概要
「え、倒叙トリックって刑事コロンボとか古畑任三郎みたいなやつのことでしょ?」と思った貴方。コロンボや古畑のような犯人側の視点から描かれるミステリーのことは、単に「倒叙」もしくは「倒叙形式」「倒叙ミステリ」などと呼ぶ。「倒叙トリック」という言葉はない。
そもそも倒叙形式とは「叙述」が「転倒」している=本来は探偵や警察側から叙述するミステリーを、逆の犯人側からの叙述に転倒させているスタイルのことなので、トリックに分類されるものではない。
「倒叙」という特殊なスタイルその物をトリックに利用する場合もあるものの、基本的にそれらが効果を発揮するのはメタ視点での話になるため、叙述トリックに含まれる場合が殆ど。
「叙述トリック」の方は、描写(叙述)の工夫によって、本来なら自明の事実を読者に対して隠蔽することで読者を驚かせる手法のこと。ニコニコ大百科の「叙述トリック」の記事が詳しいのでオススメ。
叙述トリックと倒叙を混同した人が叙述トリックを指して「倒叙トリック」と言ってしまう場合と、それを見て倒叙を「倒叙トリック」と呼ぶのだと誤解した人が倒叙形式を指して「倒叙トリック」と呼ぶ場合とがあるので、たいへんややこしい。
見かけたら発言者の文脈を見てどちらの意味で使っているかを判断する必要があるが、中には「叙述トリックを使った倒叙もの」の作品もあるので、その作品を指して使っている場合はもうどっちだかわからない。
誤解の理由は、『アクロイド殺し』のような話かもしれない(冒頭で犯人が明かされておらず、二重の意味で真の主人公が対岸にいる叙述トリックだった)。
重ねてもう一度言うが、「倒叙トリック」という言葉はないのである。叙述トリックと倒叙は全然別の概念なので、きちんと正確に使い分けよう。
字面が似ててややこしいんじゃ、という人は、「叙述トリック」は「じょじゅつ」、「倒叙」は「とうじょ」と読みで覚えると吉。