曖昧さ回避
ゲーム用語「ヒットポイント」(HP)
ヒットポイント(Hit Point)とは、ゲーム全般におけるキャラクターの能力値の一つで、生命力・耐久力・体力を示し、作品によってはライフ(life)やバイタル(vital)、ヘルスポイントなどともいう。
対照的に精神的なスタミナを表現するMP(マジックポイント、メンタルポイントなど)が存在するゲームも多い。
ヒットポイントの意味
危険に満ちた冒険(あるいは戦争)の中で生存するために最も重要な値であり、残量には常に気を配る必要がある。
一般的なヒットポイントの扱いとして、
- 敵の攻撃や罠によるダメージで減少する。
- 傷薬や回復魔法等で回復できる。ただしその時点での最大値以上にはならない。
- HPが0になると死亡(もしくは行動不能)状態となる。
- HP0からの回復(蘇生・復活)には専用の手段が必要となる(作品によってはその手段が存在しない。SRPGではこの傾向が顕著)。
等が多くの作品で共有されている。
例外として『SDガンダム外伝』などでは、キャラクターの生命力、攻撃力(命中率)、防御力(回避力)等を含む総合的な戦闘能力をHPとして数値化している。単なる体力=行動回数や時間の制限を示しているゲームも多い。
種族や職業(クラス)に対して「とにかく頑丈(HPが膨大)」「ダメージに対して脆弱(HPが僅少)」などの特性を表現できる。
モンスターの特殊能力や、魔法のかかった希少な武具の特殊機能として「HPの自動回復」というものがあり、敵側がこれを備えていると非常に厄介だが、味方側がこれを確保できると非常に有利になる。ただし過信は禁物。
ヒットポイントが示すもの
ゲームシステムにもよるが、例えばHPが同一の戦士と魔法使いが同じ肉体の頑健性を持っている、とされることは殆どない。1レベル戦士の10倍のHPを持つ高レベルの魔法使いが、10倍の肉体的な頑健さを持っていることにはならない。
TRPGでは生命力、耐久力などの能力値とは別にヒットポイントを計上するのが普通。現在多くのゲームでは、キャラクターの特定のスペックを表現しているのではなく、経験によって身に付けたダメージを軽減・回避・立ち回り・耐忍ぶ力などを示す総合的な負傷耐性・継戦能力と認識されており、TRPGでは補助能力値と表現することもある。
この考え方は現在では多くのゲームで共有されているが、RPGの黎明期から存在しており、『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ Player's Handbook』(1978年)で既に以下のような記述があるらしい。
- モンスターと同じように、キャラクターのヒットポイントは様々である。これらヒットポイントはキャラクターが殺される前に、どの程度の(実際あるいは潜在的)ダメージに耐えられるかを表している。ヒットポイントの内のある量は、耐えうる物理的な処罰を表す。一方、高レベルにおけるヒットポイントの大部分は、熟練、幸運、および、あるいは魔法による要因である。
- 典型的な兵士は殺される前におよそ5ヒットポイントのダメージに耐えうる。それでは、55ヒットポイントを持ち、耐久力から30ポイントのボーナスを得た合計85ヒットポイントの10レベルファイターを仮定してみよう。これは約18ヒットダイスのクリーチャー、4頭の巨大な軍馬を殺すために必要な量と同等である。たとえ驚異的な戦士でも、ここまでの処罰に耐えられるなどというのは馬鹿げている。これは比較的弱いクレリック、シーフ、その他のクラスにも同じように当てはまる。したがって、ヒットポイントの大部分は戦闘能力、(超自然の力によって授けられた)幸運、そして魔法の力を象徴しているといえる。
アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ - ニコニコ大百科より。
現実との齟齬
現実の人間はヒットポイント制で生きているわけではない。些細なダメージでも激痛で動けなくなったりするし、脚の骨や筋肉にダメージが与えられると歩けなくなり、半永久的な欠損、身体障害者にもなりうる。これを(少なくと序盤は)カリカチュア的に表現していたのがゴブリンスレイヤーだろう。こうした現実的な損害を「回復すれば元通り」のヒットポイントは上手く表現できない。
身体を部位に分けそれぞれにHPを定めてダメージを表現するシステムも時折存在する。例えば腕のHPがゼロになれば腕が使えなくなる、HPゼロを大きく下回れば骨折や部位欠損に繋がる、また部位ごとのHPは身体全体のHPとリンクしている、など。すぐキャラクターに行動制限を強いることになる上、プレイヤー側のダメージ管理の負担が大きいため、ロボゲーなどを除けばそこまで普及はしていない。TRPGでは煩雑さから輪をかけて敬遠されがちなものの、ウォーハンマーRPGなど部分的に導入しているシステムも存在する。
