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杜子春

とししゅん

1・中国の伝奇小説のタイトル、もしくはその主人公。 2・1を題材に取った芥川龍之介による小説。日本で主にこちらの方が有名。
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概要

杜子春とは、古代中国の伝奇小説のタイトル(正確には『杜子春伝』)、およびその小説の主人公の名前である。

日本で主に芥川龍之介の小説とその主人公の名前として知られるが、無論のこと上記の小説を元ネタに取った作品である。

また、中国版にはさらに元ネタがあり、玄奘三蔵『大唐西域記』「婆羅痆斯國(ヴァーラーナシー)烈士池及傳説」が原話とされている。つまり、玄奘が伝えたインド伝承を元に、中国で杜子春というキャラクターが作られたことになる。


概ね内容としては、『貧乏な青年が仙人の力によって大富豪になったのちに、仙人によって様々な苦痛を味わう幻覚を見せられる』という内容である。


但し、芥川版と原典版では、その本来の内容の趣が異なり、オチの『肉親の情だけは捨てられなかった』という部分に関しては共通しているが、その部分が表す内容が大きく変更されている。

実は、この部分は当時の道徳や倫理を表す部分としてかなり重要な内容である為、芥川がこの部分を含めて改変したことに対して批判的な意見もある。


インド伝承のあらすじ

インド・ヴァーラーナシーに「烈士」と名付けられた涸れ池がある。

昔、池のほとりに隠士が住んでいた。隠士は人間を畜生に変えたり、がれきを金銀に変える力を持っていたが、空を飛ぶ力は持たなかった。また、隠士は不老長寿を求めたが、それには無言の烈士が必要だった。そこで壇を築き、烈士を求めた。

数年後、都市で知り合った男に金銀五百を贈り、「無くなったらまた取りに来い」といった。

そして男が金銀を取りに来ること数度に及んだ。こうした事があって、男は自分の命を使ってくれと隠士に志願した。

隠士は「君には一晩無言でいて欲しい」と頼むと、男は「死ぬ事も恐れないのに、ただ一晩息を潜めているだけとは!」と答え、壇のそばで刀を構えた。隠士もまた、剣の柄に手を掛け、呪文を唱えた。

しかし、もう少しで夜明けという所で男が声を出してしまい、すると火が降って来たので二人で池の中に逃げ込んだ。

火が収まってから、隠士が男を「約束が違う」と叱責した。男は「夢の中で前に仕えていた主人が現れ、黙っていると殺されて南天竺のバラモンの家の子に生まれ変われました。妻を娶り、子をなし、両親を亡くしましたが一言もしゃべりませんでした。65歳になり、妻が急に怒り出して、『もし何も言わないのなら、この子を殺す』とわが子を殺そうとしました。そこでもう老いて衰えるまで生きましたし、妻を止めようとして、不覚にも声を出してしまいました」と説明した。

隠士は「(君に期待したのが)私の間違いだった。それは悪魔の仕業だ」と嘆いた。男は恩義に報いられなかったことを恥じて自害した。男は節義に殉じたことから烈士と呼ばれ、池にも「烈士」の名前が付いたのだという。


原典版のあらすじ

周から隋にかけての時代のこと。遊び呆けて財産を失った杜子春がぼろをまとい長安の東市の西の木戸あたりをうろついていると不思議な老人が現れ、子春に三百万の銭を与えた。だが、子春はまた遊び呆けて、一、二年のうちに一文無しになった。すると前回と同じ場所に老人が現れて、今度は一千万の銭をくれた。ところが、今度もまた子春は放蕩三昧の暮らしをはじめ、一、二年のうちに前よりひどい貧乏人になってしまった。

そのとき、また同じ場所で老人に会うと、老人は今度は三千万の銭をくれた。これまでのことがあったので子春も反省し、この金で世間の義理を果たしたら何もかも老人の言う通りにしようといって再会を約束した。

やがて期日が来た。すでに身辺を整理し、世のためになることもした子春が崋山に行くと約束の場所に老人がいた。老人は丸薬を与え、子春がそれを飲むと、これから起こることはすべて幻だから何があっても物を言ってはいけないといって立ち去った。それから、幻が子春を襲い始めた。まず、大勢の武者が出現して子春を脅した。さらに、毒竜・獅子・さそり・蝮(まむし)などが出現した。鬼が現れ、子春を釜ゆでにすると脅し、子春の妻を鞭打った。子春は首を切られ、冥土であらゆる責め苦を受けた。

その後、閻魔は子春を女に生まれ変わらせた。子春は物を言わなかったので周囲から唖だと思われたが、縁があって結婚し、子をもうけた。それでも子春は黙り続けたが、あるとき夫が激怒して幼い子供の頭を石に叩きつけた。これを見た子春は老人との約束を忘れ、あっと声を上げた。この瞬間幻が消え、子春は元の場所に座っていた。老人は残念がった。実は老人は、仙人になるための霊薬を作っていたところで、もし子春が人間のあらゆる感情を忘れ、黙り続けていれば霊薬は完成し、子春は仙人になれたのだという。

