失う。それでもまだ無傷でその場に落ちたシーモ支配用の結晶刃だけは奪還しようと、ゴジラが連発してくる熱線を回避しつつ奮闘するが、その結晶刃を奪おうとするコングと揉み合いとなる。だがその隙に駆けつけたス-コがコングアックスで結晶刃を粉々に破壊したことで起こった衝撃波により、他の者とまとめて吹っ飛ばされる。
結晶刃を破壊された怒りでス-コを手にかけようと掴みかかるも、再びコングに鉄拳で叩き伏せられ、合図を送ったゴジラ目掛けて投げ飛ばされた上に尻尾による追撃で野球の如く弾き飛ばされ、再びコングにキャッチされて首を掴まれながら高々と持ち上げられる。
そうしていよいよ絶体絶命となってきた状況下で必死にシーモに命令するも、結晶刃の力で使役できていただけの彼女が従うわけもなく、ゴジラのアルファコール咆哮による命令を受けたシーモに逆に氷漬けにされ、僅かだが意識を保ったままコングに粉々に粉砕されて死亡した。
かくして醜い支配欲のままに同族のみならず、地上すらも征服しようとした王を気取る邪悪な怪物(モンスター)は、かつての怨敵と自身が見下した同族の一頭に、恐怖に打ち勝ち自由を掴まんとした勇気ある子ども、加えて自分のモノにしたと思い込んでいた強大な力を持つ存在によって自身の身体ごと野望を打ち砕かれるという因果応報な末路を迎えた。
また、その後にシーモが自らの意思でコングに懐き従っていた事で、「王」としてもコングに完敗したのであった。
評価
強さ
同族を力で従わせて王国を支配しては気に入らない存在を殺し、それでも満足せずに地上の世界すら支配を目論むなどの暴君ぶりを見せたスカーキングだが、多くの怪獣と戦ってきたコングと互角に渡り合えるなど実力は決して低いものではないものの、純粋な力比べでのタイマンではコングが優勢であった上に下記のようにゴジラ相手には終始圧倒されており、それらへの対策として取った戦法に関しても以下の通り
- コングに反撃されるなり、すぐにシーモを差し向ける
- 彼に重傷を負わせて勝利したのは自らの実力ではなく、シーモの力によるもの
- 武器を破壊されると慌てて結晶刃の回収を優先する
など、過去の壁画はともかく本作の映像内で確認できる彼の強さはシーモによるものが大きい節があり、最後に刃を失って追い詰められた際もシーモ頼りという有様だった。さらに地上侵攻において最大の障害となるゴジラとの戦闘では、自らの攻撃を一切当てることが出来なかった上にあっさり武器を破壊されてしまい、自らを仕留めようとする放射熱線の前ではひたすら回避を続けるしかなかったため、本当に歴戦の戦士なのかと疑いたくなる体たらくぶりであった。
自分よりもはるかに広大な世界を支配し、力づくであっても我欲に走らず、秩序を守ってきたゴジラ相手にこの結果では、仮に地上を支配出来ても、凶暴な怪獣が多く生息する地上世界で彼の王国は長く持たないであろうことは想像に難くない。
- 前作において回避に徹しつつ、肉薄してゴジラに手痛い一撃を浴びせていたコングとは対照的だが、あちらには熱線を受け止める手段があったため、もし地上に持ってこれていれば話は違ったかもしれない。
- とはいえ、前作の時点でゴジラはその武器の特性を理解しており、なおかつコングがその武器を持っていても不利に立たされていたため、仮に持っていたとしてもスカーキングに勝機があったかは不明である。
- この時は刃を回収する事に専念していた事と、ゴジラがこれまでより進化した状態であるため、熱線の使用に制限があったKOMの中盤辺りまでなら互角に戦えた可能性はある。ゴジラが自身の強化に専念していたのもタイマンでスカーキングたちやシーモに挑むためと考えられるため、ここにコングやモスラ、人間たちのアシストも入ったことはスカーキングにとってはある種運がなかったといえるだろう。
強さについてのフォローをするならコングやゴジラよりも目に見えて優れていた点として狡猾な知性があり、劇中ではシーモの力に頼りきっていたスカーキングだが元々は力よりも知略で戦うタイプの戦士だったのかもしれない(下記のように人間に近い存在であるという点を見るに可能性は高い)。