なお、地味にヒットポイントで上手く表現できる存在に、植物がある。植物は根の繁茂や土の状態などで全体の健康状態が決まり、たとえ一部が欠損しても全体として健康なら再生可能、という種類が多いからである。
ヒットポイントの歴史
RPGの元祖である『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下D&D)で既に採用されており、SLGなどの分野でも幅広く使用されている。しかしむしろ、ヒットポイントはウォーシミュレーションゲームに由来し、RPGの成立にSLGが与えた影響を示す名前である。
このことを踏まえてか、FFTシリーズのように直接RPGと関係を持たない、スーパーロボット大戦のようなゲームであっても、ヒットポイントや経験値システムを具備していれば、シミュレーションRPGと呼称されることがある。
由来
このパラメーターはその由来をRPG(TRPG)登場以前のウォーシミュレーション・ボードゲームにまで遡る事ができる。
この分野のゲームでは戦車や歩兵などのユニット(駒)の防御力や耐久力を攻撃命中率の増減で表現することが一般的で、攻撃が命中すれば撃破できるというシステムであり、運さえ良ければ歩兵の銃撃で戦車を撃破することも可能となっていた。類似のシステムは大戦略シリーズなど初期のコンピューターシミュレーションゲームでも見られる。直感的にはおかしな状況だが、これらはひとつの駒(ユニット)で一部隊などの複数体を示すことが一般的であり、ゲーム全体としてはそれで十分で、ゲーム進行を煩雑にしないメリットも大きかった(ボードゲームでは、人間が行う処理の負担を軽減することは重要)。
しかし様々な兵科が混在するゲームだと、配備コストが掛かる戦艦や空母のような巨大な艦船ユニットがかんたんに撃破される、バランスを破壊する奇妙な状況が発生してしまう。これを解決するために導入されたのが、「大型ユニットは複数回の命中を経ないと撃破できない」というルールであり、これがヒット(命中)ポイント(点)の起源となった。
つまりヒットポイントの起源は、ウォーゲーム特有の攻撃側の視点で表現された、「撃破に必要な命中回数」のことだったようであり、その値は概ね一桁、大きくても20ポイント程度だった。この(被)命中回数はしばしばトークンを置くことで示される。
このシステムがファンタジーシミュレーションゲーム『チェインメイル』を介して、それを基に開発された元祖RPGのD&Dに導入され、現在のような体力、耐久力を総合的に表すゲーム上の数値となったと考えられている。
初期
古いRPGがしばしばデッドリーなシステムであることは知られているが、これは上記の由来に関連する。せいぜい20ポイント程度であったヒットポイントは、D&Dでも同様であり、初期作製(1レベル)PCは多くが一桁のHPになる。
しかし、武器の威力によって与えるダメージ、すなわち減少するヒットポイントが異なるというシステムが導入されたことで、1レベルのキャラクターは一発の命中で容易に殺害されるようになった。また、運が悪ければ1ポイントのPCも十分ありえたため、ダンジョン内でちょっとすっ転ぶだけで即死しかねなかった。また、当時はヒットポイントがゼロ=即死というシステムが一般的だったため、このデッドリーさに拍車をかけることになる。
レベルが上昇すれば最大HPも加算されていくため、D&Dの1レベルのキャラクターにとっては生還することが何よりも重要なミッションであった。また、キャラクターの体の頑丈さを示す能力値は別に存在しており(耐久力、Constitution)、ヒットポイントに修正は与えるものの、ヒットポイントそのものではない。ここから、上述のヒットポイントは能力と技量・経験を統合的に示す補助能力値であるという認識も生まれている。
アンチ・ヒットポイント
これに異を唱えたシステムが、D&Dの翌年に登場したRPG『トンネルズ&トロールズ』(以下、T&T)である。キャラクターの能力を示す能力値があるのなら、ヒットポイントのような補助能力値を導入して多重の能力システムにせず、ダメージ耐性もそのまま能力値で示せばいいという思想のもと、T&Tはダメージを能力値の現在値減少で示すシステムになった。
当時のD&Dでは能力値がシステマティックに扱われる(例えば、筋力(Strength)の能力値は命中力とダメージ上昇にのみ使われる)が、T&Tでは能力値が一般行為判定と呼ばれる幅広い状況に適用されるため(D&Dの筋力に相当する体力度では、腕力を用いる状況…重い物を持ち上げる、ドアを叩き破るなどでも使用される)、ヒットポイントのような抽象性の高い補助能力値が不要との判断もあったのだろう。D&Dではめったに変化しない能力値は、T&Tではレベルアップによって上昇するようになっていた。
…ただし後世でヒットポイントが様々なゲームにおいて一般化したことを見るに、このシステムが広まることはなかった。
別名・表記ゆれ
外部リンク・参考文献
- ウォーロックMAGAZINE Vol.2「T&T研究室 第7回」吉里川べお・著