概要
ジャイガンティスとは、「ゴジラの逆襲」の海外版に登場する、ゴジラに相当する怪獣である。
「ゴジラ」が「怪獣王ゴジラ」となって、海外でも人気を得たため、「ゴジラの逆襲」も同じく海外バイヤーが購入。海外版が製作され公開される運びに。
当初は『The Volcano Monsters』のタイトルが付けられていたが、前作とバイヤーおよび配給会社が異なるために「ゴジラ=Godzilla」のタイトル及び名称の使用ができなかった。
また、前作でゴジラは死亡したため、別個体とはいえ同じ怪獣が出るのも不自然に思われるという配給側の懸念から、本作のゴジラは「GIGANTIS(ジャイガンティス)」という別の怪獣という扱いになった。
追加撮影
そして海外版が製作されるにあたり、大阪で死闘を繰り広げたゴジラ=ジャイガンティスとアンギラスが、海を渡りアメリカで再戦するという内容が追加。その際に東宝が新たな着ぐるみが作られてアメリカに送られ、追加撮影されることになった。
が、アメリカ側の着ぐるみ特撮の不慣れや、予算過多などの理由で実現されず、追加の特撮シーン撮影は無くなる。そして、1959年五月に、『GIGANTIS, THE FIRE MONSTER(火炎怪獣ジャイガンティス)』のタイトルで公開された。
後に1980年代に入ってから、海外版本作は東宝が権利を買い直し、『Godzilla Raids Again』というタイトルに。以後、これで通っている。
幻のゴジラ「ジャイガンティス」
上記のように、海外版が作成される際に、追加シーンの為に新たな着ぐるみが製作された事が記録に残っている。
しかし現存しているのは、1957年頃に、造型師の利光貞三らと共に撮影された1枚のスナップ写真のみである。この着ぐるみを用いての特撮の撮影も行われなかったために、映像も残されてはいない。
着ぐるみに関して
ジャイガンティスゴジラの着ぐるみは、アメリカ人演者に合わせて(身長180センチ)大きめに作られており、初代、逆襲版の二種と比較して「耳が無くなり」「足の指が三本」にされている。
また、下半身が太目、手も大きめで、次作『キングコング対ゴジラ』に登場したゴジラ、通称『キンゴジ』に近似している。
ゴジラの着ぐるみにおける「耳の削除」と「足指が三本」はキンゴジからであり、初代および逆襲版のゴジラには当てはまらない。
キンゴジの流用元か否か
特撮ライターのヤマダ・マサミ氏は、頭の形状なども含めジャイガンティスの着ぐるみが、キンゴジの着ぐるみの原型となったのではないかと推定している。
1958年に東宝に入社した造形の村瀬継蔵氏によると、キンゴジの着ぐるみの頭部原型は新たに作り起こしはしていないらしい。そのため、57年頃に造形されたと思しきジャイガンティスの頭部石膏型が残っており、それを流用してキンゴジの着ぐるみ頭部が造形された……という推測が成り立つ。
しかし、その着ぐるみの顔つきは、どこか初代・逆襲版ゴジラの面影も残している。
ジャイガンティスの着ぐるみ自体は当時に破棄されており、記録なども残されていない。そのため、詳細なデータは失われて現在に至る。
しかし……
後年になって判明した情報あれこれ
海外版ゴジラ編集作「怪獣王ゴジラ」。
公開された同作は大ヒットする。
その後、1957年。この海外版ゴジラの成功に続かんと、ハリウッドのプロデューサー、ハリー・リブニック、エドワード・バリソン、ポール・シュライブマンの三名が、東宝から「ゴジラの逆襲」の権利を共同で購入。
そして彼らは、前作「怪獣王ゴジラ」のような、「本編を編集」「追加撮影シーンの挿入」といった作りでなく、
「脚本を大幅改変」「日本の場面はほぼ無くす」
という内容にする事を目論んだ。
脚本家イブ・メルキオールがシナリオを担当、57年5月にAB-PT社がその製作を担う事に。
その際、新規撮影のため、日本にゴジラ及びアンギラスの新たな着ぐるみを発注している。
この時点では、『The Volcano Monsters』のタイトルになっており、前作「怪獣王ゴジラ」の製作会社が、まだ『ゴジラ』の名称使用権を有していた。
そのため、ゴジラの名称を本作品に用いることが出来なかった。
ここから、『The Volcano Monsters』に登場するゴジラは『ティラノサウルス』、アンギラスは『アンキロサウルス』と、完全な恐竜として扱われる事になり、ゴジラも熱線を吐くシーンは完全にカットされる事に。
そして、追加の特撮シーンは、ハワード・A・アンダーソンが手がける予定だった。
『The Volcano Monsters』の舞台は、大半がアメリカで、二体の怪獣の対決はサンフランシスコとなっていた(日本はほぼ全く出てこず、上陸もしない)。
