共同性・同一性・安定性
概要
「人工子宮で人間が製造され、道徳的ディストピアとなった未来世界を描く小説」として知られている。題名の「すばらしい新世界(Brave New World)」とは、シェイクスピアの戯曲「テンペスト」の中に出てくる台詞から引用されて、作中でも使われる台詞である。
「おお、なんというすばらしい新世界!こんな人達が居るなんて!」
あらすじ
最終戦争後、安定至上主義が掲げられ、文化という文化は焼却され、神の代わりに大量生産の始祖で自動車王のヘンリー・フォードが崇拝され、胸元で切るのは十字ではなく、T型フォードを表すT字になった遠い未来。
人間は人工受精によって培養ビンの中で養育され、家族制度は消滅し、家庭という言葉が連想させるのは陰鬱と不潔、そして猥褻という言葉になり、幼少からフリーセックスが奨励され、特定の個人に執着することは忌むべきものとなっていた。
倫理というものが根本から現代とは異なるこの世界では死者さえマトモに弔わず、火葬場で焼いたら、そこから産出したリンを食料生産の肥料にされるのである。
この世界では階級制度というものが設けられており、人間はアルファ・ベータ・ガンマ・デルタ・エプシロンの五つに製造し分けられ、前者の二つは知識人階級として優れた容姿、優れた能力が与えられ、後者の三つは労働者階級としてわざと身体機能や知能が劣らされ、社会の役割分担ともいうべきことが行われている。
しかも人々には睡眠学習による刷り込みが施され、一粒でどんなストレスも吹っ飛ばす、ソーマという副作用なしの麻薬が与えられているため、誰もこの社会構造に疑問を抱かず、誰もがこの世界に幸福を感じている。
──もしユートピアの定義が万人が幸福を感じているというところに有るなら、この世界こそがそうだと言えるだろう。
ところが、この社会にもやや不満を感じている者が居た。
出生時の工程ミス(アルコール混入)で低い階級の容姿に生まれてしまい、劣等感をもっているバーナード・マルクスと、
能力が高すぎる完璧超人ゆえに孤立しているヘルムホルツ・ワトソンである。
バーナードは友人のレーニナ・クラウンと共にインディアンの蛮人保存区を旅行しているとき、ジョンというシェイクスピアを耽読する青年と出会う。彼が上司の私生児である事を見抜いたバーナードは、彼をロンドンに連れ帰る計画を立てる。倫理観や常識が旧世界のままである“野蛮人”を堕落にまみれた、“すばらしい新世界”に連れていく事で、喜劇とも悲劇ともつかぬ大騒動が始まってしまう。
関連タグ
機動戦士ガンダムSEEDDESTINY…デスティニープランの目指すところがこの世界に似ている
ダーリン・イン・ザ・フランキス…妊娠・出産の必要が消滅し、結婚が重罪扱いされる未来社会が舞台。
1984…この世界と性質を逆にする世界が舞台。同じく有名なディストピア小説