原語表記
Shub-Niggurath(シュブ=ニグラス)
Ishnigarrab(イシュニガラブ)
概要
外なる神の一柱。「千匹の仔を孕みし森の黒山羊」、「狂気産む黒の山羊」、「黒き豊穣の女神」、「万物の母」などの異名を持つ。
ファンタジー作品において怖ろしい森のイメージと共にシュブ=ニグラス自身やモチーフにした存在が描かれることが多い。非常に多産であり、常に子を孕んでいるというイメージが根強く、森と関係が深く、モチーフに山羊が使われていてかつ臨月の女性の姿であれば、シュブ=ニグラスを模したキャラクターであると考えてほぼ間違いないであろう。
豊穣・母神という性格を持っており、アスタルテなどの地球の様々な豊穣の女神、大地母神の原型にして、ワルプルギスの夜に祀られる悪魔の原型ともなったとされる存在。「豊穣」の概念そのものではないかともされる。
生命力を司り象徴する神。故に産み増える慈愛の母性と同時に、森の力強い生命力の象徴の男神としての側面も同時に備え持っている。後述参照。
相手を選ばぬ淫蕩な女神として描かれる。様々な神、怪物、知性のあるなしも関係なく様々な種族と交わり子を産んでいる。自分の子など、近親者であっても頓着していない。
作家によって、クトゥルフと交わり「古のもの」と戦う軍勢を生み出したという世界観もある。
他の神との関係において、ヨグ=ソトースの妻であるという文献やハスターの妻であるという文献も存在する。ヨグ=ソトースの妻であるというのはラヴクラフトの書簡から、ハスターの妻であるというのは「全ての母であり、名付けられざるものの妻」という記述からカーターが自分の作品内で明言したものが大元。ただし、ラヴクラフトが「名付けられざるもの」をハスターのつもりで書いたのかというと限りなく怪しい。「その名を慈悲深く隠されている」アザトースかヨグ=ソトースのことを指していると考えた方が自然。
シュブ=ニグラス自身が非常に多産であり、性魔術を扱う女神でもあることやそもそも倫理的観点を冒涜しているので、現在は両方の妻であるとして特に矛盾はないと扱われることが多い。稀にイグとも婚姻関係がほのめかされることがある。
アザトースがナイアルラトホテップ、「無名の霧」と共に生み出された“闇”から出現した存在といわれており、その姿は“黒い雲の様に巨大”としか表記されていないため判然としないが、『呪術師(パパロイ)の指環』に登場する彼女を象った神像は“山羊のような生き物を表したものの、はっきりとした違和感・不自然さを持っており、何本かの触手があって、見誤りようのない冷笑的な、しかし人間的な感情を持った”姿だとされ、また、テーブルトークRPGでは“泡立ち爛れた雲のような肉塊で、のたうつ黒い触手、黒い蹄を持つ短い足、粘液を滴らす巨大な口を持つ”姿で表現されている。「巨大で有毒な雲から、触手や髭などが伸び縮みしていて、蹄がある」というところが大凡共通している。何度かこのような姿で召喚されたことがあるためである。
また、シュブ=ニグラスはマントで顔を隠した人の姿を装うこともあるが、これは稀な例である。
住処については謎とされていて、一つの仮説では惑星ヤディスを本拠地とし、そこの地下でドールの従者達と共に棲んでいるともされるが、ヤディスから地球に来て南アラビアの地下の洞窟にハラグ=コラースという都市を建設し、落とし子である仔山羊たちに傅かれながら、ハスターが訪れるのを待っているのだという主張もある。
女神であり、男神
上述したように女神ではあるが、男神としての側面をも持っているとされている。
シュブ=ニグラスは基本的に女性であるとされているが、『千の雄羊をつれた雄羊』と言う称号も知られており、魔道書『クタート・アクアディンゲン』には、この外なる神が男性であり、かつ女性であるという箇所がある。これは、シュブ=ニグラスは豊穣と出産という宇宙の法則を意味しているのかもしれないとされる。そして、どの外なる神も性別を当てはめることはどう考えても問題が多い。(両方持っているとは言え)性別を明言され、女神として扱われるのは、シュブ=ニグラスが性行為と結びつけられやすいからかもしれない。
女神マイノグーラと交わってティンダロスの猟犬たちを産み落とさせたともいわれている。化身であるパンの大神は人間の女と交わり子供を産ませる。
人間の女性の化身をつくることも可能とされるが、この姿に変身すると脳までも人間のそれと同じものになってしまい、思考レベルも人間と全く同じものになってしまうため、感情に振り回されがちになるという。
信仰
シュブ=ニグラスのカルトはクトゥルフ神話の中で最も広範囲に広がっているかもしれない。
チョーチョー人、ハイパーボリア人、ムー人、ギリシャ人、クレタ人、エジプト人、ドルイド、サルナス人に崇拝され、さらにユゴスからのもの、ドール、ヤディスのヌグ=ソスによって崇拝されたことが知られている。
