概要
「小説家になろう」に連載された小説。書籍化・コミカライズもされている。カクヨムでも掲載中。
単行本は小説、漫画いずれも主婦と生活社から発売されている。
一言でいえば「追放もの」の現代社会人版という皮を被った人間ドラマ。
タイトルからは想像できないかもしれないが、追放ものにありがちな「頭の悪い加害者の自滅を描くざまぁ展開」がメインでなく、明日がちょっとだけ笑顔になれるような心温まる内容となっている。
詳しい雰囲気を知るには、伊於が無料公開している漫画版の3話までを読むべし。
2023年11月22日には『ネット流行語1002023』に、まさかのノミネート。なろう作品で唯一と言っていいようなノミネートで、結果が待たれる。なお、ニコニコ大百科には該当項目はない模様。
あらすじ
社内システムをワンオペしていた佐藤愛は、社長交代を機に解雇予告を受ける。
退職後、ファミレスでひとり悲しみに暮れていた愛は、幼馴染の鈴木健太と再会する。
そして健太は彼女を自らのスタートアップ(新規事業)に招待した。
相手の心に寄り添うために始めた事業、その名は「真のプログラマ塾」。
佐藤愛の熱く、時に破天荒な講義で受講生たちは少しだけ前を向く。
ストレス社会で頑張る全ての人たちへ。
明日がちょっとだけ笑顔になれるお話です。
登場人物
- 佐藤愛
この物語の主人公。平成生まれの理系で28歳(尚、年齢を気にしているらしい場面はある)。
SEとしては一流でありそのソースコードは後述の健太に「芸術品」とよばれるもの。彼に雇われたのも縁故ではなく純粋に実力での採用である。
オタク趣味と仕事の両立を目指してRaWi株式会社に就職したが、その実態は技術を軽視するSEにとってのブラック企業だった。
深夜残業や会社の宿泊で心を、バランス栄養食とエナジードリンクで命をすり減らす現状を変えるべく自作のコスプレ衣装を纏い、同僚と推しの力を借りながら5年かけて社内システムの自動化をワンオペで成し遂げた。しかし、イメクラ並のコスプレ衣装での業務を新社長に見られた事であっけなく解雇されてしまった。
途方に暮れた彼女であったが、偶然にも幼馴染の健太と再会。彼が新規に立ち上げるベンチャー企業「真のプログラマ塾」に講師として招かれる。
上記の通り思春期はスマホでアニメや漫画、夢小説を見ながら育っていたオタク。ニチアサ好きだが深夜枠もイケるクチ。さらにそっちの素養はもちろん罵倒の語彙を見るにあっちの知識も十分な模様。
また、コスプレ衣装で業務、講師をしている事から、社員はおろか客からも頭を抱えている(実際、後任のSEの会話からもイメクラ並の格好も含めて問題視されていた)。かと言って、コスプレも自らの心を守る事を目的としていたのか、肝心かなめである衣装となりきりは粗がみられ、原作に深い知識を持つ者からは酷評されている。
そんなこんなで非常識な部分が目立つが、仲間思いで優しい部分もあり、RaWi株式会社に勤務していた頃はその人柄で周囲に慕われており、自らのアドバイスで悩みを抱えた受講生を少しだけ好転させる事もある。
- 鈴木健太
佐藤愛の幼馴染である男性。
幼少期とは一緒に遊んでいたものの、中学になってからは徐々に疎遠となり、高校の頃には会わなくなった。
社会人になってからはベンチャー企業「真のプログラマ塾」を設立しており、そんな折に無職になってしまった佐藤と再会。オルビラシステムを作り出した彼女への仕打ちに悔しさを覚え、佐藤の「輝ける場所」を作ると約束してヘッドハンティングした。
相手の心に寄り添う事を最も大事にしており、佐藤がコスプレ姿で勤務する事を許可していたが、一方で常識的な部分を持ち合わせているが故に頭を抱える事もある。
- 音坂翼(おとさか つばさ)
健太とは大学時代の同期。
容姿がイケメンであり、性格もおっとりとしている事から初対面である佐藤をときめかせた。
- 小田原茂(おだわら しげる)
妻子持ちのサラリーマン。32歳。
正社員兼プログラムを書かないSEとして多彩な業務に従事しているが、人員不足の会社で様々な仕事を押し付けられて忙殺されている。加えて、会社の方針が変わった事で外注のシステムを自社製に変える事となったものの、それに必要なプログラムの運用と改修に悪戦苦闘した。
納期やタスクの整理、残業による疲労で家は寝てばかり、それが祟ってか子供からも嫌われ気味で、妻も羽虫を見るような目で邪険に扱われていた。
