概要
厚手の硬い紙に必要な情報を印刷したもので、磁気ストライプやICチップなどは使われていない。
予め専用の印刷工場で製造され、窓口で日付を印字されてお客さんの手に渡る。
現在
日本では新橋~横浜間に鉄道が敷かれて以来使われている歴史ある切符で、鉄道、自動車(バス)、船舶の乗車(船)券や特急券・急行券・指定席券などで使われた。
昭和の中頃から券売機や窓口で客の注文に合わせて任意の切符を発券するシステムが主力となったため、徐々に姿を消して「懐かしのアイテム」となりつつある。
現在では、都市圏やJR各社、大手私鉄では乗車券として用いることはほぼ無くなったものの、地方の中小私鉄ではまだまだ現役である。
また、駅の改札内に入るための「入場券」であれば現役という事業者や、開業記念の節目に特別なデザインの「記念きっぷ」として発売する事業者も少なくない。
中小私鉄の場合
中小私鉄では
- 厚紙の印刷は個人では大変なので偽造が難しい
- 刷ってさえおけばメンテナンスが面倒な券売機や発券端末が要らない
といった事情で硬券を使い続けている事例がある。
仮に運賃が変わったり新しい駅が出来ても切符を刷るときに活字を組み替えるだけなので案外簡単に対応できるそう。
ただし近年ではこれを上回る対処法であるワンマン運転やICカードの導入が普及し、これをきっかけとして硬券を廃止・大幅削減する事例も少なくない(アルピコ交通や秩父鉄道など)。
有価証券として
硬券も現在券売機で売られている切符と同じく有価証券である。
特に、日付が印字されると「切符」として効力を発揮するため、例えば日付が印字された切符を持って窓口に行き、条件を満たすことが認められると「払い戻し」が行われる。
つまり、切符は「サービスを得るための対価を支払った証拠」でもあり、「サービスを受けなかった(受けられなかった)場合に払い戻しを受けられる権利を示す証文」でもあるわけである。
これは、券売機で印刷・発券される切符と違って不正な経路で入手し日付を印字してしまえば悪用できるため「印刷所にいる時点で悪用に注意を払わなくてはならないもの」である事を意味し、紛失・盗難に注意を払う必要がある。(とは云え同じ理由で券売機用のロール紙や未記入の補充券も取扱要注意である)
このため、硬券を印刷する工場は非常な注意を払って選定され専属の契約を結ぶか、或いは鉄道省のように自前の印刷工場を持つこともあった。
余談
- 日付の印字は「ダッチングマシン」と呼ばれる道具で行われていた。構造は事務用品の「日付印」に似ているが、ゴムではなく金属製の活字が入っているためゴム印より耐久性が高い。但し、印字できない日付があるため、事務用品の日付印で代用されることも。(例えば昭和中頃から製造された天虎工業製のものは年の印字の十の位で1・2・3辺りが無いものがあるので、「平成10年から数十年」が印字できない)
- 駅の窓口に置かれている硬券は運賃や料金が予め工場で印刷された状態なので、運賃が改定されるとその旨のゴム印が押される。
- 鉄道以外にはバスやフェリーで用いられる事例もある。変わり種では食券として硬券を使う飲食店も存在し、東京は上野の蕎麦店「大むら」がよく知られている。
- 実際に鉄道会社から委託を受けて硬券を製造している印刷工場の中には、個人などからオリジナルデザインの硬券の注文を受け付けている会社もある。但し、実在する(した)ものは不可能とのこと。