死神の首飾り
しにがみのくびかざり
「死神の首飾り」とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第11弾「TALISMAN OF DEATH」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社。
平和そのものだった、異世界「オーブ」。
今ここに、危機が迫りつつあった。
主人公=君は、自分の名も、素性もわからぬまま、いきなり何者かに召喚された。異国の服を着て、腰からは鞘に納めた剣。そして、その剣の扱いも大体わかる。
呼び出した何者かは、自分たちをオーブの神々だと言う。
「オーブの世界に危機が迫り、善悪のバランスが崩されそうになっている。しかし、神々である自分たちは、直接手を下す事が出来ない。なので、人間にその任を任せる事とした」と。
やがて意識を失い、気が付くと。君は魔窟ともいうべきどこかの地下迷宮のただなかにいた。
そして、四人の勇士たちにでくわす。事情を話し、彼らも自分たちの事情を話す。
オーブの「ルーンの都」にて。古代に死神の使途たちが、死神を招き、そして操る「死神の首飾り」を作り出した。
これで死神をこの世界に招き入れると、世界から生命が消え、半死半生の使途たちのみが生きながらえる事になる。そうなると自然界のバランスが崩れ、生命は二度とオーブには生まれないだろう。
そこで、神聖なシラカブの賢者たちが、十字軍を結成。死神の首飾り奪取のため死神の使途の「姿なき王」に戦いを挑み……彼ら四人を残し全滅。しかし首飾りは手に入れた。
四人は君に懇願する。これは破壊不可能だが、別の世界に……すなわち、君の住む世界、地球に、この首飾りを持ち込めば、「姿なき王」の威力はオーブには届かなくなる。
この使命を受け、首飾りを受け取る君。やがて魔窟には怪物が押し寄せてくる。
四人のうち一人の呪文にて、ただ一人……君のみが地上へとテレポートで脱出できた。
四人が最後に残した言葉……西にある学問の都「荒地のグレイギルド」へ行けという言葉に従い、君はオーブの大地を歩き出す。
シリーズ11作目。
シリーズ中、「サソリ沼の迷路」に続き執筆された、「スティーブ・ジャクソン(英)およびイアン・リビングストン以外の人物が執筆した作品」である。
再び剣と魔法のファンタジーのジャンルになったが、本作の舞台はタイタンではなく、ジェイミー・トムソンとマーク・スミスが創造した別の世界「オーブ」である。
「オーブ」は、トムソンとスミスの執筆したゲームブックシリーズ「Way of the Tiger」の舞台となる世界観である。
「Way of the Tiger」は、いわゆる「ニンジャ」……西洋的なイメージの忍者ものともいうべき、特異なシリーズ。本国では全八冊、シリーズ七巻まで出ているが、日本では二見書房より一巻「Avenger!」が、「タイガー暗殺拳」のタイトルで邦訳・販売されたのみである。
なので、同作に登場する神々や地名なども、本作にはいくつか登場している。
それだけでなく、同世界の悪漢も登場している。特に邦訳された「タイガー暗殺拳」に登場した敵方……「赤蟷螂拳法」を用いる赤蟷螂教団の拳士は、本作にも登場。場合によっては戦ったりもする(いわゆるカメオ出演のようなもの)。
本作では、タイタンと同じようなファンタジーであるが、舞台がタイタンではない……という点が特異である。そして、もう一つ、「各所で死んでも、リセットがある程度行える」という点も特徴。
普通にファイティングファンタジーのルールで戦い、切り抜けていくのは既存作品と同じであるが、戦闘以外で死した場合、時の神により時間を巻き戻し、ある場所からのリスタートが可能になっているのだ(グレイギルドに至る前なら、最初のシーンから。グレイギルドから出た後なら、出た直後から)。手に入れた持ち物の有無や体力の増減なども、ある程度は調整されている。
これにより、前には向かわなかった場所に次は向かう事で、そのままクリアする事が出来る。まさに初心者に向けた、親切なシステムとも言える(ただし、死神そのものに捕まったり、主人公が悪辣な真似をして別の神の怒りを買って殺されたりしたら、その限りではないが)。
本作はタイタンとは別の世界を舞台にした事で、ファイティングファンタジーにおける新たな魅力を模索した特異な一作と言える。
魔窟での四人の勇士
最初に出会った、十字軍の最後の生き残り。
