枕詞
和歌に用いられる「枕詞」の一種で、「神」や「宇治」を導く言葉。
仮名表記は「ちはやふる」だが「ちはやぶる」と読む。
落語
概要
「千早ぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」(在原業平朝臣)
を元にした滑稽噺。
「百人一首」「無学者」などの別題もある。
逸話など
- 博識な隠居が出鱈目な講釈を垂れる前座噺。同様の噺に「薬缶」「つる」などがある。
- 百人一首の珍解釈噺は他にもおおく、「千早振る」を含め立て続けに披露する形もある。下記「百人一首が題材の落語」も参照。
- 成立は安永年間。上方落語の初代・桂文治の作と云われ、何度も改作を繰り返して現在の形になった。上方、江戸どちらでも演じられる。
- 五代目古今亭志ん生が得意にしていた根多として知られる。
- 本来の歌の意味は「神代の昔にも聞いたことはない。一面に散った紅葉で竜田川が鮮やかな紅に染め上げられた、この絶景は」というようなもの。竜田川は奈良県に現存する河川で龍田神社などは紅葉の名所ではある。だが、和歌に詠まれた竜田川は、現在の河川法に照らし合わせると実は大和川本流に含まれる辺りなので、微妙にエリアが異なるらしい。
あらすじ
八五郎に「在原業平の歌の意味を教えてくれ」と頼まれた長屋の御隠居。実は知らないのだが、普段から物知りの先生とおだてられているだけに「知らない」とは言いにくく、苦し紛れに適当な解釈をでっち上げる。曰く…
竜田川というのは相撲取りの大関の名だ。花魁の千早太夫に一目惚れするが「わちきは相撲取りは嫌でありんす」と振られ、妹分の神与太夫にも「姉さんが嫌な人はわちきも嫌」と振られ、傷心の竜田川は廃業して実家の豆腐屋を継いだ。
十年後、竜田川の豆腐屋にボロを着た女きて「おから」をめぐんでくれと懇願する。哀れに思った竜田川が女の顔を見ると、なんと物乞いに身をやつした千早太夫の成れの果てであった。竜田川は「大関にまでなった俺が豆腐屋をやっているのはお前に振られたからだ。お前などにおからはやれない」といって、千早太夫をどーん!と突き飛ばす。井戸のそばに吹っ飛んだ千早太夫は己のしたことを悔やみ、井戸に身を投げて死んでしまった。
御隠居は言う。「千早ぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」というのはつまり「千早に振られ、神代にも話を聞いてもらえない竜田川がおからをくれないってんで、千早は水にくぐっちまった」ということだと。
なんとなく強引に納得させられた八五郎だったが、どうしてもひとつ気になることがあった。
「“水くくる”まではわかった。じゃあ最後の”とは”ってのは何なんで?」
聞かれた御隠居、苦し紛れに
「実はだな、よくよく考えると、千早太夫の本名が“とわ”だった」
百人一首が題材の落語
・陽成院:陽成院の歌を巡る迷解釈。本来の形ではこの噺を先に振ってから「千早振る」を続ける。
・崇徳院:一目惚れ同士の恋を巡るすったもんだを描く滑稽噺。元は人情噺「三年目」の前段。
・反故染め:芸妓が数々の歌を書いた反故染めの着物について語る上方の艶噺。
・高野違い:百人一首の紫式部の歌から始まり紫式部でサゲる、和歌を巡る滑稽噺。
・鶴満寺:小野小町の歌を元にした滑稽噺。境内での花見を許すなと和尚に言われた見張りが袖の下に釣られ、花見客と酒を飲んでしまう。
関連項目
ちはやふる (タイトルが落語と同じ、在原業平朝臣の歌由来)