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概要

ギリシャ語で「どこでもない場所」という意味で、下記のトマス・モアの著作およびその中に出てくる国の名前を由来としている。「いまだ実現していない、理想の社会」を描くことで混沌とした(当時の)現実社会を批判した小説であるが、実際には「単なる理想郷」として描いたのではないとも考えられている。

対義語はディストピア。ただ、現在の価値観からすると、モアの「ユートピア」も画一的な管理社会でディストピアのように見え、ユートピアはディストピアの一種であるという見解もある。

ユートピア(トマス・モア)

イギリスの法律家トマス・モアにより1516年に出版された小説。全編がラテン語で書かれている。現実世界とは隔絶された架空「アブラクサ島」の上に建てられた国での政治社会風俗を三部構成で記した物語である。この書物で描かれる社会は、福祉制度、安楽死、宗教の自由など、当時の時代背景からするときわめて先進的な面を含んでいる。

モアは「ユートピア」を「最善の国家」と明言しているにもかかわらず、彼の立場(大法官)や、彼が信仰したカトリックの価値観にそぐわない部分が多々見られるため、この本を書いた意図についてはしばしば議論の的になる。特に安楽死はカトリックの教義と明らかに矛盾するため、モアは「ユートピアの社会像を通じてプロテスタントを嘲笑しようとしたのであろう」という見解もある。

ユートピアは南米の沿岸部の一部に建設された土地で、水路で完全に大陸から切り離されている。首都はアモーロート(暗黒の意)で、アナイダ川(「水のない川」の意)の近所にある。これはロンドンとテムズ川がモデルとされている(岩波文庫版の注釈に書いてある)。 都市は54(これは16世紀英国+ロンドンの数である可能性が指摘されている)あり、各都市は同一の建設計画で作られている。法はあえてシンプルに制限されているため法律家はいない。住民は私有財産がなく、家は抽選で割り当てられ10年に1回分配し直され、衣服は皮革製の既製服に上着という質素なもので、病気に罹ったら最高の医療体制で治療が受けられる代り、症状が重篤になると自死が勧められる。住民には奴隷が宛がわれるが、犯罪を犯した者か、他国から自ら望んでユートピアの奴隷となった者たちである。ユートピア人は国民皆兵で、戦争の際には島の東にいる勇猛な民族ザポレット(「喜んで身売りする人」という意味の語だから「Venalia」ヴェナーリア)を傭兵として使う。

作中にはこの他、ペルシャ領にある、独特の刑法(窃盗犯は盗んだものを返した後で強制労働)で紹介されるポリレロス(多愚の意なのでトールストリア「Tallstoria」と英訳される)、ユートピアの近隣にあり、隣国の併呑に成功したものの経営が行き詰まってしまったアコーラ(無可有郷の人の意。「Nolandia」ノーランディア)、国王は戴冠の際、法律(国庫へ1000ポンド以上を入れてはいけない これは自国の経営には充分であるが無駄な徴税と他国への侵攻はできないとされる額)を守る宣誓書へサインをするマカリア(祝福されたの意だから「Happiland」でハッピーランド)なども登場する。

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