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七都市物語の編集履歴

2020-08-24 10:06:54 バージョン

七都市物語

ななとしものがたり

田中芳樹によるSF小説作品の一つ。短編物の作品で、一巻分のみの出版となっている。 その続編に類する作品は、他の作家達によって『七都市物語~シェアードワールズ~』という名前で出版され、年代や地図の修正等も行った。またOVAとして一部だけアニメーション化もされている。 漫画化もされ、ヤングマガジンで発表された。 そして、田中作品の例にもれず長期間におよぶ執筆中断が継続されている未完結作品でもある。

メイン画像は、フクダイクミによるコミカライズvreのもの。


概要(メディア毎)

小説、七都市物語

 当初は『SFマガジン』と『小説ハヤカワHi!』にて、不定期的に掲載されていた作品。

それを1990年3月に、早川書房から単行本として出版したのが『七都市物語』である。作品として最後まで完結しているとは言い難い状態で、一巻のみの出版となっている。

 しかし、作品の内容としては評価が高く、田中芳樹ファンの間では傑作であるとの声も多い。その特徴として、銀河英雄伝説(以下『銀英伝』)やアルスラーン戦記等に見られる、登場人物たちの魅力があげられる。人間として癖があり、上層部には好まれないが部下には好まれる、毒舌家、人情的、等、一口には言い切れないようなキャラクターたちが、物語の面白さを引き立てている。また軍事的描写も細かく、限定された空間だからこそ納得させられる。



ただし、1989年(昭和64年)にSFマガジンに掲載された『ブエノス・ゾンデ再攻略戦』を最後に31年間、1994年発売の『田中芳樹読本』に収録された10ページに満たない短編の『「帰還者亭」事件』を加えても26年間作者本人による更新が途絶えている、田中芳樹作品屈指の中断記録更新作品としても悪名高く、古参ファンを焦れさせ、呆れさせ続けている。(2020年現在)

田中芳樹本人による続編は今も書かれていない。



既出一覧

  • 北極海戦線(1986年/『SFマガジン』:86年1月号初出)
  • ポルタ・ニグレ掃滅戦(1986年/『SFマガジン』:86年11月号初出)
  • ペルー海峡攻防戦(1987年/『SFマガジン』:87年6月号初出)
  • ジャスモード会戦(1989年/『小説ハヤカワHi!』:1号初出)
  • ブエノス・ゾンデ再攻略戦(1989年/『小説ハヤカワHi!』:3号初出)
  • 「帰還者亭」事件(1994年/『田中芳樹読本』初出 )




小説、「七都市物語」シェアードワールズ

 2005年に徳間書店のトクマノベルズから刊行された作品。多数の作家が集まって書き上げる、シェアード・ワールドという方式がとられている作品である。

 刊行に当たり、原作者の許可を得て年代がハヤカワ版より200年未来になったほか、一部の地名や地形が変更された。例えば、ハヤカワ版でブエノス・ゾンデ市が面していたペルー海峡はグアヤキル海峡に改名され、位置が現在のエクアドル付近になっている。ただし、収録作品はハヤカワ版の設定を元に執筆されている。


このある種のオムニバス作品集の刊行が本編の進捗に寄与することは結局は無かったものの、ファンからは色々な意味で反響を呼び、その中には関係者が我慢しきれなくて続きを書き出すとかワロタ(意訳)といった声もあった。


収録されている執筆作家名と短編名は以下の通り。

小川一水 - 「ジブラルタル攻防戦」

森福都 - 「シーオブクレバネス号遭難秘話」

横山信義 - 「オーシャンゴースト」

羅門祐人 - 「もしも歴史に…」


OVA版、『七都市物語~北極海戦線~』

 1994年に全2巻のOVAとしてが販売されたアニメ作品。なお、これ以降の制作は無い。

原作の北極海戦線を元に制作されているが、内容が変更されているところがしばしば見受けられている。

 例えば、ニュー・キャメロット軍による、アクイロニア前線基地への奇襲攻撃は、原作にはない行動である。他にはチェンバレンという女性軍人が登場するが、これも原作には登場しない。上げれば多々あるが、ここは置いておく。


漫画版

2017年4月より、WEBヤングマガジン公式サイトヤンマガにおいて、フクダイクミ氏が漫画化した作品。キャラクターデザイン等は概ね原作イラストに基準しているが、リュウ・ウェイ等はヤン・ウェンリー寄りのデザインになっている。

(2019年にて完結済み)


現在、ピクシブに投稿されているイラストの大部分がこのフクダイクミ版に準拠したものとなっている。


あらすじ

 西暦2088年、突如地球を襲った未曾有の大惨事『大転倒』(ビッグフォールダウン)によって、地軸が90度も転倒してしまう。この影響により、地球上は豪雨、地震、暴雨、火山噴火、地滑り、山崩れ、といったありとあらゆる災害が発生した。さらに、地上の原子力発電所、生物化学施設等も破壊。これらが災害と共に3年間続き、地球上の人類約100億人の命を奪った。

 そして月面都市に住まう人々は、大転倒が起きた西暦2088年に『汎人類世界政府』を宣言。2091年に地球へ降り立ち、地上に七つの都市を建設し、地上の生存者を住まわせた。さらに、月面都市は地球人類への支配権を手にするため、地上から500メートル以上を飛ぶ飛行体をすべて撃墜する『オリンポスシステム』を設置し、彼ら地球人類から航空や航宙技術を取り上げてしまった。

