タイガー暗殺拳
たいがーあんさつけん
「タイガー暗殺拳」とは、ジェイミー・トムソンとマーク・スミスが共同で執筆したゲームブックシリーズ「Way of the Tiger」シリーズの一巻「AVENGER!」の邦訳版である。出版社は二見書房。
社会思想社より翻訳・発売された、ファイティングファンタジーシリーズの11弾、「死神の首飾り」と同じ世界観『オーブ』を舞台にしている。
異世界『オーブ』。
その南の海には、謎に秘められた『静かなる夢の島』がぽつんと浮かんでいた。
主人公=君は、この島に、一人の女召使により運ばれた。赤ん坊の君は、島の中にある『岩の寺』の門前に置かれていたのだ。
この島の僧たちは、格闘技の神である善神『クオン』に身を捧げ、世の悪に立ち向かう戦士を養成していた。
君は、島で最も知恵と力のある僧、「曙の長」こと、ナイジンの養子となった。
ナイジンは君を厳しく導き鍛え、クオンの善性と世の中の知識、僧としての生き方に、瞑想を教え込んだ。
そして、六歳になった時から、君は「タイガー忍法」を学び始めた。
成長し、それを見事に習得した君は、いかなる敵も気付かれずに倒せる暗殺戦士となった。タイガーのように強靭で敏捷、音もなく獲物に忍び寄り、狙った敵は必ず仕留める、『忍者』となったのだ。
オーブでは、忍者は恐怖の対象だった。しかし君は、タイガー忍法の使い手であると同時に、善神クオンを崇拝する数少ない忍者の一人。暗殺の技は、邪悪な輩をこの世から抹殺するためのもの。
しかし、君は独り立ちしようとする直前。養父ナイジンを殺されてしまった。
ある日、「炎の長」を名乗るクオンの信者が、島にやって来た。彼は『ヤーモン』と名乗った。
だが、実はヤーモンは、クオンの弟、悪神ヴァイルの崇拝者だったのだ。彼はナイジンを惨殺し、島の宝物『ケッツインの巻物』を盗み、立ち去った。
君は、ナイジンの仇を討たんと、心に誓った。
そして、時が経ち。
君は、新たな『曙の長』となるべく、試合を行い、儀式を行った。
滞りなく儀式が終わるも、北の方から船が来て、グレイヴァスと名乗る男がやって来た。
彼は、北の地の警備長官を行っていたが、ヤーモンが恐ろしい企みを実行しようとしている事を突き止めたのだと言う。「静かなる夢の島」より盗んだケッツインの巻物の力を悪用すれば、善神クオンが地獄につなぎ留められてしまうのだという。
ヤーモンを止めるため、君はグレイヴァスの要請を受ける。養父ナイジンの仇を討つため、そしてケッツインの巻物を取り戻し、善神クオンを地獄に落とさないために。
島の長たちより、『復讐のタイガー』の名を授かった君は、旅立った。
ファイティングファンタジーシリーズの11弾、「死神の首飾り」と同じ世界観で繰り広げられる冒険譚のゲームブックである。
本書は、「Way of the Tiger」シリーズの一巻「AVENGER!」の邦訳で、唯一の日本語版である。
「Way of the Tiger」は、全7巻。忍者を主人公としたシリーズもののゲームブックであり、オーブ世界を舞台としている。そして、タイタンとはまた異なるテイストと魅力とを有している。
本書の最大の特徴は、なんといっても「ニンジャ」が主人公だという事である。
と言っても、西洋ファンタジーにおける「ニンジャ」であり、決して正確な考証のものとは言えないが。しかしそれをおいておいても魅力的で、「サムライの剣」と同様、本国では結構人気が出たらしい。
そして、本作のストーリーは、復讐譚という縦軸がある。
ラスボスは、養父の仇であるヤーモン。そしてヤーモンを倒す事は、世界平和にもつながる事で、自身が信奉している神を救う事にもつながる。
が、そこに至るまでにはかなりの距離があり、その前に立ちふさがる様々な怪物と、中ボスとも言える悪漢や豪傑とも戦い、倒さねばならない。
そのため、復讐者として敵を追いつめ、戦いを挑む……という、戦闘色の強い作風となっているのだ。
