概要
小泉八雲の民話集にその記述が見られる爪楊枝の精霊で、以下の様な話が伝わっている。
昔ある所に美人だが、不精者の娘がある侍の元へ嫁に嫁ぎました。
ある時、夫が戦へ出かけ、1人で嫁が寝ている時に枕元に何処からともなく現れた小指より小さな小男たちが何十男百と集まり、「ちんちん こばかま 夜もふけてそうろう おしずまれ 姫ぎみどの や とんとん(わたしたちは、ちんちんこばかまでございます。夜もふけました。おやすみなさい、ひめぎみさま)」と歌いながら踊り、時々チラチラと嫁の方を見て睨みつけました。
言葉は丁寧だが、自分を虐めるつもりだと考えた嫁は最初の内は男たちを追い祓っていましたが、男たちは逃げようともせず、捕まえようとしても素早く逃げ回るので捕まえることはできません。
そんな事が毎晩続いた結果、嫁は気味悪くて眠る事ができず、とうとう病気になってしまいました。
そしてそうこうしている内に夫が帰ってきました。妻が病に伏せている事に驚いた夫は妻から毎晩現れる化け物の話を聞くと、退治するべく押し入れに隠れて様子を窺っていると、真夜中に、なるほど妻が言っていた通り、裃を身に着け、腰に大小を差した小男たちが現れると「ちんちん小袴」をしきりの唄いながら舞い踊り始めました。
侍は素早く刀を抜くと畳すれすれに走らせると、小男たちはかき消す様に姿を消し、後にはただ古い爪楊枝だけが残されてしました。
それを見て夫は妻に言いました。
「ごらん。これが化け物の正体だよ。使った楊枝を何時までもきちんと始末しないから、爪楊枝が起こって化けて出て来たんだよ」
指摘された妻は瞬きもせずに、ただ畳の上に散らばっている爪楊枝をじぃっと見つめ続けてしましたとさ。