概要
法律上の定義は火葬を行うために火葬場として都道府県知事の許可をうけた施設である。(墓地、埋葬等に関する法律。第2条7項)
現代では火葬場を斎場や、聖苑、斎苑とも呼ぶが、意味合いは同じである。
元々"斎場"本来の意味は祭祀儀礼を行う場所および祭祀儀礼を行う施設全般を指す呼称であり、火葬設備を有せず通夜・告別式のみ行う施設で斎場と称するものも多い。
日本では土葬の風習があまりないため(ただし、昭和中期辺りまでは地方では土葬はあった)、火葬が占める割合が100%に近い。
火葬場と言えば、墓地の中に古びた建物がポツンとあり、火葬中はその高い煙突から紫の煙が昇る"焼き場"(三昧とも)……。というイメージが強いが、1990年代以降に建設された火葬場では排煙処理技術の向上や迷惑施設として嫌われるのを防ぎ、周囲に調和するよう極端に高い煙突は設けられなくなっている。また、建て替え工事などで墓地から移転し、外見上は美術館かホテルのような雰囲気の施設が多い。最近では目立ちやすい宮型霊柩車の乗り入れを拒否・禁止している火葬場も多く存在する。
火葬場の運営はその施設の特性上、市区町村などの地方自治体や複数の市区町村によって結成された事務組合によるものが多いが、一部民営・業務委託・半官半民、完全民営形態の火葬場もある。
火葬された遺体は骨が残る。日本ではあえて人骨の形状を残し、これを遺族達が拾い上げ、骨壷へ収め"遺骨"として弔う。(骨上げ、骨拾い)
西日本では主要な骨のみを、東日本では基本的にすべての骨を収める。
骨壷へ収められなかった骨や灰は、"残骨灰"として場内の慰霊墳墓や公営墓地で合葬されるか、専門業者が回収してコバルト・ニッケル・チタンなどの希少金属や貴金属を選別・回収し、合葬か埋立処分される。
火葬炉の構造
台車式
車輪を有する鉄製枠の上面に耐火レンガまたは耐火キャスタブル製の床板を張った台車が炉室床の役割を果たし、その台車上に棺を置いて火葬する。また、昭和後期に建設された火葬場を中心に、炉前ホールと火葬炉の間に、前室というモノが設けられている。
技術的には1炉で1日4体以上の火葬も可能だが、運用上の問題から1炉あたりの火葬件数は1日2~3体程度としていることが多い。
日本人の死生観故か、最近建設される火葬炉は大体この台車式を採用している事が多い。
メリット
- 構造上、遺骨がほぼ人体形状を保ったままきれいに残る。
- 遺族に火葬炉を直接見せなくて済む。(前室を設けた場合)
デメリット
- 遺体が骨化するまで約1時間、冷却に約30分とロストル式に比べ時間がかかる。
- 運用の制約上、火葬件数は2~3体とロストル式より少ない。
- 建設コストが高い。
ロストル式
炉内にかけ渡した数本の金属棒で作られた格子の上に棺を直接載せて焼く方式。
ロストルとは食品を焼く網やストーブ等の火床格子を指すオランダ語の"rooster(ロースター)"が語源。
腹部の大腸、小腸などの内臓部分は水分が多くここだけが焼けにくいが、ロストルと炉底部の骨受け皿の間に空間があるため棺が燃え尽きた後も炎は遺体の下にも回る。
台車式に比べて早く骨化するため、火葬件数が多い都市部では好まれる傾向にあり、多いところでは1炉で1日に5体の火葬を実施している所がある。
例として、東京23区内にある火葬場(臨海斎場を除く)や京都市の京都中央斎場など。
メリット
- 遺体が骨化するまで約40分、冷却に約20分と台車式に比べ短時間で済む。
- 骨受け皿を入れ替えれば、炉の冷却を待たずに続けて火葬できる。
- 建設コストが安い。
デメリット
- 遺骨は格子から骨受け皿に落ちるため多くの場合位置関係はバラバラになる。
- 構造上、前室が設けられないため、遺族に直接火葬炉を見せてしまう。(一部例外あり)
現代の火葬場事情
施設
上でも述べた通り、一目で火葬場とはわからないようなデザインが多く、大体は遺体と最後の別れをする告別室。エレベーターみたいな扉が整然と並ぶ炉前ホール。骨上げを行う収骨室。その骨上げまで待つ待合室が設けられている。場所によっては霊安室。通夜、葬儀を行える式場や控え室。骨壺を売っている売店などが設けられる。
とはいえ、この辺りは施設設計者の考え方、自治体の財布という大人の事情もあり、三者三様である。例えば関西地方では火葬中に精進落としを行う習慣があり、待合室が設けられても小規模なものが多い。
