概要
男はつらいよとは、渥美清主演、山田洋次原作・監督(一部作品除く)のテレビドラマおよび映画、またはそのシリーズの総称。
元々は1968年から1969年にかけてフジテレビにて放送・制作されたテレビドラマだったが、最終回の結末に視聴者から多数の抗議が殺到。それをきっかけとして映画化されることに(後述)。その映画も元々は5作で完結される予定であったのが、あまりの大ヒットゆえに次々に続編が作られていき、結果全48作の長編映画シリーズとなった。今では国民的映画の代名詞的存在である。
また、作中では監督を務めた山田洋次氏の「昭和の景観を映像の中に残しておきたい」という意向により、劇中には昭和日本の(特に地方の)美しい景観が多数織り込まれているのも特徴である(中には現在では見ることができなくなってしまった景観も少なくない)。他にも、(映画故に脚色されている部分も当然あるが)昭和日本の庶民の暮らしが生き生きと描かれており、上記のように昭和が終わるまで多数の作品が製作されたこともあって、ある意味では人情劇であると同時に昭和日本の様子を収めた一種の記録映画としての側面も持っている。
渥美の死によるシリーズ終焉は男はつらいよが平成の世になっても古き良き人情としての昭和の匂いを漂わせていた為に「これで本当に昭和が終わってしまった」と感じた人も少なくなかった。
令和の新時代には50周年を記念してシリーズ第50作「おかえり 寅さん」が公開された。
ちなみに50作品とナンバリングされているのは、その前に過去映画の再編集映像をメインとした作品「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」が49作目と扱われているためである。
テレビ番組から映画へ
長い年数に渡ったシリーズであった為、今まであまり知られてこなかった映画の前身であるTVドラマ版『男はつらいよ』(フジテレビ)の最終回で寅さんはハブに噛まれて死んでしまう。トリビアでも紹介されたので知っている人もいるかもしれない。
ただしこの事は直接の描写ではなく、映画版で佐藤蛾次郎氏が演じた源公の前身といえる「寅次郎の弟分の雄次郎」がさくら達にその最期を伝えたシーンでしかない(ただ回想として寅がハブに噛まれて狼狽するシーンは描かれる)。
ところが、さくらの前にまさかの寅次郎が現れる。現れた寅次郎はさくらに別れを告げ、後ろ姿のままフッと消えた(当時の映像技術の為そのような演出となっている)。妹想いのやくざな兄貴は夢か幻かはたまた幽霊になって妹の前に現れこの世から去ったのである。
この衝撃的な終わり方に、主な視聴者だった男性層からは放送後にフジテレビへ抗議が殺到し、寅さんをさながら兄か弟のように感情移入していた視聴者も多かったということが判明した。
事実、抗議の声の中には「よくも俺の寅を殺しやがったな」などという、まるで身内の仇にぶつける恨み節のようなものまであったらしい。
テレビドラマ版の存在は渥美清氏が亡くなった後に追悼特番等で一部が再放送され、知らなかった世代にも改めて知られる事になった事や結末が悲しいものだった衝撃を与えた。
テレビドラマ版は第一話と最終話のみでしかこの世に存在していないとのこと。理由は記録する放送用テープが高価で一話と最終話以外では1本のテープが使い回されていた為(ちなみに、これは本作のみならず他のドラマも同様で、実際NHKの大河ドラマも初期に製作された作品は本編の映像がほぼ現存していないという事情がある)。テレビ放送がモノクロであり、家庭用ビデオデッキが無かった時代であるので一般人が録画する事も不可能であった。
いずれにせよ、先の反応に手応えを感じて、一部キャストや登場人物を変更して製作されたのが映画版「男はつらいよ」の第一作である。「生きていたのね」とさくらが驚きとともに寅を迎えるが、これはTV版に対するアンサーにもなった。本来はこれで終わる予定だったが、人気のため想像を超えた長寿作となっていく。
なお、「ハイビスカスの花」ではおばちゃんが寅次郎の消息について「ハブに噛まれて死んだんじゃないのかい!」と言うシーンがあるが、言うまでもなくこれはドラマ版最終回の出来事をネタにしたものである。
伸びに伸びた結果、第50作まで製作し、そこでシリーズを完結させるという道筋が作られた。この作品では老いた寅次郎が今度こそその生涯を終えるものだったという。そのプロットでは寅次郎は香具師を引退して用務員となった晩年だった(同時に、甥の満男が恋人の及川泉とめでたく結婚するという展開が予定されていた)。
しかし演じていた渥美清がついに病のため没してしまう。これを受けて二代目寅次郎を据えて(実際レギュラーキャストの入れ替わりは何度かあったため)シリーズを続行する話も出たが、長年寅次郎を演じた渥美清以外に適役は見つからなかった為、結局立ち消えとなった(※1)。
松竹映画で追悼の意味を込めた西田敏行主演の「虹をつかむ男」のラストでCG処理であるが、寅次郎が登場している。これがその時点では銀幕で最後の寅次郎の登場となった。
※1 長年、男はつらいよと併映されてきた「釣りバカ日誌」も、「男はつらいよ」と並んで松竹映画の二大ドル箱作品となっており、「男はつらいよ」終了後も引き続き牽引していたが、こうした事態に至った反省からか、主演だった西田と三國のシリーズを重ねる事による高齢化もあり、主演二人が存命の内に劇場版「釣りバカ日誌」も完結した。
お帰り 寅さん
時は流れて、シリーズ50周年プロジェクトとして第50作「男はつらいよ50 お帰り 寅さん」で、令和の新時代に銀幕で寅次郎が帰ってくることとなった。
先に記した予定と異なり、新たな主人公に小説家となった満男を据えて、登場人物の現在と過去作品の映像を織り交ぜたものとなる。ちなみに当該作では寅次郎は48作目の出来事の後に消息不明になったという設定になっており、あえてその生死は明らかにされていない(※2)。
※2 もっとも、20年以上も実家に戻らず、その間何の連絡も寄越していないことを鑑みると、寅次郎もまた旅先のどこかで病に倒れたり災害に巻き込まれるなどして現在は既に死去している可能性も考えられる(実際、寅次郎は劇中では確認できる限りでは身分証明書の類は一切持っていない。もし仮に旅先のどこかで死去したとしても、これが祟って身元不明のまま処理されてしまい、家族に連絡が行っていないと考えても不自然ではない)。あえて生死に言及しなかったのはファンの夢を壊したくないという製作側の配慮故と思われる。
少年寅次郎
NHKにおいて、少年時代の寅次郎を描いたドラマが放送された。
幼少期、父と喧嘩別れするまでのエピソードを描いている。
ストーリー
主人公である車寅次郎が、何かの拍子に故郷の葛飾柴又に戻ってきては大騒動を起こす人情喜劇。毎回旅先で出会った「マドンナ」に惚れるが、その後マドンナの恋人が現れたり、寅次郎自らが相手の事情を察して身を引くなどして失恋。結局は恋愛が成就せず、気を紛らわすかのように再び旅に出るというのがお決まりのパターンとなっている(マドンナと色恋沙汰に発展しなかった作品もあるなど、一部例外もある)。
冒頭の寅次郎の夢
寅次郎が冒頭で居眠りして見ていた時の様々な奇想天外な「夢」のシーンは、実は本編を全て撮り終えた上で一番最後に撮影されたものであった。しかも出演者にも内容は直前まで秘密だったらしく、これ専用の台本を用意していた等徹底的に秘匿していたという。