わたしが少女であったころ、わたしたちは灰色の海に浮かぶ果実だった。
わたしが少年であったころ、わたしたちは幕間のような暗い波間の中に声もなく漂っていた。
開かれた窓には、雲と地平線の間の梯子を上っていくわたしたちが見える。
海より帰りて船人は、再び陸(おか)で時の花びらに沈む。
海より帰りて船人は、再び宙(そら)で時の花びらを散らす。
概要
北の湿原地帯にある全寮制の学園を舞台に、主人公の水野理瀬と仲間たちが事件に巻き込まれていく学園ミステリー。『メフィスト』(講談社)にて1998年10月増刊号から1999年9月増刊号に連載され2000年に刊行、2004年には文庫版が刊行された。
関連作品として『三月は深き紅の淵を』、『黄昏の百合の骨』があり、2021年には本作から17年振りとなる『薔薇のなかの蛇』が刊行。
2023年には外伝作となる短編集『夜明けの花園』が刊行。
これらの作品群を統合して「理瀬シリーズ」と呼ばれる事もある。
あらすじ
三月以外の転入生は破滅をもたらす。といわれているとある全寮制の学園。そこへ二月最後の日に転入してきた理瀬の心は期待と不安で揺らめいていた。
さらに彼女が学園にやってきてから、いくつもの不可解な事件が起こる。
閉ざされたコンサート会場や、湿原から謎の失踪をした生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。
図書館から消えた「三月は深き紅の淵を」といういわくつきの本。理瀬が迷い込んだ三月の国の秘密とは?
舞台
北海道の湿原地帯にある『青の丘』という山の上に建つ全寮制の学園で、三月に新学期が行われる事から通称「三月の国」と呼ばれている。学園は中等部と高等部合わせて六学年。各学年を男女共に六人ずつ縦割りにした計十二人のファミリーと呼ばれるグループを作る。基本的に生徒たちは名字を名乗らず、先輩後輩関係なく名前だけで呼び合う。
憂理によるとこの学園の生徒たちは、保護を目的とした『ゆりかご』、特殊教育を要する『養成所』、家庭や生活環境による異常児が多い『墓場』に分かれているという。
常に生徒の入れ替えや消失が多く、行方不明になった者もいるというが・・・・
登場人物紹介
水野理瀬(みずのりせ)
二月の終わりに学園にやって来た転校生。性格はおとなしく控えめだが、行動力はあり友達想い。
上記の転入理由の為に、学園の他の生徒たちからは不吉な存在と見られている。謎が多く、不安定な印象がある。
憂理(ゆうり)
理瀬のルームメイトで親友。姉御肌で面倒見のいいさばさばとした性格の美少女。演劇が好きで誰もが認める演技力を持っている。反校長派で裏でなにを考えているかわからない校長に対して疑心の念を抱いている。長編『黒と茶の幻想』にも登場。
ヨハン
理瀬の次の日に転入してくる。天使のような笑顔をもつ美少年で転入早々から女の子達の人気を得た。しかし本人はあまり興味がなく理瀬に好意をもっている。天真爛漫で人当たりのよさそうな優しい雰囲気とは裏腹に、かなりの切れ者でなかなかに毒を吐く。同じく理瀬に好意を抱いている黎二をあまりよく思っていない様子。音楽の才能に秀でていて作曲などもしている。
彼が主人公の物語『水晶の夜、翡翠の朝』がある。
黎二(れいじ)
理瀬の『ファミリー』の一人。一見無愛想で口が悪く近寄りがたい感じがあるが、実際は不器用だがやさしく面倒見もいい責任感の強い少年。図書室の出窓がお気に入りのスペースでだいたいはそこで読書をしている。
理瀬に惚れている(聖談)らしく、なにかと理瀬のことを気にかけている。また、彼女が落ち込んでいるときに、本に挟まっていたという作者不明のお気に入りの詩を理瀬によんできかせた。憂理と同じく反校長派で校長のことを信用していない。
聖(ひじり)
理瀬の『ファミリー』の一人。かなり頭のよい年長者で喫煙者。いつも校長の家にいる。
理瀬の素性が気になっており、なにかと彼女を試そうとする。年下たちの人間関係を外から見物している。ヨハンとも仲がいい。
麗子(れいこ)
黎二たちの話に度々登場する生徒。女性だがショートヘアに男物の制服を着ている。
少し前に学園から姿を消したらしいのだが・・・・
校長/要(こうちょう/かなめ)
この学校の校長。年齢は不詳(見た目は四十代前後らしい)。性別は男だが、学校にいる時はほとんど女の姿をしている。(気分によって男になったり女になったりするらしい)。女子生徒にも男子生徒にも人気が高く、『親衛隊』という校長のファンクラブのような団体も結成されている。
彼が主人公の物語『麦の海に浮かぶ檻』がある。