 地球人類に対し絶対的な支配権を確立した汎人類世界政府だったが、西暦2136年、月面都市は落下した隕石に付着していた未知のビールスを検知。これが災いの基となり、致死性の熱病が蔓延し月面都市の人々を全滅させてしまった。そう、オリンポスシステムを残したまま・・・・・・。

 だからと言って地球人類が解放されたわけでもなく、閉ざされた空を見上げるばかりの彼らは、互いに領土や覇権を争い続けていったのである。

 そして時代は西暦2190年、七つの都市の均衡が大きく崩れようとしていた。


登場勢力

本作に登場する七都市は、いずれも経済力と軍事力は拮抗しているとされている。


アクイロニア

 シベリア大陸のレナ川の中流平野に築かれた都市。大転倒の影響で氷雪や氷土が全て溶けて、眠っていた膨大な地下資源に恵まれている。軍事的には海軍力の方が強いようで、小説では4000隻という驚くべき数の艦艇を保有している。OVA版では1000隻と調整されているが、それでも膨大な戦力には違いない。

 陸軍戦力には言及されていないが、大陸に建てられただけあって陸軍は充実しているとみても不思議ではないだろう。


プリンス・ハラルド

 元南極に建設された都市。大転倒により露わになった南極大陸の大地で、その下に眠る埋蔵資源やエネルギーはアクイロニアを凌駕すると言われている。大陸での戦闘を考慮して、6000輌もの戦車を保有していた。過去形なのは、ブエノス・ゾンデ軍の戦闘ヘリ集団によって一度全滅しているからである。


タデメッカ

 アフリカ大陸のニジェール川のほとりに建設された都市。ここは元々は不毛(サハラ)だった地帯だが、大転倒後の気象変動で亜熱帯性草原と変わっている。都市名前は、古代に栄えたガラマンテス族の王都に由来していると言う。ジブラルタルでの復興作業を、ニュー・キャメロットと共同でしている。が、後に問題が生じてしまう。


クンロン

 大転倒の影響で、200メートルほど陥没したチベット高山の一角に建てられた都市。さらに3万平方キロの広大な新陥没湖にのぞんでおり、新たな赤道の直下という事もあって気候に恵まれている。他国とトラブルを引き起こしているというわけでもなく、目立った行動はしていない。作中、もっとも出番のない市であろう。


ブエノス・ゾンデ

 南アメリカ大陸において、アマゾン流域への大西洋海域侵攻と、アンデス山脈の陥没の影響で、大西洋と太平洋が繋がっており、その付近に建設されている都市(エクアドル付近と思われる)。比較的温和な気候に恵まれている。因みに最初はエル・ドラドと呼称される予定であった。

 最大の軍事的特徴は、戦闘ヘリを2400機も揃えていること。これはオリンポス・システムの高さ制限に解決策を見出した指導者の非凡さを示すもの。戦闘ヘリを利用した戦術はプリンス・ハラルド軍を圧倒した実績を有している。海軍力は貧弱だが、強力な潜水艦とその補給艦が存在しており、通商破壊作戦に活躍している。


ニュー・キャメロット

 グレートブリテン島の中央に建設された都市。元北極海や元大西洋、元地中海の覇権を巡って、アクイロニア及びタデメッカと対立しがちな関係にある。海に囲まれた市であって、当然と言うべきか海軍力はなかなかの物。

 確認できたものだけでも、快速戦闘艇2240隻、水陸両用戦車886台、砲艦8隻、強襲揚陸艇350隻である。なお、OVA版では戦艦や巡洋艦といった大型艦や中型艦を200隻~300隻は有している。


サンダラー

 ユーラシア大陸とオーストラリア大陸の中間にある多島海に建設された都市(インドネシアのマカッサル海峡付近かと思われる)。海上・陸上ともに貿易の要所である。また気候は亜熱帯へと変化している。多島海が並ぶ海域にあって、島々に住まう多種多様な部族とのトラブルが絶えないらしく、武力弾圧も珍しくはない。

 サンダラー軍は海上交通などが盛んだけあって、4万tクラスの飛行船用母船を保有しているなど、海軍力は高い。また硬式飛行船の技術と、対潜哨戒能力も他都市に比べて進んでおり、硬式飛行船を使った対潜哨戒システムを実用化していることが明らかにされている。


登場人物(勢力別)

アクイロニア

アルマリック・アスヴァール

CV:(OVA版/山寺宏一

 年齢は28歳。アクイロニア正規軍大佐、後に中将まで昇進。アクイロニア市防衛局次長と装甲野戦軍司令官を兼任する。

 医学生の頃に学費を稼ぐアルバイトとして軍の衛生兵をしていたが、クンロン軍との戦闘中に負傷した中隊長に代わって部隊の指揮を執った。それで脱出に成功したことがきっかけとなり軍人に転向し、以降の戦場で武勲を重ねていく。


 本人曰く「人を生かすことより人を殺すことがはるかに性にあっている」


 癖のある言動と士官学校出身ではないため上官や同僚からの評判は悪いが、部下からは尊敬を集めている。相手の心理を読み取ること、地形を利用することが得意である。また地図を見るのが趣味で、それを基に作戦を立案して指揮を執る。

 他にもジグソーパズルが好きで、リュウ・ウェイとはその縁で友人になっている。

 因みにOVA版では、その活躍と功績から、部下や他の兵士からは『AA』(エー・エー)の愛称で呼ばれている。ニュー・キャメロット軍を撃退してからは『AAA』(アルマリック・アスヴァール・オブ・アクイロニア)の異名を持つ。


