概要
一定の語に冠して修飾または句調をととのえたりするものであるが、なぜこのようなものが生まれたのかは形式化して成立事情が不明であるものが多い。歌の意味を読み解く場合には考慮する必要はない。
原則として五音であるが、万葉集では『うまさけ』『そらみつ』など、四音のものもみられる。
あ
枕詞 | かかる語 | 例 |
---|---|---|
あおくもの | 出(い)ず | |
あおやぎの | いと・かずら | |
あかねさす | 日・昼・紫・照る・君 | あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る |
あかぼしの | 明く・飽く | |
あからひく | 色・肌 | |
あきかぜの | 吹上(ふきあげ)・山吹・千江(ちえ) | |
あきくさの | 結ぶ(上代の呪術信仰の一つとして草を結んで幸福を祈るところから) | |
あきづしま | 大和 | |
あさつゆの | 消(け)・命・おく(置く・起く) | |
あしひきの | 山・峰・尾の上・岩根・固有の山の名 | あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む |
あづさゆみ | 引く・はる(春・張る)・いる(射る・入る)・末・音 | 梓弓 引けど引かねど 昔より 心は君に よりにしものを |
あまざかる | 鄙(ひな)・向かふ・日 | |
あまとぶや | 鳥・雁(かり)・軽(かる)・領巾(ひれ) | |
あらかねの | 土 | |
あらたへの | 藤(ふぢ) | |
あらたまの | 年・月・日・春 | |
あをによし | 奈良・国内(くぬち) | あをによし 奈良の都は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり |
いさなとり | 海・浜・灘 | |
いそのかみ | ふる(布留・降る・古る) | |
いはばしる | 滝・垂水・近江 | |
うちひさす | 宮・都 | |
うつせみの | 身・世・人・うつしごころ | |
うばたまの | 黒・闇・夜・夢 | |
うまさけ | 三輪・三諸(みもろ)・三室 | |
おきつもの | なばる・なびく | |
押し照や | 難波(なには) | 直越の この道にてし おしてるや 難波の海と 名付けけらしも |
おほぶねの | たのむ・渡り・津・たゆたふ |
か
からころも | 着る・裁つ・かへす・裾・袖 | 唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ |
---|---|---|
くさまくら | 旅・結び・ゆふ・かり・露 | 家にあらば 妹が手まかむ 草枕 旅に臥やせる この旅人あはれ |
くずのはの | うら・うらみ |
さ
ささがにの | くも(蜘蛛・雲・曇)・糸・いづく | |
---|---|---|
さざなみの | 大津・志賀 | |
さすたけの | 君・大宮・舎人 | |
さにつらふ | 妹(いも)・君・色・紐・もみち | |
さねかづら | のちもあふ | |
さねかし | 相模(さがむ) | |
しきしまの | 大和 | |
しろたへの | 衣・袂・袖・紐・雪・雲 | 春過ぎて 夏来るらし 白たへの 衣干したり 天の香具山 |
そらみつ | 大和 |
た
たたみこも | へ・平群(へぐり) | |
---|---|---|
たまきはる | 命・世・うち | |
たまくしげ | ふた・箱・あく・奥・身 | |
たまだすき | かく・うね | |
たまづさの | 使ひ・人・妹(いも) | |
たまのをの | 長し・短し・絶ゆ・乱る・継ぐ | |
たまぼこの | 道・里 | |
たまもかる | 沖・敏馬(みぬめ)・処女(をとめ) | |
たらちねの | 母・親 | のど赤き 玄鳥ふたつ 屋梁にゐて 足乳根(たらちね)の母は 死にたまふなり |
ちはやぶる | 神・うぢ | 千早ぶる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは |
つがのきの | つぎつぎ | |
とりがなく | 東(あづま) |
な
なつくさの | 野鳥・思ひしなえ・しげき・深く | |
---|---|---|
にほどり居の | かづく・なづさふ・息長河(おきながわ)・二人並び居(ゐ) | |
ぬえどりの | のどよふ・うらなげ・片恋 | |
ぬばたまの | 黒・神・夜・妹(いも)・夢 | いとせめて 恋しき時は むば玉の 夜の衣を 返してぞ着る |
は
ははそはの | 母 | |
---|---|---|
ひさかたの | 天・雨・月・雲・光・都 | ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ |
ふゆごもり | はる(春・張る) | |
ほたるなす | ほのか・淡いもの |
ま
まがねふく | 吉備(きび)・丹生(にふ) | |
---|---|---|
みすずかる | 信濃 | |
みづくきの | 水城(みづき)・岡 | |
みづとりの | 浮き・立つ・鴨 | 水鳥の 鴨羽の色の 青馬を 今日見る人は 限りなしといふ |
む
むらきもの | 心 | むらぎもの 心にとひて はぢざらば よの人言は いかにありとも |
---|---|---|
もののふの | 八十(やそ)・五十(い)・宇治川・をとこ | |
ももしきの | 大宮 | 百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり |
や
やくもたつ | 出雲 | 八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を |
---|---|---|
やすみしし | 我が大君・我ご大君 | |
ゆふづくよ | 暁闇(あかときやみ)・をぐら | |
よどがわの | よど |
わ
わかくさの | つま(夫・妻)・新(にひ)・わか | 春日野は 今日はな焼きそ 若草の つまもこもれり 我もこもれり |
---|