概要
後漢末期から魏・呉・蜀三国三つ巴の戦乱の時代、いわゆる三国時代を題材にした元末・明初の中国で成立した通俗時代小説である。四大奇書の一つと数えられる。なおただの三国志は、陳寿が編纂した歴史書のことである。
特徴
それまでの講談や民間伝承と最大の違いは、全体的な流れを史実と一致させた事である。
当時から蜀贔屓の創作は存在したのだが、蜀が天下統一を果たす物や、最早孫悟空の如き一人舞台の主人公張飛等、史実準拠というよりは歴史の人物を題材にしたファンタジー作品あるいは仮想戦記ものが多かったなか、三国志演義は全体的な流れ自体は滅びゆく後漢から新国家晋へ統一と統一されるのだが、民間伝承や史実とのエピソードを巧みに取捨選択し、治乱興亡の中で息づく人物達を色鮮やかに描き出した。
それまでの説話や講談の「劉備と蜀漢を善玉・曹操と魏を悪役」とする構図を踏襲しながらも、歴史年代を無視した展開・要素を排し、黄巾の乱から呉の滅亡までの後漢末の重要事件と陳寿の『三国志』の扱う範囲を収めている。「漢王朝の血を引く高潔な主人公劉備」と「王朝を支配し専横を振るう曹操」という対立軸を中心とした高い物語性、史書への精通に裏打ちされた逸話の巧みな選択と継起、口語とは言いながらも洗練された文章で人気を博した。
『百川書志』文中の評にはいわく、「正史に根拠を置きつつ俗伝で装飾し、史文を考証しながらも大衆の好みに通じ、低俗とならず虚構とならず、それでいて読みやすく入りやすく、史家の伝統的古文によるものではないが、盲目的な叙述や面白おかしく書き立てる態度からは離れ、百年間を叙述して、おおむね全ての出来事を包括している。」とある。
一部に諸葛孔明が妖術を使ったり、周倉・関索などの架空の人物が登場したりといった荒唐無稽な要素はあるものの、貂蝉に代表されるように信憑性は低いが歴史書の記述から膨らませた人物などもおり、史実を基にしたフィクションとしては極めて評価が高く、後世の加筆や修正を受けながら数百年に渡り読み継がれている。
物語上、仕方ないのだがあまりにも関羽(引いては蜀)信仰が過ぎるため、魏呉の史実で関羽や諸葛亮に関わった人物や下手したら関わりが薄い人物まで悲惨に描かれることでも有名。特に正史とあまりにも(悪い意味で)違う描かれ方をした人物は演義被害者の会と呼ばれる会の入会者になっている。
また、少し三国志をかじった人は逆に関羽や諸葛亮を必要以上に「実は大したことない」と低い評価をしてしまうことも。