リュウ・ウェイ

CV:(OVA版/堀川亮

 年齢は31歳。花畑を所有する園芸家だったが、園芸家組合でのトラブル処理能力を買われ、立法議会議員に選出されてしまう。国家元首であるブルームとは友人関係にあり、彼の参謀役でもある。ジグソーパズルが趣味で、その縁でアスヴァールと友人になった。

 ニュー・キャメロット軍の侵攻時、ブルームに対してゴビ平原の地下資源を条件にしてクンロンとの中立条約を結ぶべきであると助言。その特使として派遣されてもなお、巧みな話術等で相手を丸く収めてしまう等、外交としての手腕も持ち合わせている。

 またブルームの為人をよく熟知しており、それあって後にタデメッカへと移り住んだ。本人は政治などに興味はなく(というよりも関わりたくない)、園芸や農業の方に専念したいと考えている。そのことを姪のマリーンにもボヤイているらしい。

現在は新たに農園に加わったギュンター・ノルトと共に、トマト栽培に精を出している模様。

 OVA版では、ひっそりとオリンポスシステムの解析作業をしており、そのことをブルームに察知されていた。


フクダイクミの漫画版では、原作者の代表作『銀河英雄伝説』のヤン・ウェンリーをイメージさせる容姿として描かれている(ボサボサの黒髪に、終始気怠そうな表情が特徴)。


ニコラス・ブルーム

CV:(OVA版/置鮎龍太郎

 年齢は33歳。モーブリッジによる長期政権に嫌気の差した市民により元首に選出された。アクイロニア政界の名門出身で哲学博士の学位を持ち、政治家になる以前はジャーナリストや学者をしていた。

 政治姿勢としては全員を満足させようとして全員に不満を抱かせる傾向がある。また、他人と苦労を分かち合うことはできても、他人との功績を分かち合うことはできない性分で、自身の権力を奪われることに対して異常なまでの恐怖を感じている。

 リュウ・ウェイに対しても同様で、才能を頼りにしつつも恐れている。そして、異常なまでの敵対者への恐怖心、あるいは仮想敵への恐怖心が大きすぎてしまい、結果的に人材をスポイルさせてしまう傾向も多い。

 また、この性格はアスヴァールにも見抜かれており『信用できない』と、副官のボスウェルに公言している。


マリーン

CV:(OVA版/久川綾

 年齢は15歳。リュウ・ウェイの姪。リュウの姉夫婦の連れ子であるため血の繋がりはない。両親の事故死後、リュウに引き取られ一緒に暮らしている。15歳にして毒舌を吐くことがあるが、これは素直な表現ができない不器用さの表れでもある。リュウはまったく気にしていない。また、しつこいメディアに対して、バケツの水をぶっかける行動に出ている。

 OVA版では、リュウ曰く『世話女房』であり、クンロンへ特使として赴く時なども彼の身を案じている。その一方で、リュウに対して『結婚はしない』と公言している。


ボスウェル

CV:(OVA版/梁田清之

 アクイロニア正規軍中佐、後に大佐に昇進。アスヴァールの副官として、ニュー・キャメロット軍との戦争を経験。その後は大佐に昇進して高級副官へと任命される。かなり癖のある上官や他の登場人物に比べて、比較的常識な人物である。とはいえ、時折だが、少しズレた質問をしていたりする。


マディソン

CV:(OVA版/曽我部和恭

 アクイロニア正規軍少将。レナ川を上ってアクイロニア首都を攻撃してくるであろう、ニュー・キャメロット艦隊をレナ河口にて迎撃するため、アクイロニア軍外洋艦隊をもって河口封鎖した。

 しかし、ギルフォードの巧みな情報操作等による奇策に陥ってしまい、反撃の指揮も取ることができないまま、ニュー・キャメロット軍の小型戦闘艇らに狙撃され戦死してしまった。

 OVA版では、序列を笠に着てアスヴァールを見下す傲慢な人物として描写されている他、戦死する際は艦砲射撃を艦橋に受けるという、多少異なったものとなっている。


オレンブルク

 アクイロニア正規軍大尉。ニュー・キャメロット軍が迫る中、アスヴァールのやり口に不満を言いに来た議員を何とかするため、無理矢理に部屋の外へ放り出している。


チャールズ・コリン・モーブリッジ

 元アクイロニア元首。幾度かの軍事的・外交的危機を処理し、官僚組織を改革するなど辣腕を発揮し市民の人気を集め、5期25年に渡って元首を務めた。しかしその一方で、政敵を片端から蹴落としていくやり口が目立ち始め、息子を首席秘書官や副元首に就任させるなどの公私混同が強く指摘された。

 晩年には息子に元首職を世襲させようとした。その意を明確にするために、任期満了の90日前に記者会見が開かれたものの、その場で急性脳出血を起こして死亡してしまった。


プリンス・ハラルド

カレル・シュタミッツ

 年齢は31歳。プリンス・ハラルド国防軍大佐、後に国防軍中将へと昇進。総司令部作戦参謀班所属、後に国防軍総司令官代理に任命され、正式的に正規軍総司令官に就任。長身細身の身体と、手足が長いために「蜘蛛男爵」という渾名を付けられている。家族には、妻と子供3人がいる。

 彼はとある珍事件から、国防軍の総司令官代理に任命される。それは、彼の上司で国防軍大将マレンツィオが主催した、昇進祝いの軍司令部幕僚同士のパーティーで起きた「集団食中毒」から、たった1人逃れたという理由からである。