しかし復讐者とはいえ、本人は同時に善神の信者でもある。そして、海外の忍者が良く使うヌンチャクを初めとして、忍者刀も使わない。手裏剣と忍術は用いるが、メインの戦闘方法は素手での格闘術である。
いわば本作の忍者は、マーシャルアーツを用いる僧侶、もしくはモンク(修験僧)のような存在でもあるのだ。
そのためか、「サムライの剣」のサムライのように、精神的信条が描かれ、善なる忍者としてふさわしい行動とは何かを、作中の冒険を以て描いているところもある。それに加え、「死神の首飾り」の主人公よりも戦いに慣れており、ヒーローのような描かれ方をしている。
正しき力を持つ、正義の忍者の主人公。そのようなヒーローになり切る事が出来る、知られざる佳作と言える一作である。
本作では、ファイティングファンタジーとは全く違う作品なので、ルールも当然異なっている。
既に生命力を示す生命点、内力の数の内力点が決められているため、ルールを覚えればすぐにスタートが可能。
戦いの際には、パンチ、キック、投げの三種のどれかを選択し、敵に放つ。敵の防御をかいくぐって攻撃が当たれば、相手の生命力を減らせる。当たらなければ交わされた事に。
相手からも攻撃を放ってくるので、それを交わせたかどうか判定する。
投げではダメージは与えられないが、連続してパンチやキックを放てば、より当てやすくなる。
そして、内なるエネルギー『内力』を用いれば、相手へのダメージは二倍になる。ただし、回数に制限があるため使いどころが難しい。
他に、選択肢にあれば、手裏剣を投げて攻撃する事も可能。
手裏剣術の他には、八種類の忍術があるため、それらのうち三つを選び習得しなければならない。
- 矢切りの術:飛んでくる矢や槍を素手で払う。
- 軽業の術:曲芸師のように跳躍しトンボ返りを打つ。
- 毒消しの術:大抵の毒、および大量の酒に耐性を持つ。
- 擬死の術:仮死状態になる。
- 脱出の術:縄抜け。拘束されても脱出できる。
- 毒針の術:毒針を含み、飛ばす。
- 錠前やぶりと罠やぶりの術:鍵のかかった扉や金庫を開け、罠を見やぶり破壊する。
- 登攀の術:鉄の爪を用い、壁や崖をよじ登る。
パンチとキック、投げは、それぞれ三種。計九種ある。
戦いにおいては、パンチ、キック、投げのそれぞれ一つが表示され、どれを用い攻撃するかと選択肢がでる。最後のヤーモンとの戦いのみ、ほぼすべての技をもちいる事が可能。
また、投げではダメージは与えられないが、続けてパンチやキックを放つ際により当てやすくする事が出来る。
パンチ:
- 鉄拳パンチ:普通の正拳突き。
- コブラ・パンチ:いわゆる抜き手。指を立てて突きを食らわせる。
- タイガー空手チョップ:その名の通り、空手チョップ。
キック:
- 天馬(ペガサス)キック:いわゆる跳び蹴り。跳躍し、そのまま蹴りを放つ。
- 電光キック:軸足を踏みしめ、片足を上げて放つキック。いわば基本的な蹴り技。
- タイガー跳びキック:ジャンプしつつ、足を振り上げるように放つキック。
- クオンの鉄槌:左足を軸にして、身体を右に回転しつつ、右足を蹴り上げる強力なキック。放つときはあまりに素早いため、一瞬右足が消えたように見える。その威力は絶大、通常の技が通用しなかった岩石の巨人を一撃で屠った。最初には心得ていないが、旅の途中で出会う求道者・アントーから学ぶ事ができる。
投げ:
- 渦巻き回転投げ:相手の腕を片手で捕え、もう片手で懐を掴み、自分の身体を回転させるようにして投げる。背負い投げに近い。
- ドラゴン払い投げ:相手の足下にスライディングするように入り込み、自分の足を絡ませ、そのまま足を崩して投げ飛ばす技。
- タイガーかみつき投げ:立った状態の相手の首に、自身の両足を挟み込み、胴体を回転させつつ相手を投げ飛ばす荒技。
主人公「復讐のタイガー」
主人公。
「静かなる夢の島」の長たちより、「復讐のタイガー」の二つ名を授かった。
善神クオンの信者であり、忍者として暗殺と戦闘に長けている。