シチリアは9世紀にはシュブ=ニグラスのカルトの拠点だったし、エフェソスのアルテミスの見かけをした彼女に捧げられた秘密の儀式は伝説に残っている。
他には北欧神話のヘイドやギリシャのヘカテーに見せかけた彼女への崇拝もあった。そして、彼女は世界中で大いなる大地の母として慰撫されているのかもしれないとされる。
宇宙的規模の強大な神という一面を持ちながら、森と密接な関係を持ちながら暮らす一部の地方の人間にとっては豊穣の女神として祀られる身近で親しみ深い神でもある。生活に密着した、文化としての信仰も世界中で受けている。そこでは森の恵みをもたらし、慈愛の情溢れる女神としても知られている。
シュブ=ニグラスを崇拝する人々には、シュブ=ニグラスは血の生け贄と引き換えに多産と豊作を与える。
化身
・畝の後ろを歩くもの 豊穣の悪神
植物のような姿。「化身の木」と呼ばれる特別な木を通じて顕現する。この木は巨大でねじくれた、薄気味悪く見える枯れ木でなければいけない。この化身が生け贄を受け入れると、丸ごと飲み込んで地底の棲みかに戻り、そこで奇怪な肉体的変容を受けさせた上で犠牲者を「生み出す」。シュブ=ニグラスの奉仕に選ばれた個人に再び地上で出会えることはほとんどない。化身から産み落とされた変容した存在は「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」シュブ=ニグラスに祝福されしものである。
・パンの大神
シュブ=ニグラスの男性としての相。人間としての姿とサテュロスとしての姿を持つ。人間としての姿は若くてとてもハンサムで美しい。時に人間の女と交わり子を産ませる。犠牲者の女は完全に発狂してしまうが、不気味だが人間として最も美しい子供を孕む。この子らは対象者に狂気と自殺をもたらす能力を持つ。
パンの大神の真の姿を見たものは恐ろしさのあまり例外なく発狂するか即死する。
・ムーン=レンズの守護者
白い肉の柱と表現される姿。ゼリー状の頭部と巨大なくちばしを持つ。
犠牲者を気味の悪い変異を起こした姿に「再生」させ、自分の世話をさせる。変異を受けたものは「ゴフン・フパージ・シュブ=ニグラス」シュブ=ニグラスの祝福をうけしものである。
関係性
造物主。この魔王が生み出した闇より生まれたとされる。
夫。ただし、互いに不倫、不貞は数え切れないほどある。
・イグ
「兄弟であり連れ添い」とされる旧支配者。シュブ=ニグラスはこの神との間に怖ろしい怪物を産んでいる。
ヨグ=ソトースとの子供。邪悪な双子と書かれる。ラヴクラフトの中ではこの血縁関係は確定的だったようである。性別や姿は不明。サクサクルースが男性対と女性体に分裂した存在だとした作品もある。
・ハスター
夫、あるいは子供。あるいは両方。ただし、家系図を参照する限りハスター自身はシュブ=ニグラスの実の子供ではない可能性が高い。
・ウーツル=ヘーア(ウトゥルス=フルエフル)
シュブ=ニグラスの長女。性魔術の女神。性魔術結社『孤立の娘たち』で崇拝される。
・黒き仔山羊(ダークヤング)
子供で眷属。蹄のある足と触手を束ねたような胴体を持つ。シュブ=ニグラスの落とし子。無数にいる。象ほども大きさがあるとされる。
ケルト神話の半獣半人の森の精霊。クトゥルフ神話ではシュブ=ニグラスの眷属。シュブ=ニグラス自身もサテュロスとしての化身を持つ。
配下。アイルランドの伝承の妖精。その他のリトルピープルや森の妖精もシュブ=ニグラスの配下であるとされる。
・マイノグーラ
ナイアルラトホテプの従姉妹である女神。シュブ=ニグラスはこの女神と男神として交わった。
マイノグーラと交わり産ませたヘルハウンズがこの魔物の祖先だとされる。
ハスターとの間に生まれた子供だとされる神々。風の精霊。旧神との戦争があったとされる場合は、ハスターの軍勢として旧神達と戦った。
クトゥルフ神話を扱った作品のキャラクターとしての登場
・星間渚
矢野健太郎の『邪神伝説シリーズ』における、将来シュブ=ニグラスになる人間の少女。
ハスターを崇める星間一族の産まれで、ハスター降臨の生贄になるも召喚失敗によって生存。
その際に風を操る力と不死身の肉体を得て対邪神組織「ケイオスシーカー」に所属、邪神や眷属との戦いの果てに全身の細胞が邪神の力で再生されたものとなり、シュブ=ニグラスへと変化する。
・千夜
『姉なるもの』で、角と山羊の足と髪の手を持つ美女の姿をして現れる。明言されていないものの、描写と「千の仔孕みし森の黒山羊」と名乗ることから正体はシュブ=ニグラスかその化身だと思われる。
主人公「夕」の姉として一緒に暮らして欲しいという願いを叶える為に、美しい人間の女性に変身している。
人間の肉体をまとっているためか情緒が人間らしくなっており、残酷な邪神らしさと女性らしい優しさが同居しているなんともいえないキャラクターとなっている。