 事の時のシュタミッツは、妻の出産を理由にパーティーを欠席したために助かったのである。が、恐らく田中芳樹の作品で、いや、他の作品をひっくり返したとしても、この様な珍事件で総司令官代理に任命されたキャラはいるまい。

 戦略指揮官としては凡庸な人物であるが、温厚な人柄のためか人望は厚い。また、扱いにくいと評判のクルガンを参謀に登用した時は、周りから疑問と不安を問いかけられた。だが彼は、クルガンの役目と自分の役目をきちんと理解していた。それは、クルガンの提案にOKのサインを出すことで、クルガンの能力をいかんなく発揮させようと決めたのである。

 これが功を奏してか、あるいはその温厚な人柄ゆえか、彼はクルガンと問題を起こすことはなかった。寧ろ良きコンビとなり、不思議にも公私に渡って良好な関係とも言えた。しかもシュタミッツの子供たちがクルガンに懐くと言う驚きの事実である。


ユーリー・クルガン

 年齢は29歳。プリンス・ハラルド国防軍中佐、後に中将へ昇進。軍事の天才で優れた作戦を立案するが、天才型の人間にありがちな排他的な面が強過ぎて、上司や同僚から嫌われている。しかも部下からも嫌われており、この点においては、アクイロニアのアスヴァールとは全く異なる点である。

 ブエノス・ゾンデ軍侵攻の際、司令官代理に任命されたシュタミッツによって、急遽参謀長に任命された。だが参謀とは言いつつも、迎撃の実質的な指揮はクルガンが執ることになる。後の戦闘でも、クルガンは司令官代理としてプリンス・ハラルド軍の指揮を執ることが殆であった。

 これは、温厚な性格ゆえに感傷に浸りやすいシュタミッツよりも、いつでも冷静に判断できるクルガンの方が、自軍の兵士をより多く生き残らせてくれるだろう、というのが理由である。

 自分は誰にも認められない不幸な天才だ、等と思い込み他者を見下す性格なのだが、不思議とシュタミッツに対しては、反感を持つわけでもなく彼の下に甘えている。さらには、シュタミッツが出兵に際して、道端の花に兵士達の無事を祈る姿を見た時に「花に礼拝するくらいなら俺に拝め」と嫉妬しているのである。

 そして驚くべきことは、彼が結婚していることであろう。後に離婚の調停はしたが・・・・・・。


 彼曰く「彼女に不満は無い、結婚に不満があるんだ」


フクダイクミの漫画版では、陰気な表情と人を見下しているような目つきが特徴の青年として描かれている。


チェーザレ・マレンツィオ

 プリンス・ハラルド国防軍大将。国防軍総司令官。大将への就任祝いと、総司令部の顔合わせを兼ねて自宅でパーティーを開いた。その際、マレンツィオ夫人の作ったゼリーサラダが原因で、全員が食中毒を起こしてしまい(無論、彼もそのとばっちりを受けた)、総司令部はパーティー会場から病院へと直行してしまうはめになる。


マレンツィオ夫人

 マレンツィオ大将の妻で、国防軍総司令部を全滅に追いやった張本人。これまた、他の作品を探しても、この様な業績を上げてしまったキャラいるまい。彼女は、よく公私混同をしてしまうことがあり、その例として、新任少尉時代のシュタミッツに私邸の草むしりをやらせて、熱射病に掛からせてしまった。

 それ故にシュタミッツは、この妻を毛嫌いしている。寧ろ、それがあったからこそ、シュタミッツは食中毒という危険から逃れられたのではないだろうか。皮肉な話ではある。


マクファーソン

 プリンス・ハラルド国防軍大尉。シュタミッツの副官を務める。クルガンを嫌っているが、個性的なものではなく、害のある変人であるから、というのが理由らしい。因みにシュタミッツの事は害のない変人であると認識しているようである。


マルコム・ウィルシャー

 国防産業連盟理事。シュタミッツのやりくちに対して、嫌味と批難をぶつけてきた利権屋。司令部にまで押しかけてきて、アスヴァールを例に挙げて無能と批難したが、逆切れしたシュタミッツによって『二等兵として登録』させられてしまい(しかも敵前逃亡したら射殺OK)、最前線に送られてしまった。



タデメッカ

スーシー(『シェアードワールズ』版に登場)

 タデメッカ市の総裁。ジブラルタルの件において、ニュー・キャメロットの対応に追われている。外交によって解決しようとせず、武力によって早期に解決してしまおう、という考えがあるらしい。事実、共同事業である筈のジブラルタルを軍事的に占領してしまった。

 また、外交的な手腕は弱いようで、ニュー・キャメロット市のマーコック首席から一方的に丸め込められそうになった(戦争で不利な状況に追い込まれたのもあるが)。


ノースロップ・デイビス

 タデメッカ市議員。サンダラー軍侵攻時に、亡命してきたギュンター・ノルトに指揮を執らせてはどうかと提案した張本人。『亡命して住み込んでいるだんから、家賃の前払いだと思えばいい』と、自分の冗談に酔いしれいるところがある。


ギイ・レイニール

 年齢は50代。タデメッカ軍第二混成軍団司令官、中将。ブエノス・ゾンデ包囲網の時は、大同盟軍の取り纏め役として動いていた。が、それも最年長者であるが故である。

ブエノス・ゾンデでの戦闘中に退くに引けない状況に取り残されてしまい、挙句の果てに負傷してしまうという結果に至った。

 後の移住してきたブエノス・ゾンデの元司令官ギュンター・ノルトに対して、若い彼が自分よりも要人として扱われていることに嫉妬感を持っており、ジブラルタルで発生したニュー・キャメロット軍との戦闘でそれを払拭しようとした。