火葬炉の大きさも昔は2m以内のものが多かったが、最近では一部を大型炉にし、2mを超える棺の火葬にも対応している。
なぜ2m以内なのかというと、棺の大きさが6尺(メートル法で180cm)だったため。だが日本人の体格向上にあわせて、近年では6尺5寸(195cm)の棺が用いられる事もしばしばである。
公害防止策としては再燃焼炉やバグフィルター、集塵機などを兼ね備えている。
これらの設備のおかげで煙突を設ける事がなくなったと言っていい。
燃料としては白灯油が採用される傾向がある。近年ではクリーンエネルギーである都市ガスが採用されることもしばしばである。ただし災害対策としてバックアップにLPガスや白灯油を使えるようにしている所が多い。
問題
現在、全国的に問題になっているのが火葬場の過密スケジュールである。
特に都市部は分刻みで予約が詰まっており、少しでも式次進行が滞って火葬場へ遺体の搬送が遅れると、後回しにされて火葬する順番を待たされることになる。最悪の場合、再手続が必要なことも。
関東都市圏では顕著で、火葬まで日数がかかることもザラにあるらしい。(火葬難民、葬儀難民)
原因は言わずもがな、「超高齢化社会」となった日本の現状そのものにある。
加えて、火葬場という「死が存在する場所」に対する忌避感から、火葬場はもとより葬儀場そのものの敷設に対して、過敏に反応する住民も少なくない。よって施設の増加も難しい現状がある。
この二つにより、増える需要に対して供給が追い付かず、しかも供給量も増やせないという、板挟み状態から、火葬場も過密スケジュールで乗り切るしかなくなっている。
火葬場を改築して炉を増やすにも、市営の場合は予算を通して市議会に案を可決させるしかないので、どうしても後手に回りがちになる。葬儀社の私営であろうと一つ炉を増やすにも赤字決済は覚悟する必要がある。(型式にもよるが、炉一基で数億円ともいわれる)
さらに改築中に回ってくる火葬の代行先の問題もある。
解決策があるとすれば、反対派と辛抱強く交渉を進め、理解を得たうえで増設を計画するしかないだろう。いずれにせよ、いつかはこの世に遺った身体が最後にお世話になる施設である。
どうしても交渉が難航する、予算がつかないとなると、年齢別の人口が最大である世代の大半がこの世を去るであろうここ20~30年がピークとも考えられるので、時間が解決するのを待ってひたすらギリギリのスケジュールで凌ぎ切る事になるのかもしれない。(その子の世代も人数は同等であるが、その時は総人口自体が減少しているので、若年層の遺体受け入れが減る分全体の火葬件数は少なくなると考えられる)
余談だが、火葬場のピークは友引前と友引後。そしてお昼時と言われている。(友引に葬儀をしない&出棺時刻は11時30分か12時30分)
世界の火葬事情
インド
ヒンドゥー教を信仰するヒンズー教徒が8割を占めるインドではヒンドゥー教の習慣に基づき火葬が好まれる。火葬炉を用いず、川原などの野外に薪を積み上げてその上に遺体を置いて点火する「野焼き」が主流。
特にワーラーナシーのガンガー近くで死ぬと輪廻転生の苦しみから解脱出来ると信じられ、ワーラーナシーは年中火葬の煙が絶えることはない。
イギリスがインドを統治していた頃、イギリス人が火葬に対して抱く嫌悪感、価値観の違いから火葬場を郊外へ移転させようとした。しかしこれにワーラーナシーの人々は大反対し、30年にわたって論争が続き結局イギリスが折れる形になった。
ネパール
インド同様ヒンズー教徒が多数派を占めるネパールも火葬が多い。首都カトマンズにあるパシュパティナート寺院には大規模な火葬場が併設されており、ヒンズー教徒以外も有料で見学できる。
韓国
儒教が主流の韓国では遺体を火葬することは伝統的に先祖に対する不孝であり禁忌とされ、土葬が主流だったが、都市部を中心に墓地不足が社会問題化し火葬が徐々に増えつつある。
特にソウルのソウル市火葬場は竣工までに14年を要したが、外観は美術館を模して最新のデザインを取り入れ、周辺の景色と調和するように設計されている。
欧米
欧米でも火葬を行う事例はある。日本と異なり、火葬場に遺体を預け、後日遺骨を受け取るという流れが主流で、骨上げの習慣がないので遺骨を顆粒状に砕き、様々な形状の骨壷に収められて引き渡される。骨壷の形状は故人の趣味に合わせた多様なものが準備されている。