概要
正式な属名は「巨大な角」を意味するメガロケロス。新生代第三紀鮮新世後期(約200万年前)から 第四紀完新世(約7700年前)にかけて棲息したシカ科の哺乳類で、マンモスやケサイと並び、氷河期を代表する古生物の一つである。
化石はアジアからヨーロッパにかけて広範囲で発掘されており、現在までに7種が命名されている。最も有名なのは模式種かつ最大の種であるギガンテウス種で、アイルランドでよく化石が確認されることから、アイリッシュエルクやギガンテウスオオツノジカとも呼ばれている。
ギガンテウス種は最大で肩高約2.3m、体長3.1m、体重700kgにも達する。和名の通り非常に巨大な角を持ち、差し渡しは最大3.65m、重量は45㎏にもなる。この重い角を支えるため、首や背中の筋肉が発達していた。
名前から勘違いされやすいヘラジカやエルク(ここではワピチの事だが、ヘラジカも欧州ではエルクと呼ぶ)もいて、両者と身体の大きさもどこか近い(ワピチは亜種「ルーズベルトエルク/オリンピックエルク」に限定で、ヘラジカの最大体重は820kgだが)。だが、近年の調査によって、アカシカと比較的遺伝的に近く、ダマジカとは姉妹系統であるが判明している。
ちなみに、史上最大の鹿は(おそらく)ブロードフロント・ムースであり、肩高が2.5m、体重1.2tになったと思われる(参照)。
※オオツノヒツジは全く別の動物。
ヤベオオツノジカ
属名はシノメガロケロス(「中国のメガロケロス」の意)で、メガロケロスとは別属。第四紀中期更新世(約30万年前)から更新世末(約1万2000万年前)の中国や日本に棲息した。
メガロケロス属よりは小型だったが、それでも肩高1.8m、体長2.6mに達した。
角がだいぶ小ぶりだが、これは山岳や森林の多い日本列島に適した姿とも言えるだろう。また、これとは別の特徴的な角を持つ種類も日本にいた。
ちなみに、大陸に見られた同種類よりも大型とされているが、これは大陸と日本が連結していた故だと思われ、日本列島が大陸から孤立した後も絶滅していなければ、島嶼矮小化が発生して小型化していた可能性もある。
南方種だが氷河期の北海道まで進出しており、北方種のヘラジカと日本国内における分布が似ていた。
絶滅の原因
以前は角のためにかなりのカルシウムを必要とするため、気候変動による植生の変動にも弱かったのでは?という意見もあったが、最近になって角は絶滅に関係なかったという調査結果が発表された。
それよりも、人間の拡散が原因で世界の大型生物層が壊滅したとする説が有力になっており、ナウマンゾウやマンモスなど、数多くの古生物とともに、オオツノジカ達も人類との接触が元凶で絶滅したとされる。
オオツノジカは、数年前までは1万年以上前に絶滅していたと思われていたが、新たな化石の発掘により少なくとも約7700年前まで生きていた事が判明した。また、ニーベルンゲンの歌に見られる「Shelch」と呼ばれる動物とギガンテウスオオツノジカを関連付ける者もおり、紀元前700~紀元前500年ごろまで少数がスティリア地方や黒海にいたという説もある。
ヤベオオツノジカに関してもオオヤマネコと共に縄文時代まで生存していた (オオツノジカの最近の化石は約1万2千年前)。また、上記の通りヤベオオツノジカの角は他の種類の角よりかなり小型で横幅も狭く森林生活により適しているだろう事、ヘラジカが森林に生息している事等から、これまでにあった「日本では気候変動によって森林が増えたからオオツノジカは角のせいで絶滅した」という説も通用しなくなる可能性もある。