※ただし同脚本では、更なる続編を狙っていたのか、ラストに『巨大な爪を持つ、別の怪獣が登場する』という事を匂わせて終わっている。
脚本も完成し、製作開始すると思いきや、AB-PT社が事業停止。製作も中断してしまう。
プロデューサーのハリーとエドワードは、ポールが率いる投資家グループに権利を売却。別のプロダクションでこの企画を続行する事に。
しかし、その際に企画内容は大幅に変更。結局は『怪獣王ゴジラ』とほぼ同じく、
「『ゴジラの逆襲』本編を編集」「追加撮影シーンは無し」という内容となり、『GIGANTIS, THE FIRE MONSTER』のタイトルを付けられ、1959年5月にワーナー配給で公開される。
件の「ジャイガンティス」と思しき写真のゴジラの着ぐるみは、『The Volcano Monsters』で使用する予定であったが、追加撮影が無しになった『GIGANTIS, THE FIRE MONSTER』本編では、当然ながら使用されず、登場もしてはいない。
後に、1998年。アメリカで出版された「japan's favorite mon-star The Unauthorized Biography of "The Big G"」という書籍(54~95年までのゴジラの歴史を網羅した文献)にて、着ぐるみの記述がある。
1957年5月。『The Volcano Monsters』の追加特撮シーンを手掛けるはずだった、『ロサンゼルス・アンダーソン特殊効果スタジオ』にて。
「invasion of the saucer man(邦題「暗闇の悪魔 大頭人の襲来」)」撮影中に、スタッフはゴジラおよびアンギラスの着ぐるみが入った木箱を発見する。
それらは、当時のアメリカ人の体格では着ることが出来ない大きさで、しかも損傷しており、穴も開いていたと証言されている(なお、その色彩は、ゴジラは灰色に緑、アンギラスは青と赤が混ざった色合いとの事)。
そのため、これらは日本で、「ゴジラの逆襲」の撮影に使われた着ぐるみではないかとも言われている。
ただし、それらが日本で使用された着ぐるみだとしても、なぜそれをアメリカに送ったのか、そもそも着ぐるみの製作を日本に依頼したのに、体格に合わない日本の使用済みかつ、損傷している着ぐるみをなぜ送る必要があったのか、などの謎が残っている。
加えて、1957年8月公開「千の顔を持つ男」の宣伝の一幕として、ゴジラが一緒に映っている写真が撮影されており、その存在が近年になり明らかになった。
その写真のゴジラの着ぐるみは、損傷や補修の痕跡はなく、状態も良好。出所も不明である。
ジャイガンティスの着ぐるみの動向、およびその写真の真相は、現在も不明であり、様々な風説が流れている(着ぐるみは製作されたがアメリカに送られなかった説、後にキンゴジに流用された説、など)
『The Volcano Monsters』に関しては、プロット(下記参照)および脚本、関係者の様々な証言が残っており、追加撮影を行う予定があった事は、ほぼ間違いはないと思われる。
しかし、このジャイガンティスというゴジラ(の着ぐるみ)に関しては、資料が乏しく、現在も詳細は不明のままである。
- 考察動画
『The Volcano Monsters』あらすじ
日本の能代火山。その火山が噴火すると、先史時代の洞窟が出現した。その内部を調査すると、二種類の恐竜の死体が発見される。
アメリカから来た古生物学者の調査によると、それらはティラノサウルス(ゴジラ)とアンキロサウルス(アンギラス)である事が判明。能代火山の噴出させる特殊なガスにより、仮死状態で眠っている事が判明する。
サンフランシスコの大学の研究所にて、これら恐竜および火山ガスの研究が行われる事が決定。二体の恐竜は船に積み込まれ運ばれるが、その最中に暴風雨が発生。ティラノサウルスが仮死状態から覚醒し、そのまま行方不明になる。
そして、アンキロサウルスも覚醒し、ティラノサウルスが出現したアメリカのゴールデンゲートベイへと向かっていった。
蘇った二体の恐竜は、互いに呼び合い、戦いを開始。アメリカに上陸しチャイナタウンを破壊しつつ、戦いを繰り広げる。
やがてアンキロサウルスを倒したティラノサウルスは、そのまま海に入り姿を消した。
その後、北極海の島にティラノサウルスは出現。科学者たちは、ティラノサウルスはその島で卵を産み繁殖すると結論付け、米軍を出撃させる。
島を爆撃する事で、雪崩を発生させ、ティラノサウルスはその内部に閉じ込められた。以後、科学者たちはそこで研究を続けるため、ティラノサウルスを保存するように。
しかし、能代の洞窟からは、巨大な爪が出現していた。