会社でも家庭でも「手詰まり」な状況に自らの働く理由にさえも疑ってしまったが、通勤途中の駅で見かけた「真のプログラマ塾」の張り紙を見た事で今の状況を打破するべくプログラミングの無料体験に申し込んだ。
コスプレ姿の佐藤に大いに戸惑いながらも鈴木によるアドバイスを受け、その佐藤からある言葉を耳にして疲れを理由に今まで疎かにしてしまった家族と向き合う事を決心。
娘とはニチアサのアニメを視聴する事で、妻には感謝の言葉をかける事で家庭での状況は好転することができた。これにより、定期受講を行う事を決心した(尚、佐藤のコスプレ姿は痛烈に批判したが)。
- 本間百合(ほんま ゆり)
ゲーム会社で働いている女社員。
情報系の学部を卒業後、プログラマ志望で入社したのだが「いつ休むかわからない女には厳しい」という理不尽な理由でプランナーに配属されてしまった。
当初は転職を考えたものの経歴に傷が付く事を恐れて一年は我慢したのだが、課長の原によるパワハラ三昧、自身が訴えても封殺される社内政治、仕事を押し付ける癖に原に媚びるだけの男性社員、と社内では孤立していた。
当然ながら終電を逃がすほどの残業に陥っており、加えて肝心の転職活動も上手くいってなかった。そんな日々を送ったせいで自信を失いつつあったが、「真のプログラマ塾」の張り紙を見た事でそれに賭けようとプログラミングの無料体験に申し込んだ。
その後は退職をし、一か月後に佐藤に紹介されたゲーム会社で働いている(なお、退職自体は原に突っぱねられたが、退職代行サービスの力を借りたおかげで事なきを得た)。渡辺や松崎といった社員たちと切磋琢磨をしながら職務をこなす中、自分を連れ戻そうと電話をかけた原に(ある意味ではあるが)復讐を果たした。
負けず嫌いで、良くも悪くも態度を示す人物。その為、唾棄する人間に対しては侮蔑な態度を取っているが、反対に尊敬できるような人に対しては不器用ながらも感謝している。しかし「真のプログラマ塾」に訪れるまでは好意を示す言葉を口にしたことがなかった。
加えて、会社では誰も自分を助けてもらえなかった男性不振に陥っており、鈴木ではなく佐藤を指名したのもそれが理由。また、金銭面に余裕がないのだが、大卒である事やプライドの高さが足を引っ張ってアルバイトをしようとしなかった。しかし佐藤のアドバイスによりそれらを払拭する努力をした。新しい職場であるゲーム会社の職員達からは「ツンデレさん」と弄られながらも、そういった環境を悪く思っておらず、同じく転職した松崎が自分と重なっていた事から、彼とも交流を重ねた。
佐藤と同じくオタクであるが、こちらは原作に深い造詣と経緯があって成り立つタイプであり、佐藤のコスプレ衣装やなりきりを見るや「解釈違い」と酷評していた。
- 新社長
RaWi株式会社の新社長。漫画版では髭を生やしたふくよかな男性。
海外を中心に多くの実績を持っており、投資事業の失敗の責任を取る形で辞職した前社長に代わって就任。組織の再編成としてコスト削減を考えており、いくつかの部署を不要とし、それにより余った人員を「希望退職」という体で解雇を行っていた。
これは、プライドだけが肥大化した従業員が不要なコストを生み出すと考えており、切り捨てた従業員に逆恨みされながらも会社を発展させるという考えがあった。
しかし同時に、コスプレ姿で勤務していた佐藤愛の苦悩を見抜けず、更には社内システムを自動化するオルラビシステムを作り出したにもかかわらず、「一人で出来るならば誰でも出来る」という理由で後任を育てる事なく解雇させた。
そもそも、多忙に追われるエンジニアの事情を慮っておらず、寧ろエンジニアを何人月みたいに数字でしか見ていないが故にエンジニアの要望をロクに聞かない、とブラック上司ぶりを見せる。
- 秘書
RaWi株式会社の新社長の秘書。書籍版では容姿や性別に触れなかったが、漫画版では黒縁眼鏡をかけたロングヘアの女性秘書。
新社長による再編成により解雇させた佐藤愛を「コスプレ女」と嫌味をぶつけている。
しかし佐藤愛解雇後の会社の混乱に焦りを隠せなくなっていく。
- 松崎
RaWi株式会社の部長→ゲーム会社の社員。困り眉が特徴な年配の男性。
佐藤の働きぶりを評価しており、彼女を解雇した新社長に異論を述べるも「一人で回る仕事など本当に必要なのか」と一蹴されてしまった。
この人事にどうする事も出来なかったのか、転職活動と有休消化をする形でRaWi株式会社を後に、あるゲーム会社に就職。
技術力こそ高かったものの、話題が合わなかった事から他の社員となかなか打ち解けられずしまいだった。しかし、佐藤の紹介で入社した本間に助けられることとなった。