 しかし、結局はケネス・ギルフォードの計略に引っ掛かってしまい、二度に渡る敗北を味あわせられることとなった。


ハリマン・S・コットン

 年齢は70歳。タデメッカ軍中将、名誉司令官。年齢が高齢なため、軍司令官としては機能していない。


フバイル・アル・ハッサン

 タデメッカ生まれでサンダラー市の市民権も持つ、二重市民権の持ち主。父はタデメッカ生まれで、母はサンダラー生まれである。二重市民権は珍しくもないのだが、それが意外なトラブルの原因につながった。

 彼は実業家で、商才として恵まれていた。そしてタデメッカで会社登記を行う一方で、サンダラーに事業の本部を置いて、事業税や個人税の節約に努めていた。

頻繁に住所登録も行っているのだが、そのさなかで急性脳出血で頓死してまうという事態に直面した。ここで、先の二重市民権が問題となったのである。

 彼は妻子もなく、金銭を愛するような男だった。その莫大な資金や事業所は、タデメッカとサンダラーのどちらに渡されるべきか、というものであった。これが後に、戦争へと発展してしまう。

 漫画版では未使用の核ミサイルを海底で見つけ、それをラウル・ドルップやモーブリッジ・ジュニアに売り渡そうとしていた描写がある。なお、急性脳出血による急死の原因は、核ミサイル売買を阻止しようとした、とある冒険家が仕込んだ罠によるものであった。(飛行船をわざと上昇させて、オリンポス・システムを作動させようと見せかけた。それに怯え恐怖におののいた結果である)


オルセグン・バンクロフト(『シェアードワールズ』版に登場)

 年齢は37歳。ニュー・キャメロットとタデメッカで共同して行われている、ジブラルタル運河開発機構(GCDO)の総裁を務めている。総裁に選ばれた理由は、彼の能力によるものと言えば確かであるが、本当の原因は彼の潔癖さにあった。

 タデメッカ市にて部長を務めていた頃、開発事業者から賄賂を渡されそうになり、それを警察へと届けだした。それも2回や3回と続いており、汚職事件には手を染めようとはしない、彼の潔癖な姿勢が見て取れた。

 しかし、それを良しとしない議員もいた訳で、どうにかしようとした考えた結果、先のGCDOの総裁へ抜擢することとなった。これはGCDOが合弁事業であるが故に、相手側であるニュー・キャメロット側からの圧力や懐柔に屈しないだろう、という理由からである。

 また、彼は七都市だけの存在に疑問を持っており、その都市以外で八つ目の新しい都市の建設を夢見ている。このGCDOの参加者の多くもまた、新都市建設に賛同している。それについて、タデメッカに移住していたリュウ・ウェイや、ギュンター・ノルトらの支援を受けていた。


ファイザ・アドゥーヤ(『シェアードワールズ』版に登場)

 年齢は18歳。細い銅線を思わせる金赤色の巻き髪、しなやかさと豊かさを兼ねた身体、彫刻刀で掘ったようにくっきりとした目鼻立ちと外洋の色の瞳、エキゾチックさを持つ褐色の肌、という大抵の人が見れば美人と評される外見である。エジプト系と中西部アフリカ系の混血でもある。

 大転倒の影響で干上がってしまったジブラルタル海峡を、もう一度大西洋の海と直結させようというプロジェクトの作業員の一人。「『七都市物語』シェアードワールズ」の『ジブラルタル攻防戦』に登場するヒロインに当たる人物である。

 同僚のアーサー・アイマールと折り合い良くやろうと、何かと親しく勤めていこうと努力していた。気が強いらしく、兵士がアーサーに対してタデメッカの市章を付けるように言ってきたときも、平然として払いのけている。

 ぎこちない関係だったが、最後にはめでたくも、アイマールと恋人関係になった。因みにマリーンとは友人関係にある。

  

ムハンマド・ナヒード(『シェアードワールズ』版に登場)

 浅黒い肌に黒いひげを生やした男性。GCDOの工事進行主任を務める。生まれ故郷がべつであろうと、差別するような考えは持ち合わせていない人物で、タデメッカ軍が警備の名目でやって来た時も、ニュー・キャメロット市の作業員たちを庇っている。


ムハンマド・ガッサーン(『シェアードワールズ』版に登場)

 上記のナヒードと同じ名前であるが、兄弟であるかは不明。タデメッカ人特有の浅黒い肌を持ち、体格も良い。ニュー・キャメロット人に対する偏見はなく、同じ同僚として親しくしている。また、タデメッカ軍の前に堂々と立ちはだかり、ファイザの救助作業を妨害しないようにする勇気もある。また、夜な夜な飲み会をしているようで、出身地人関係なく飲み合っていることからも、彼の人徳が現れている。


ユーセフ(『シェアードワールズ』版に登場)

 ギイ・レイニール中将指揮下で、タデメッカ軍 第二狙撃兵旅団 第二狙撃中隊長、階級は大尉。

ニュー・キャメロットとの折り合いが悪くなったのを境に、共同作業であったジブラルタルを強制的に軍事占拠した部隊指揮官。名目上は護衛であるが、武力占拠であることには変わりはない。なにかと挑発的な行為をし、作業員たちに煙たがれた。


クンロン

副総裁

 名称不明。クンロンの副総裁であることだけは確かで、アクイロニアとニュー・キャメロットとの戦争の際に、リュウ・ウェイから中立を保ってくれるように交渉を受けた。実際には既にニュー・キャメロット側からも中立の約束を受けていたようで、ゴビ平原の地下資源を譲り受けてもらうのが条件だった。