だが、子春はただひとつ「愛」を忘れられなかった。このため、子春はこの後も俗界で生きなければならなくなったのである。


芥川龍之介版のあらすじ

唐王朝の洛陽の都。ある春の日の日暮れ、西門の下に杜子春という若者が一人佇んでいた。彼は金持ちの息子だったが、親の遺産で遊び暮らして散財し、今は乞食同然になっていた。


そんな彼を哀れんだ片眼眇(すがめ、斜視)の不思議な老人が、「この場所を掘る様に」と杜子春に言い含める。その場所からは荷車一輌分の黄金が掘り出され、たちまち杜子春は大富豪になる。しかし財産を浪費するうちに、3年後には一文無しになってしまうが、杜子春はまた西門の下で老人に出会っては黄金を掘り出し、再び大金持ちになっても遊び暮らして蕩尽する。


3度目、西門の下に来た杜子春の心境には変化があった。金持ちの自分は周囲からちやほやされるが、一文無しになれば手を返したように冷たくあしらわれる。人間というものに愛想を尽かした杜子春は老人が仙人であることを見破り、仙術を教えてほしいと懇願する。そこで老人は自分が鉄冠子という仙人であることを明かし、自分の住むという峨眉山へ連れて行く。


峨眉山の頂上に一人残された杜子春は試練を受ける。鉄冠子が帰ってくるまで、何があっても口をきいてはならないというのだ。虎や大蛇に襲われても、彼の姿を怪しんだ神に突き殺されても、地獄に落ちて責め苦を加えられても、杜子春は一言も発しなかった。怒った閻魔大王は、畜生道に落ちた杜子春の両親を連れて来させると、彼の前で鬼たちにめった打ちにさせる。無言を貫いていた杜子春だったが、苦しみながらも杜子春を思う母親の心を知り、耐え切れずに「お母さん」と一声叫んでしまった。


叫ぶと同時に杜子春は現実に戻される。洛陽の門の下、春の日暮れ、すべては仙人が見せていた幻だった。これからは人間らしい暮らしをすると言う杜子春に、仙人は泰山の麓にある一軒の家と畑を与えて去っていった。


相違点

原拠とされる『杜子春伝』では、芥川龍之介版とでは、当時の時代の風俗や倫理・道徳を表現するという話の目的、そして作品のオチや内容そのものには変化はないが、その表現するところが大いに違う。


原典によると、杜子春は三度目の仙人の援助を受けた際に、これまでの出来事を大いに反省して、仙人からもたらされた財産を増やすことに成功している。そして、これに仙人に恩義を感じて仙人に今まで受けた恩を返すために彼に幻覚を見せられる。という話になっている。


一方の芥川版では、三度目の援助を断り、これまでの経験から俗世そのものに嫌気がさして仙人になることを求めるが、結局は仙人に成れず、最後には田舎で隠遁生活を送る。という話になっている。


また、杜子春は地獄に落ちた後、女に生まれ変わって誕生するが、そこでもものを言わずに、怒った夫が赤ん坊を叩き殺し、そこで妻(杜子春)が悲鳴を上げたところで現実に戻り、仙人は声を出さなかったら仙薬ができ仙人になれたのに、と言って突き放す。

芥川は、親が地獄の責め苦を受ける場面に変えて、「あの時もし声を出さなかったら、お前を殺していた」と仙人に言わせ、最後に山の中にある家を譲って話が終わっている。


これは芥川が児童向けの内容に原典を改変したためであり、杜子春がどうしても捨てきれなかった肉親の情を表すのに母親を使い、話の内容をより分かりやすくしている為である。

また、原典版も芥川版もオチまで読めばわかるが、ただの人間が仙人になろうとしてなれなかった話と言う点は共通しているものの、そこまで行く過程が金持ちと貧乏の間で人間が嫌になった芥川版と、金持ちとして成功した後に仙人になろうとしていた原典版でも違いがあるのが面白い。


総合してみると、芥川版の場合は一種の哲学者としての側面が押し出されているのに対して、原典版の場合は金持ちが永遠の命を求め始めたようにも見える。

一方で、芥川版は最初から最後まで仙人に頼んで望みを叶えようとした悪い意味での他力本願な物語にも見えるが、原典版は二度の失敗を乗り越えて成功し、世話になった仙人に恩を返そうとする恩返しの物語にも見える。

こう言う部分の違いから、芥川と原典の時代の価値観の違いが読み取れるのがこの話の面白い部分だろう。

また、原典は話の内容的に性転換、いわゆるTS要素が挿入されている点も興味深い。


さらに、玄奘の伝えたインド伝承では、杜子春の原型となった烈士は隠士に金銀を与えられてはいるが、どの程度金に困ったかは書かれていない。ただ、隠士の恩に報いようとして失敗したことが書かれている。

さらに、インド伝承では失敗を恥じて自害してしまうのに対し、『杜子春伝』では生存し、芥川版では仙人に家と畑を譲られるなど、時代が降ると共に救われるオチへと改変されている点もまた興味深い。


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