概要
ミステリー作品において、犯人が探偵役を欺くトリックに対し、『作者が読者を欺くトリック』のこと。
具体的には小説の地の文等で読者に先入観を抱かせ、推理を間違うように誘導する手法を言う。
『地の文が男口調な人物が実は女』『同じ時系列に見える物語が実は別時系列』『簡単な言葉(バーナム効果、同音異義語)が実は別の意味』『箇条書きや説明文が一致しているが、実物がまるで似ていない』『助けて(苛めて)見える構図が真逆の状況』『物語の主人公に見える人物が実は…』などがある。
その手法上、絵でストーリーを見せる漫画やアニメでそのまま使用するのは難しいが、敢えて挑んだ『Another』のような例も存在する。
推理小説では『アクロイド殺し』『GOTH』、それ以外の小説やラノベでは『空の境界』『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』が有名。
特に『アクロイド殺し』発表直後はミステリーファンの間で「フェア・アンフェア」論争が巻き起こり、ノックスの十戒第九戒「探偵の助手にあたる人物(物語の執筆者役)は自らの判断を全て読者に知らせなければならない(読者に隠し事をしてはならない)」が生まれるきっかけとなった。
映像媒体では
必ずしも作者が読者を欺くとは限らず、主人公ともう一人の主人公、主人公と第三者、登場人物と読者の世界観や記憶の合致ないしは食い違いを描く手法としても有効で、二人の人物の精神世界の差異が映像で説明されるケースもある。二つは別ものなのに、単語や文章が被っている、絵面や字面(解像度を下げた時の映像)が被っている、シルエットが被っている、狭い範囲の映像(1コマ)が被っている、その複合型などで、二人の片割れか、二人を傍観する第三者か、二人を傍観する読者が欺かれてしまう。映像で多いのは、説明文と物理的状況がどっちも提示されるパターンである。
二人の人物が同じ話を聞いている時に会話が噛み合っていない様子(片割れないしは状況を説明する作者のみが会話の食い違いに気付いている)、人物が台詞の意味を勘違いする様子が描かれることもあり、読者ではなく登場人物が叙述に翻弄されるパターンと言えよう。
作品そのものが序盤で簡単な台詞や物理的状況を用意して、展開が進むまでに読者の間で意見が割れるように仕向けることもある。