 しかし、リュウからそれは一時的なものでしかないと忠告された挙句、言いくるめられてしまい、結局はアクイロニアとの約束を守ることに成ってしまった。


セサール・ラウル・コントレラス

 クンロン軍機械化狙撃部隊司令官、中将。対ブエノス・ゾンデ同盟軍の参加者の一人で、クンロン軍の代表者でもある。遠征自体に賛成していなかったが、上司の命令と自己の軍功とが遥かに重要性を持っていた。そのため、兵士の命は二の次というものである。

 そういった性格が災いしてか、ブエノス・ゾンデ軍の後退に釣られて前進してしまい、反撃を食らった。それも猛烈なもので、コントレラス中将はあっという間に戦死。しかも徹甲弾で上半身を吹き飛ばされると言う、なんとも悲惨な死を迎えたのであった。


ブエノス・ゾンデ

エゴン・ラウドルップ

 年齢は33歳。ブエノス・ゾンデの執政官を務めている若き指導者。31歳の頃に執政官に就任すると言う異例の若さであるが、それだけの支持率を彼は得て当選した実績がある。その政治家としての任期は絶大そのもので、彼の与党である「国家民主党」は支持率85%という数値を叩きだしている。

 もともとは職業軍人で、二度に渡ってクーデターを未遂に解決したことが、彼の名声を高めるに至る。非合法性ではなく、合法的な手段で着実に、彼は支持を集めていった。そして20以上の小党を結集させて「国家民主党」としたのである。

 性格は大胆で臆面がなく、行動力に富み、そして狭量な者をあざけ笑った。自己一身に権力を全て集中させ、一族にその地位や権限を登用させる等の策を講じたが、それさえも民衆に支持を得ていた。だが一方で、一族の一人アンケルは独占欲が強すぎると指摘しており、それはすべての美点を無に帰すると予想し、的中させた。

 「先制的自衛権」を主張しており、他の六都市から攻撃される前に攻撃してしまえ、とかなりアクロバットな論理を説いている。同時に軍事力によって歴史を作るとも考えている。

 彼は軍人としても高い手腕を持っており、彼の発案した戦闘ヘリ集団などがその一例である。高度500m以下を最大限に活用したこの発案は、機動力と破壊力を存分に発揮され、プリンス・ハラルド軍の戦車軍を壊滅に追いやった。

 しかし、プリンス・ハラルドへの侵攻が大失敗に終わるや否や、帰還後には反対派を徹底的に粛清した。恐怖と圧力で政治体制を維持するしかなかったが、その中にはアンケルも含まれていた。しかし、それも承知した上で平然として行っている(寧ろアンケルに至っては、処刑リストの第一号に挙げてしまっている)。

 この大粛清による恐怖支配が、他の六都市に大義名分を与えてしまい、一挙に侵攻を受けるはめになる。しかも有能な軍人まで粛清の対象にしてしまったため、急きょギュンター・ノルトを防衛司令官に任じた。

 その人選によって嘉禄も撃退に成功した。彼はノルトを英雄として賞賛したが、そのノルトから返されたのは銃弾だった。ラウドルップは、かつてパレードを催していたが、その際にノルトの妻が乗った救急車がパレードを絶対に優先させるために通行止めを食らってしまい、結局死んでしまったのが原因である。間接的にノルトの妻を殺してしまったことに気づくはずもなかったが、その憎しみを受けて、射殺されてしまった。

 また、自らが民衆にどう映っているかを常に意識し、民衆が望むままの「指導者」を演じることに精力を注ぎ、民衆から絶大な人気を集めるポピュリズム政治家の典型とも言える人物と言えるだろう。


ギュンター・ノルト

 29歳。ブエノス・ゾンデ軍所属の軍人で、登場時は階級は中佐、後に少将。妻であるコルネーリアを愛する愛妻家で知られているが、既に故人となっている。射撃の達人としても知られているが、演習中に誤って車両に足をひかれてしまった事で歩行が出来なくなってしまった。それでも妻の出した、ノルトが軍隊継続を願った手紙と、ノルトの射撃実績、デスクワークに支障が無いと言う理由から、軍隊での継続勤務を許可されている。

 ラウドルップがプリンス・ハラルド侵攻作戦を失敗し、それに付け込もうとするであろう反乱分子を尽く粛清してしまったがために人材不足に陥ってしまった。そこで目を付けられたのがノルトであり、中佐から一気に昇進して少将になった上に北部管区司令官に任命された。

 他国の優秀な指揮官に比べて奇をてらった策を用いる事がほとんどなく、6都市が大同盟を組んで編成した大兵力を前にして、全て教科書通りの兵法を運用し、それでもって勝利を手にしているのが彼の最大の特徴である。もっとも、これは同盟軍の連携が殆ど取られてないこと、率先して攻勢に出ようとしないこと、等が起因している。

ノルト本人も「単独相手だったら俺に勝ち目はなかった」(特にAAAやギルフォード、クルガン等)と独白している。

 しかし、実はラウドルップに激しい怒りと憎しみを抱いており、彼のパレードが原因で妻を乗せた救急車両がいかなる理由を持っても通過を許されず、結果として間に合わず死亡してしまったのである。大同盟軍に勝利した後、ペルー海峡に慰労に赴いたラウドルップと2人きりになったのを見計らい、怒りの思いを吐きながら彼を射殺。直後に異変を察して駆け付けた親衛隊に自分を殺すよう指示したが、逆に「ラウドルップの魔の手から救った英雄」として指導者になってくれるよう懇願されてしまう。掌を返したラウドルップの支持者達に逆に狼狽し、それから逃げる為に逃亡、アクロニアを経てリュウ・ウェイの居るタデメッカへ亡命した。