ナイジンを養父として育ったが、ヤーモンにナイジンを殺され、復讐を誓う。
ヤーモン
本作のラスボスにして、ナイジンの仇。
悪神ヴァイルを信奉する「赤蟷螂教団」の教祖であり、教団が用いる殺人拳「赤蟷螂拳法」の達人。年齢は40過ぎだが、全身の筋肉はしなやかで、若者である主人公に全く劣らないパワーとスタミナを有している。
オノリック
ヤーモンと協力関係にある、最強の剣士。強烈な魔力を有する魔剣「怯鬼の剣」を持ち、嵐の巨人(オーブの最強クラスのモンスター)とたった一人で戦い倒したという逸話を持つ。
ヤーモンに勝るとも劣らぬ実力を有し、主人公も直接戦闘では勝てないほど。
戦神バッシュ・ローを信奉する戦士の集団、「亡剣軍団」を総督として率いている。自身も獰猛かつ残忍で冷酷な戦士。ヤーモンと会談しているさい、のぞき見していた赤蟷螂教団の僧侶の両目を抉り出すような残酷さを持つ。
死の魔術師
ヤーモンと協力関係にある、老齢の魔術師。自身の戦闘能力は皆無だが、それを補って余りある、様々な魔術を心得ている。「炎の魔人」など、様々な怪物を召喚し、主人公に送り込む事もできる。
翡翠製のコブラの頭を取り付けた杖を手にしている。黒渦巻を旗印にした、悪の最高神ネメシスを信奉している僧たちの長でもある。オノリックに対しては、「怯鬼の剣」の強すぎる魔力が、自分の魔力を無効化するため、快く思っていない。
アントー
クワロドラム山の洞窟に住む求道者。クオンの信者で、かつては自身も「静かなる夢の島」で「曙の長」をつとめていた。当然ながら、タイガー忍法の使い手。
黒い格闘着を着て、「クオンの鉄槌」を心得ている。「復讐のタイガー」に対し、瞑想を用いて今後の行動を示す。
ウィムジカル
クワロドラム山麓の街、フィーンドルに住む、運命神フェイトの神官。フェイトの信者らしく、全ては運命によって決められているから、何が起ろうとも何もせず、抗わずに受け止めろという信条を有する。
ルーンウィーバー
山脈の峠道にて、鳥男たちと戦っていた剣士。有している剣は稲妻を放つ事が出来る。モートアバロンのお偉方とトラブルを起こし、逃げている最中だったらしい。また、あまり善人とは言えない人物らしく、邪悪な者のみが持てる魔法の宝石のバンドを力づくで奪おうとした。
赤蟷螂教団
ヤーモンが率いる教団。この教団の僧たちは、北の大雪原で修業し、赤蟷螂拳法を身に付ける。教団のシンボルは、「善の最高原理」をあらわす聖なる十字架に似ているが、よく見たら一匹の蛇が絡みついている。
赤蟷螂拳法
ヤーモン、および赤蟷螂教団の僧侶たちが用いる拳法。タイガー忍法に勝るとも劣らぬ格闘技で、この拳法の最強の拳士であるヤーモンは、「復讐のタイガー」と互角以上の戦いを繰り広げた。
また、この拳法を使う僧侶は、ファイティングファンタジー「死神の首飾り」にも登場している。
エルダー・ゴッド
クゥエンチ・ハート城地下に潜む、古き時代の怪物。四つん這いでも5mほどの高さを持つ。額に一本角を持ち、皮膚が所々腐り落ちて、筋肉がむき出しになっている。体格差がありすぎて、投げが通用しない。
炎の魔人
死の魔術師に召喚され、「復讐のタイガー」を襲った怪物。その身体は高熱を纏っており、普通の手裏剣や毒針を放った程度では堪えない。また、素手で攻撃しても、高熱と火炎により火傷を負ってしまう。ただし、魔法の呪文が刻印された手裏剣を有していれば、それを当てる事で一瞬で追い返す事が可能。
トロール
同じく沼地に生息する、一つ目の巨人。再生能力があり、どんなに攻撃しても即座に再生してしまうので倒せない。タイガー忍法でも同じだが、内力でショゴスを倒す様を見ると、怯えた様子を見せて逃げていった。
岩石巨人
身体が岩石で構成された巨人。クアロドラム山に出現し、「復讐のタイガー」に襲い掛かった。タイガー忍法の拳や蹴りが一切効かなかったが、突如現れたアントーが放った『クオンの鉄槌』により、一撃で葬られた。