- 千里
RaWi株式会社のSE(前職は派遣社員である為、中途で採用されていた)。名前は漫画版で判明しており、WEB版や書籍版では後輩社員と明記されている。
佐藤が解雇された後に数人のSEと共に配置されたが、オルラビシステムの管理に悪戦苦闘しており、新社長に人員の増員と佐藤愛の復職を頼み込んだが聞き入れられなかった。
埒が明かない状況に不満を爆発させ、先輩社員と共に転職をした。
- 原(はら)
ゲーム会社の課長。
相手を馬鹿にするような悪意がにじみ出ており、社員に対して数々のハラスメント行為を繰り返していた。とりわけ本間に対して常習的にパワハラを行っていた事から、本間からは「最初から最悪のクズ野郎」とかなり恨まれていた。しかも自らの所属する組織は、自分よりも上の立場に目が届かないように社内政治を行い、社員が退職しようならこれを突っぱねていた。それを課の残業時間も少なく離職率も低かったと部長に嘘の報告をしていた。
だが本間の退職を阻止できなかった事で部長に露見してしまい、部下共々とある離島に出向させられる事となった(ちなみに部長は降格処分を受けたが、恐らく監督不行き届きに加えて島流しにされる原の後任と推測される)。
それを恐れた原は本間を連れ戻そうと電話し、同情を誘うために態度を翻して自分が受ける処分を話したが、本間に拒否されてしまい失敗に終わった。
ちなみに妻と中学生になる娘がいるらしいが、上記の事情を考えれば(自業自得とはいえ)離れ離れになるのは避けられなくなった。
- 渡辺(わたなべ)
本間が新たに就職したゲーム会社の社員。
他の社員もそうであるが、本間の仕事ぶりを高く評価していた。
漫画版ではふくよかな体格をした男性と容姿が明かされたほか、何日も泊まり込んで他の社員に注意された場面もあった。
- 神崎央橙(かんざきえいと)
いわゆるインフルエンサー。32歳という若さですでに一つのスタートアップを上場させその事業を売却して海外に挑戦しているAIエンジニアにして起業家。
佐藤愛解雇後の会社の混乱を収集させるスキルを持つ人物としてRaWi株式会社の新社長に目を付けられ、オルラビシステムの後継管理者にならないかと打診されるが、ごくわずかな会話の中から新社長の「誰でもいいから能力が高そうな技術者を捕まえたいだけ」という性根を見抜き、報酬さえ聞かずにその話を蹴る。
…実のところ、彼のプライドを傷つけずに事業提携に持ち込めていれば佐藤愛解雇後の会社の混乱を収集させられた可能性は高い。
故に、新社長が佐藤愛に憎悪を募らせるのは完全に逆恨みである。
作中用語
- RaWi株式会社
AIと情報技術に特化した会社。
大手の企業である一方で技術者を軽視するという問題点がある。その為、SEは深夜勤務や会社泊まりを余儀なくされ、実際に心を壊したSEも出た。
その一人である佐藤はそういった現状を変えるべく、社内システムの自動化を5年もかけて完成して利益率の向上に貢献していた。
しかし投資事業の失敗による業績の悪化により前社長は引責辞任、更には新社長によるコスト削減でいくつかの部署を排除し、他の部署からもこぼれた人員をリストラしていた。
しかも佐藤が解雇された事で不満を露にした同期が次々と離職、更には後任のSE数人ではオルラビシステムを扱いきれず、問い合わせ関連が混乱する事となった。
名前の由来は作者が運営しているサイト「なろうRaWi」から。
- オルラビシステム
佐藤愛が開発したシステム。
開発元も使用言語も用途も全く異なるシステムの連携を可能としており、これにより従来は不可能と言われた自動化が出来るようになった。
コンピュータを用いた仕事を手動ではなく、プログラムで完結すれば一分もかからずクリアできる。
とはいえ、自動化したといっても全ての業務を完遂できる訳ではなく、機械を動かすには人間による命令が不可欠である。
ヒトの判断が必要となるのは、機械的に判断する事が不可能な条件のみとなっているが、それがあまりにも複雑となっている。
これを一人で管理するには、佐藤のような高度な脳内パソコンを持った技術者が必要であり、佐藤が解雇された後に配置されたSE数人がこれの管理に四苦八苦していた。
とはいえ、佐藤愛以外にも管理出来るであろう技術者はいるにはいるが、それだけの技術者を引き抜くには報酬以外にも誠意や信用というものが必要なのである。
また、このシステムが株式会社RaWiのあらゆるシステムの命綱となっているため、これが停止すれば全システムが機能しなくなる。
外部リンク
小説版
漫画版