しかしその後、タデメッカとサンダラーの間で戦争がはじまり(ジャスモード会戦)、タデメッカ軍の最高司令官として就任。これを追い返すことに成功した。以後はリュウ・ウェイの農園に住み、彼と共にトマトの栽培に勤しんでいる。

ジャスモード会戦では防衛戦構築の隙の無さから、味方から「安楽椅子の司令官」と畏怖され、また一度独断専行したサイクルズ准将もその後のノルトの先見の明に長けた指揮を目の当たりにして、二度と彼に逆らわないと心に決めたという。

フクダイクミの漫画版では、少年兵と間違われる程の若々しい容姿で描かれている。


アンケル・ラウドルップ

 エゴン・ラウドルップの従兄。常識的な思考の持ち主で、エゴンの独占欲に強く危機感を抱いていた一人である。議会の場でも少数派の反対派として立場を取っていたが、エゴンに絶大な支持を寄せる議会員や一族たちには煙たがれ、忌避された。

 しまいには「ラウドルップ家の面汚し」などと呼ばれるはめになり、挙句には牢屋に放り込まれてしまった。エゴンがプリンス・ハラルド軍に大敗を喫して帰国した際、釈放されるかと思いきや粛清の対象にされてしまった。

 このことについては予想で来ていたようで、生きて再会できぬことを妻に詫びながらも、エゴンの横暴を止めることさえできなかった己の不甲斐なさを責めながら、最後は粛清されてしまったのである。


テレジア・ラウドルップ

 アンケルの妻。良き夫人で、アンケルの身を案じていた。エゴンが敗北したことで、アンケルが釈放されると予想していたが、それに反して粛清されると知って泣き崩れてしまった。その後、ブエノス・ゾンデを完全に占領したアクイロニア、ニュー・キャメロット、プリンス・ハラルドの三都市軍が、代わりの指導者として求められる。

 しかし、同じ一族が再び指導者になったのでは、かつてのエゴンと何も変わらない、と辞退している。その健気な姿勢から、直接に申し出てきたカレル・シュタミッツは感動したとされる。


スピルハウス

 占領されたブエノス・ゾンデの新しい指導者。法学者で、政治指導者としての力量は未知数であるが、占領した側からすると、権益やら決まり事を護ってくれればよいのであって、突出した能力は求められてはいない。



ニュー・キャメロット

ケネス・ギルフォード

CV:(OVA版/cv大塚明夫

 年齢は29歳。ニュー・キャメロット政府幹部で階級は准将。後に中将へ昇進し、水陸両用部隊司令官に任命される。長身で貴族的に思える金髪の美貌の青年だが、やや血色の悪い顔色、左頬に斜めざまに走る一本の傷跡、鋼玉に似た瞳、という尋常ならざる容貌である。

 逸話として、その鋭い眼光だけで一個中隊の敵を制圧した、とまで囁かれている。真相は不明だが、相手を目線だけで威圧できるの事実であり、それが上官であろうとも階級に関係ない。だが、口調は礼儀正しく、礼節を弁えてはいる。その傍ら、誰に対しても容赦ない発言をする為に、政治家や軍上層部からは煙たがられている。

 しかし、用兵家としては尊敬されており、水路における小型舟艇による機動戦は、他の追随を許さなかった。「軍事は政治に従属する」という考えを持っており、如何に無謀な出兵を繰り返す政治家に嫌悪感を抱いても、渋々と従っている。勿論、出陣するからには軍人として責務を全うし、味方の犠牲を最小限度にしようと努めている。

 詭計や策略も駆使しており、アクイロニア首都に繋がるレナ川河口付近にて待ち伏せするアクイロニア外洋艦隊を、脱走兵に偽情報を吹き込ませて捕虜にさせることで偽情報に食いつかせた。案の定、外洋艦隊は罠に引っ掛かり、ギルフォードの奇策で壊滅に追いやられてしまったのである。

その後、ペルー海峡攻防戦では他の5都市と共にブエノス・ゾンデへの侵攻を命じられたが、ギュンター・ノルトの防衛戦を破る事は叶わず撤退している(但し撤退直前、アスヴァールと連名でノルトを称賛する文書をブエノス・ゾンデに送り付けた)

 因みにOVA版では、戦艦や巡洋艦と言った戦闘艦を指揮しており、純粋な艦隊司令官と言う色を濃くしているのが特徴である。また、モーブリッジ・ジュニアから軍司令官になってくれという勧誘をされたものの、「欲望に狩られて動く何処かの政治家とは違います」と平然に突っぱねている。

 これが原因で無理難題な作戦を押し付けられたりしたが、同作では、アクイロニア補給基地の防衛艦隊を、巧妙な艦隊運動で機雷源に誘い込んで自滅を図るなど、原作とはそん色ない手腕を見せつけた。


チャールズ・コリン・モーブリッジ・ジュニア

CV:(OVA版/CV矢尾一樹

 アクイロニア前元首チャールズ・コリン・モーブリッジの息子。周囲からは尊敬の意味でも、皮肉に意味でも「元首のご子息」と呼ばれている。父の政権で首席秘書官・副元首を務め、ゆくゆくは「モーブリッジ王朝」の2代目として元首に就任するはずだった。