「光る剣を持った聖騎士(パラディン)」「黄金の笑い仮面をかぶった、象牙の杖を持つ魔術師」「鎧を着てローブを上から羽織った僧侶」「クロスボウを持った女戦士」の四人。
最初に主人公と遭遇し、事情を話して「死神の首飾り」を託し、地上へとテレポートさせる。魔術師は嘘を見分ける魔力があるらしく、最初の選択肢で事実と異なる事を話したら、嘘だと見破られた。
ホーカナ
グレイギルドの町にある、女戦士の神フェル・キリンラの寺院の最高位の巫女。黒髪の中年女性で、主人公から死神の首飾りを奪い、寺院に保管してしまう。男を憎む、女戦士団のリーダーでもある。
剣のみならず、魔術も用いる事が出来る。また、寺院内で殺害されても、魔力のある指輪のために再生する事が可能。
アポテカス
グレイギルドの歴史学者。死神の首飾りの事を知っており、窮地に陥った主人公を助けてくれる。奪われた首飾りを取り戻すため、酒場レッドドラゴンに赴き、盗賊ギルドの盗賊たちの助力を求めろとアドバイスする。
バグラント
グレイギルドの盗賊ギルドの長。白てんの毛皮を着た、ハンサムな中年の男。
フェル・キリンラの寺院から、首飾りを盗む手助けを依頼され、値段が付けられないほど貴重なものだという理由からそれを受ける。
彼のギルドの壁には「盗賊たちに信義なし」と殴り書きがされている。
盗賊たち
主人公とともに盗みに赴く盗賊たち。
リーダー格で、顔に傷のある「スカーフェイス」、手先が器用な「ネズミのジェミー」、大柄な「ブラッドハート」、短剣使いの「ミン殿下」の四人が、主人公と同行する。
テュチェフ
アナーキルを信奉する戦士。ノッポで針金のように痩せており、トウモロコシのような縮れた黄色い髪を持つ。黒の外套を着ている。
「Way of the Tiger」に登場する悪漢でもある。非常に長い剣を武器とする。
ソーム
幻術師で、テュチェフの仲間。イカの怪物の姿を取ったり、姿を消したり、本物そっくりのトロールの幻影を出したりする他、実体のある火球を投げつけダメージを食らわす事も出来る。テュチェフとカサンドラとの三人がかりで死神の首飾りを奪おうと迫るが……。
鉄腕ハイムドル
酒場レッドドラゴンの常連の一人で、店主の話の中にのみ登場。
不愉快だが力の強い男たちの一人で、仲間を引き連れている。ある日に腕相撲の勝負をテュチェフに挑み、敗北。怒り狂い仕返しをすると公言するも、テュチェフに返り討ちにされ、額にアナーキルの頭文字を彫りこまれた。
モロー、ボローニアス
学者の二人組。モローは禿げてひょろ長く、ボローニアスは太って鼻眼鏡をかけている。
怪物を作り、その戦闘能力を確かめるためのバイトを持ちかける。危なくなったら呪文で止めるはずがそれができず、報酬を貰おうとしても用意できてないという、いささか頼りない連中。
オリオール
宝石店の店主。老人だが短剣を巧みに操り、金庫にも仕掛けを施している。盗賊に襲われても、それに対しての対抗策を施している抜け目のない男。ケチだと誰にも呼ばせないと自負し、協力してくれた相手には宝石や金貨の報酬を惜しみなく与えてくれる。
赤蟷螂教の僧侶
赤蟷螂拳法を用いる僧侶。赤蟷螂教は、「タイガー暗殺拳」にも登場する。
些細な事から主人公と相対し、場合によっては戦う事になる。素手での戦いに長けており、戦闘に勝ったとしても、死んだふりをして逃れ、完全に倒す事はできない。
ホッグメン、ホッグロード
青みがかかった黒い皮膚に、猪の頭部を持つヒューマノイド。グレートプラトーの台地の一角に、編んだ枝に泥を塗った上品な建物の村を作っている。ルビーを贈られると喜ぶも、人間の食料を贈られると、豚肉の干し肉に対して怒る。主食はマンゴ、ナッツ、グァバなどの果物。
ホッグロードはホッグメンの首領で、緑色の石造りの建物に住み、玉座に座っている。
かつてレッドドラゴンに村を焼き払われた事があり、主人公に協力してドラゴンの鱗で盾を作ってから挑むようにと助言。盾を作るのに用いるようにと、松脂の接着剤が入ったヒョウタンをくれる。
盗賊ギルド
バクラントが長を努める、盗賊の組合。
入り込む出入口は、石炭入れ口に偽装されており、歓迎するならそこから入れる。
もう一つ、下水道から入る入り口は、後ろから銛が放たれる仕掛けがあり、招かれざる客はそちらに招待され殺害される。
死神の首飾り
本作の最重要アイテム。
死の都ルーンで、邪神フェースレスワンにより作られた、世界に死神を招き入れるための強力なマジックアイテム。また、この首飾りは死神とその使いや眷属を操る事が可能で、襲ってきた死霊たちを、その力で追い払った。
タイガー暗殺拳
同一世界観でのゲームブック。