王としての器
コングは敵意がある者には冷徹でありつつも逆にこちらから危害を加えなければ温和な上に、弱い者に手を差し伸べるなどの優しさを見せてス-コの信頼を得ており、それによりスーコは自ら斧を手に取り、ポータルを渡ってまでコングを支援した事で勝利に繋がっている。
そして、ゴジラとは敵対関係ではありつつも、共通の敵には共に立ち向かって連携を取り、コングがピンチの時に自らの意思で援護するなど信頼関係を見せていた。
それとは対照的に、同族達やシーモを力で従わせていただけのスカーキングには、全員が戦闘不能になっていた事を差し引いてもポータルを通ってまで助けに来る兵士はおらず、死後にコングが再び火の国に訪れた際も同族たちは全員歓声を上げて彼を王として受け入れ、誰もスカーキングの死を悲しむ者はいなかった。
それどころか彼の身勝手な振る舞いが親衛隊の一人であったはずのスーコの離反を招き、結果として自らの最大の敗因に繋がってしまっていた。
そして上述の通り自身の強さの秘訣であり、地上侵攻における重要な戦力であるシーモに関しても、長いこと接していながら刃の力で従わせていただけで信頼を築いておらず、洗脳が解ければ反抗される程度の関係でしかなかったがために、ゴジラの一声に従って恨みをぶつけられるという無様な姿を見せてしまっている。
今まで、力と恐怖で他者を支配してきたスカーキングだが、裏を返せばそれ以外の方法で誰かの上に立てず、自身より強い者のみならず、スーコのように弱くとも恐怖する事を止めた者を支配する事は不可能だという事である。
総評
総じて己は支配者になったつもりでその為の力もあったが、逆に言えば力以外のものを何も持たない上に残忍で身勝手な気性からスカーキングを認める者はおらず、力に頼るばかりでそれよりずっと強い力に滅ぼされる程度の偽りの王でしかなかったようだ。
今回、その醜悪なまでの欲深さ故に滅ぶ事となったスカーキングとその手下達だが、その様子は正に「人間」の暗黒面そのものであった。アダム・ウィンガード監督もこのことを認めており、「スカーキングはある意味では人間の脅威そのものに最も近い、人間の恐ろしさをタイタンに重ね合わせたような存在である」と評している。
そして、現在モンスターバースの世界では多くの国が地下世界への進出を企てている。現在こそゴジラやコングに「自然の一部」として見逃されてこそいるものの、人間達による地下世界への侵略はあり得ない話では無い(そもそも、前作で人類は地下世界のエネルギーを利用しようと目論みそれを実行に移しているわけで…)。
そう考えると、今回の出来事は人類にとっては決して他人事ではなく、忘れてはならない事態と言えるのかもしれない。
余談
世代交代やゴジラのように休眠などをしていないのであれば、地下世界のイーウィス族の壁画の記載(髑髏島のものより数世紀古い・かつてゴジラと戦った・服従させたシーモが氷河期を起こした原因)から数百歳~約7万年もの時を生きた長寿怪獣であると推測される。もしかしたら本編中では強さがいまいち感じられなかったのは、壁画時代の歴戦の達人から老人に老いてしまっていたからかもしれない。
「前々作」と「前作」のラスボスは殺戮を快楽とする等、スカーキングとは残忍性が異なるものの、スカーキングと同様にただ本能だけで暴れる怪獣とは言い難い邪悪な存在として描かれていた。
一応、スカーキングら以外の怪獣が殺し合いをしたり、人間を襲う事もあるが、それは生存目的の防衛や捕食といった食物連鎖である。一方でスカーキング(本作におけるキングギドラとメカゴジラもそうだが)はそれらとは無関係に他の生物を殺しており、弱い立場の生物であろうと必要以上に虐げた挙句に殺害する一線を超えた蛮行から地上への侵攻を除いてもコングの逆鱗に触れるのは当然であった。
本作が情報解禁された2023年当時は、まだスカーキングが解禁されていなかったため、一部の人はスペースゴジラかデストロイアが登場するのではないかと予想する声もあった。