 だが、父の急死によって目論見が外れてしまう。市民からもうんざりされていたという事もあって、選挙では対立候補であるニコラス・ブルームに敗北してしまう。その後は、副元首時代に行っていた公金横領が発覚し、ニュー・キャメロットへの亡命を余儀なくされた。

 1年後、ニュー・キャメロット政府高官達との交渉の末に、アクイロニアへの武力干渉の約束を取り付けることに成功した。その侵攻軍には、自らが総司令官となり、軍事顧問としてシャン・ロン少将、ギルフォード准将が就いた。

 巧言令色を振りかざすだけでなく、ある程度の軍事的才能も有しており、その策は見事にアクイロニア軍の後ろを斯いた。ギルフォード准将の奇策でアクイロニア外洋艦隊の大半が撃滅されたこともあって、後は本拠地に攻め込むばかりと楽観視した。が、案の定、今度はアスヴァールの仕掛けた作戦にはまって敗れた。

 OVA版では、ギルフォードの事を有能な人材として観ており、アクイロニア奪還の暁には彼を軍司令官として迎えたがっていた。しかし、頑なに断ったり、逆に痛烈な皮肉を浴びせられたことで考えは一遍。ギルフォードに無理難題を押し付け、いっそのこと戦死させて始末してしまおうと図った。無論、その尽くを裏切られてしまい、唖然としていたが。

 敗戦後は行方不明になっていたが、西暦2193年、ラウドルップを喪って混乱が続くブエノス・ゾンデに突如姿を現し、蝶ネクタイ党・黒リボン党を上回る一大政治勢力を築き上げ政権奪取を図る。しかし、アクイロニア、ニュー・キャメロット、プリンス・ハラルドの三都市軍による武力干渉を受け敗北。再び逃亡するが、下水道に身を潜めていたところを発見され拘束される。その後、アクイロニアに送還され裁判を受けることになる。


シャン・ロン

CV:(OVA版/梅津秀行

 ニュー・キャメロット軍、少将。ギルフォードの上官であり、出兵に反対であった彼とは違って、シャン・ロンは出兵に反対はしていなかった模様。レナ川の上流から下って一気にアクイロニア首都を直撃する、というモーブリッジ・ジュニアの作戦案に反対していたギルフォードを納める為に、戦力を二分してのレナ川を上下からの挟撃戦を提案した。

 ギルフォードは反論しようとしたが、上司である彼に逆らうのを止めてしまった。だが、結局はギルフォードの不安は的中した。ギルフォード自身は河口で大勝利した反面、彼が同乗する上流部隊はものの見事に大敗を喫してしまった。その後、敗軍の将である彼に対してアスヴァールには丁重に扱っている。

 OVA版では二正面作戦を提示してはおらず、モーブリッジ・ジュニアがギルフォードの戦死を望んで提示した。その際にシャン・ロンは、その作戦は無謀だと真面な反論をしている。


チェンバレン

CV:(OVA版/井上喜久子

 ニュー・キャメロット軍の女性士官、大尉。OVA版にのみ登場した、ギルフォードの副官である。ギルフォードの身を呈して守ろうとするなど、気丈な人物である。また、出兵自体に反対するなど、ギルフォードと同じ意見の用で、いずれ上層部は思い知るであろう、と忠告している。





現状

既に記してあるが、1989~1994年に作者本人の筆が絶えて以来本編の更新は一切されていない。

2005年の同じ「らいとすたっふ」所属の横山すら参加したシェアードワールズの刊行や、2017年のコミカライズ決定の際には『すわ、執筆再開か!』と往年の読者は期待したがそんなことは無かった。そして、2019年11月20日にコミカライズ第5巻(最終巻)が発売されて以降、再び「七都市物語」の新規メディア展開は途絶えた。

むしろ、田中作品の界隈では定例化した、忘れた頃に(最悪完結すらしていない)過去作品を引っ張り出してきて定期的にメディアミックスしていくどこか開き直った姿勢をみて「先生またですか…」という感情に陥ったファンの方が多かったともいわれる。


当の田中芳樹本人は2018年の『アルスラーン戦記』完結記念インタビューの際に今後はこれまでよりもさらに暇を作ろうと思ってますので(笑)と述べており、本作の執筆再開はなおさら絶望的となっている。


加えて、ポーズなのか本意なのか不明だが他の中断作品への姿勢を問われた際に「『今は』書きたくないだけで、このあとその気になるかも知れないという意味合いの主張もしているので、読者・ファンはより一層に生殺し状態に追いやられていて、不特定多数の人間が行き場の無い感情を燻り続けるよりなくなっている状態にある。


評価

上記の通り、『銀英伝』や『アルスラーン戦記』といった作家としての田中芳樹の評判を高めたSF乃至は仮想戦記のジャンルに属する。


そうであるが故に人気も高いが、田中は90年代中盤を境に本作や『灼熱の竜騎兵』といったSF・仮想戦記作品の執筆を次々に中断し、僅かに『アルスラーン戦記』のみがかろうじて更新されていくだけとなる。

これ以降、田中芳樹は創作のメインをジュブナイルライトノベル調の軽いタッチのものに移してしまい、その中には(明らかに本人の私見増しましな)現実社会への社会派な記述が多くみられるなど、およそ初期の作風とはかけ離れた部分が多くなっていった。



そういう意味で本作は、『銀英伝』の系譜に連なる田中芳樹が手掛けた『正当派な』SF・仮想戦記作品の最後のグループに属すると見做されている。



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