概要
小型月着陸実証機とは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による無人宇宙機である。
小型の探査機によって、月への高精度着陸技術の実証をすること、従来より軽量な月惑星探査機システムを実現し、月惑星探査の高頻度化に貢献することを目的としている。
名称についてだが、英訳した名称の頭文字をとって、「SLIM(すりむ)」と呼称されることが多い。その他に、「ムーン・スナイパー(月の狙撃手)」という愛称もある。これは、実証した技術のひとつである、着陸したい地点へピンポイントで降下・着陸する技術から付けられている。なお、日本語での愛称(はやぶさ・ひまわりのような愛称)はXRISM同様、付けられていない。
計画の核となる「高精度着陸技術」は「降りられるところに降りる」から「降りたいところに降りる」という目標を実現するものである。これまでkm単位での誤差かつ、障害物が少なく、降りやすいところに降りるという形であった探査機の着陸を、将来的な月面への物資輸送や行き来を見据えた、100m以内の誤差を目指して達成することを目標とする。
SLIMの旅
記事中で時刻を示すことがあるが、別記のある場合を除きすべて日本標準時(JST)である。
2023年9月7日-打ち上げ
鹿児島県南種子町に所在する種子島宇宙センターより、H-IIAロケット47号機によって2023年9月7日午前8時42分11秒に打ち上げられた。なお、SLIM単機ではなく、X線分光撮像衛星「XRISM(くりずむ)」と相乗りでの打ち上げ。(XRISMは、2016年に打ち上げられ、同年中に姿勢制御の異常により分解してしまったX線観測衛星「ひとみ」(ASTRO-H)の代替機として開発されたものである。)
2023年10月4日-月スイングバイ
2023年10月4日、地球周回軌道から月遷移軌道へ移るために「スイングバイ」が行われた。
スイングバイは宇宙機の軌道を変化させる方法のひとつであり、天体の運動や万有引力を利用することで宇宙機の軌道を変更する。エンジンを吹かしての軌道遷移より推進剤(燃料)の消費が少なく済むため、アメリカの水星探査機「マリナー10号」や日本の小惑星探査機「はやぶさ(探査機)」など、遠い天体へ旅立つ探査機たちが必ずと言っていいほど用いている。
2023年12月25日-月周回軌道へ
月から近いところで600km、遠いところで4000kmの高度で楕円を描く月周回軌道への投入に成功したことが発表された。
ここから何度かに分けて高度を下げ、月の近くを周回する軌道へ遷移していった。
2024年1月20日-月面軟着陸
1/14からの運用で段階的に遠月点600km、近月点15kmまで降下する。そして運命の1/20、高度15km、目標から800km手前の地点で着陸降下運用をスタート。メインエンジンの逆噴射を開始する。それから20分後、高度50mまで降下、この時点で誤差は4m以下程度であった。ここまでは順調であった。そして予定通り、月面へと着陸…するはずだったのだが、公式からの成否発表はなかなかされなかった。というのもこの時、障害物を検知し、自立管制で回避して着陸を行おうとしていたのだが、片方のスラスタが脱落、推力を失う事態となっていた。そのため姿勢を維持しつつ、降下運用を継続、結果的に55m目標から外れて着陸した(障害物回避のため。実質的な精度は目標の100mを超える3〜4m程の精密さであった。)が、2段階着陸はうまくいかず、倒立状態となった。
そんなトラブルはあったものの、日本は当機をもって、史上5カ国目となる月面軟着陸、そして史上初の月面ピンポイント着陸に成功した。
その後、必要分のデータを取得・送信した後、バッテリー過放電防止のためバッテリーを切り離したことから運用を一時停止する。
2024年1月28日-月面観測運用
太陽電池パネルに光が当たるのを待ち、運用を再開。28日より分光カメラによる鉱物や岩石の観測を実施。31日には予定の観測を終え、休眠状態となった。休眠モードとは言いつつも設計上、月の夜の極低温に耐えられる構造ではないため、1ヶ月後の運用再開可能性は低いとされた。
2024年2月25日-複数回にわたる越夜後の運用
2/25、夜明けを迎えて(以下、越夜)太陽光が当たるようになり、運用を再開した。航法カメラ(着陸フェーズ時に使用)で月面の撮影などを実施。ただし、鉱物分析用の特殊カメラは不具合が起き、観測はできなかった。3/1、再び休眠状態になる。3/27、2度目の越夜に成功し運用を再開。主要機能の維持を確認。ただし、温度センサーやバッテリー(切り離し済、念のため言及すると回路を遮断する意味であり、物理的な切り離しではない。)等に不具合を確認した。その後は耐久確認のための運用となり、3/30、休眠状態となる。そして4/23、3度目の越夜に成功。ここでも主要機能は維持された。そして29日に休眠状態へ移行した。
しかしこれ以降、5月〜8月にかけて越夜後の通信を試みるも応答はなかった。最終的に復旧の見込みはないと判断され、8/23、停波運用を実施し、当初想定を大きく上回る3度の越夜、実働3ヶ月間の月面での運用を終えた。
関連イラスト
SLIMに関するイラストを紹介してください。
別名・表記ゆれ
SLIM 「Smart Lander for Investigating Moon」の略称である。
関連タグ
SLIM ※略す前の英訳については表記ゆれの項目を参照のこと。
主に電源系統に異常が起きた場合、探査機を保護し、地球から送信される再起動コマンドの受信に備えるためのモードのこと。SLIMはこの冬眠モードに手動で移行されたのち、2024年1月29日に探査活動を再開。同年1月31日に月面が日没となった為2度目の冬眠モードに移行した。詳しくはリンク先記事の項目「実際に運用で使用された事例」を参照のこと。
スイングバイ・フライバイ技術習得を主目的とした工学実験衛星。多くの月スイングバイを行いながら同時進行で月面観測も行われており最終的には月面に着陸(硬着陸。制御を行った上での衝突)して運用を終えている。
本格的月観測衛星。地球の出などの多くの実績を残し最後は月への里帰りを遂げ運用を終えている。
関連動画
解説動画