ICE(列車)
あいしーいーまたはいーつぇーえー
ICEは、ドイツ鉄道(DB AG)が運営する高速鉄道、もしくは列車種別である。
インターシティ・エクスプレス(InterCityExpress)の略であり、現地では頭文字を取りドイツ語読みで「イー・ツェー・エー」と読まれる(英語圏では「アイ・シー・イー」と読む)。ドイツ全土に路線網を広げており、航空機に対抗している。
概要
ドイツにおける高速鉄道の開発は1980年代末に当時の西ドイツ国鉄(ドイツ連邦鉄道、DB)開始され、1985年には試験車両が完成し1988年には当時の世界最高記録である406.9km/hを達成。
ドイツ統一後の1991年にハノーファー(ハノーバー)~ヴュルツブルク間およびマンハイム~シュツットガルト間の高速新線が開通。
それに合わせる形でまずハンブルク~ハノーファー~フランクフルト(マイン)~シュツットガルト~ミュンヘンで営業運転を開始。
その後もICEは好評で、1992年には初の国際列車となるスイスのバーゼル、チューリッヒに乗り入れ、1993年には統一ドイツの首都ベルリンにも足を伸ばした。
1998年にはオーストリアのウィーンに乗り入れ、さらにベルリン~ハノーファー間の高速新線も開通した。
2000年からはオランダのアムステルダム、ベルギーのブリュッセルまで直通が開始され、2007年からはフランス国鉄(SNCF)の東ヨーロッパ高速新線開通に伴い、フランスのパリまで直通が開始された。時を同じくして、長年のライバルであるTGVがフランクフルト(マイン)まで直通運転を開始している。
車両
ICE V
1985年に完成した試作車両。落成当初はInter City Experimentalと呼ばれた。
機関車が客車を挟む一般的な方式だが形式は410形/810形(410系)とされている。
旧西ドイツ国鉄の番号規定では電車ということになっているが、これはあくまで固定編成での運用が前提であり、他の列車への転用は想定されていないためである。後に登場するICE車両も、同様の方式をとっているが車両形式の上では電車ということになっている。
量産車の登場を前にICE Vに改称され、分割併合装置などの試験を行っていたが2000年に廃車。410系の形式は事業用車に引き継がれている。
ICE 1
形式401系。動力車の401形、および客車の801/802/803/804形で構成される。
1989年から1994年にかけて60編成が製造された。西ドイツ国鉄としては最初で最後の高速鉄道用営業車両となった。
1998年のエシェデ事故により1編成が一部廃車となり、編成替えを行ったため現在は59編成となっている。
ICE 2
形式402系。動力車の402形、中間客車の805/806/807形および制御客車808形で構成される。
ICEの路線網拡大に伴い、1995年に登場した。これは、導入区間によってはICE1では輸送力過剰となってしまう可能性があったため、編成を8両(動力車含む)まで短くし、一端を制御客車とし、多客時は2編成を併結することで輸送力を調整しようというものである。44編成と予備の402形2両(→410形100番台)、予備の808形1両が製造された。
ICE S
形式410系100番台。先述のICE2の予備動力車2両と新たに新造した電動客車1両とで組成された試作車。動力分散方式の試験車両で、この車両の成果をもとにICE3が製造された。試験車としての役目を終えた後は検測車となり、高速新線の検測にあたっている。いわばICE版ドクターイエローのようなものである。
ICE T
ICE2の登場以後、ICEの路線網は順次拡大され、旧東ドイツ地域にも足を伸ばすようになった。しかし、高速新線の建設にはコストがかかるため、在来線を改良することになったのだが、旧東ドイツ地域はカーブが多いため、従来の方式ではスピードアップは難しいと考えられた。
そこで1999年より開発されたのが振り子式電車のICE T(=Tilt technology)である。
車体傾斜装置はフィアット(後に鉄道部門はアルストムへ売却)が担当したため、車体こそICEシリーズの流れを汲んでいるが実際はイタリアの特急電車ペンドリーノの系統であることがわかる。
ICEシリーズでは初の動力分散方式で、7両編成と5両編成とがあり、前者は411系、後者は415系と称される。
ICE 3/3M/3MF
1990年代から建設が進んでいたケルン~フランクフルト(マイン)間の高速新線向けに2000年より製造が開始された。同高速線はトンネルなどを少なくして建設費を抑制したために40パーミルもの急勾配ができてしまい、それまでのICE1、ICE2では急勾配に対応できないため、重量が軽い動力分散方式が採用された。これがICE3である。
さらに今後オランダやベルギー、フランスへの国際列車を運転する計画があったことから、多電源仕様としたタイプも開発された。
これがICE3Mで、このうちフランス直通対応車はフランス高速新線の保安装置を搭載する改造を受けておりICE3MFと呼ばれる。
形式はICE3が403系、ICE3MFが406系である。なお、403系は旧西ドイツ国鉄時代に開発された特急形電車(通称『ドナルド・ダック』)がかつて同じ形式を名乗っていて、現在のICE3用車両で2代目となる。また、英仏海峡トンネル対応のバージョンも現在導入中であり、こちらは407系と呼ばれている。403/406系と407系ではデザインに相違が見られる。
ICE TD
形式605系。先述のICE Tの気動車バージョンであり、ICE網を非電化線区にも拡大すべく2001年より開発された。車体傾斜装置はシーメンスが開発したが、この装置がなかなかの曲者でトラブルが頻発、マトモに動ける時のほうが珍しいという事態になってしまった。
調子こくと失敗するのがドイツらしいというかなんというか…。結局2003年には運転を中止されて以来休車になり、動いた時といえば2006年のワールドカップ輸送ぐらいであった。
そんな中で、ハンブルクとデンマークのコペンハーゲンを結ぶ『渡り鳥コース』で使用しているデンマーク国鉄の気動車IC3が老朽化したため、代替の車両が必要となった。そこでICE TDに白羽の矢が立ち、同路線に投入されることになった。現在はこの渡り鳥コースで運転されている。なお、この区間への同車両の投入により、ICE網はデンマークへも拡大した。