概要
『鳥人戦隊ジェットマン』第47話のサブタイトル。
察しの良い特撮ファンであれば、この組み合わせと聞くだけでどんな内容なのか想像がつくだろう…
あらすじ
魔神ロボベロニカとジェットマンの決戦の後ラディゲが姿を消した事で、実質的にバイラムの頂点に上り詰めたも同然となったトランザ。
そして新たに開発した兵器「バイオガン」で因縁のジェットマンと決着を付けようとしていた。
一方、リエの墓参りに来ていた天堂竜は同じく墓参りに来ていた男が花を手向けていた墓石に自身の名前が書かれていたのを目撃する。
男の正体はトランザだった。レッドホークに変身して立ち向かう竜だったがトランザに翻弄され、そのまま磔にされてしまう。
そこに4人が駆けつけ、レッドホークを救出するがトランザは新兵器・バイオガンを出し、イエローオウルを石板に変えてしまった。
さらに戦いの最中、爆風で吹き飛ばされたレッドホークが崖下へ転落。
その様子を見た小田切綾長官はこのままだと即座に全滅してしまうと判断、全員に逃げるように指示する。
一方、目を覚ました竜は謎の男に手当されていた。
彼は自分の事を「トランザに恨みを持つ者」とだけ語り、仲間達が危ないから早く向かおうと告げ、竜と共にトランザの元に向かう。
その間にも、トランザによって早坂アコ、鹿鳴館香、そして結城凱も倒されてしまう。
何とかトランザの元に辿り着いた竜と男だったが、トランザはレッドホークも石板にしてしまおうとする。すると男はレッドホークのブリンガーソードに2人のパワーを込め、エネルギーを受け止めようと提案。やってみるんだという男の声にレッドホークは覚悟を決めた。
発射されたバイオガンのエネルギーに押される2人だったが、力を振り絞りエネルギーを跳ね返すことに成功。そのエネルギーでバイオガンを破壊した。
形勢逆転となった二人は男が自らの肩を踏み台にレッドホークを飛ばせて攻撃させる。しかし、地上で揉み合いになった際にわずかな隙をトランザに突かれ、レッドは羽交い締めにされてしまった。
激昂して走り出す男に向かって、トランザはレッドの命を盾にする。
「来るな!レッドホークの命はないぞ!」というトランザ。
その瞬間、その男の顔に邪悪な笑みが浮かび、そしてついに正体を現した。
「トランザ、所詮貴様は流れ星!いかに輝こうと、落ちる運命にあったのだ!!」
彼の正体は第45話後行方不明になっていたラディゲだったのだ。
そしてラディゲはもう貴様に用はないとレッドホークごとトランザを倒そうとするが、レッドホークはトランザの身体を盾にして攻撃を防ぎ、脱出。トランザに大ダメージを与える。レッドはスマッシュボンバーでラディゲを退け、トランザにもスマッシュボンバーでダメージを与えた。その際にトランザの腕の装置・メタルトランサーが破損、ジェットマンも元の姿に戻った。
全員揃ったジェットマンはトランザにファイヤーバズーカを発射。バリアを張れなかったトランザは大ダメージを受けると共に急斜面を転落していった。
こうしてすべてを失ったトランザは自分の敗北が信じられぬまま、惨めに地べたに這いつくばっていた。そんな彼に追い討ちをかけたのはラディゲだった。
ラディゲは剣をトランザの片手に突き立て、残忍な笑みを浮かべながらさらに彼をいたぶる。
ラディゲ「トランザ……俺の名を言ってみろ!」
トランザ「あああああ!! …ラ、ラディゲ……」
ラディゲ「何!? トランザ、俺の名を言ってみろ!!」
トランザ「ラディゲ……」
ラディゲ「何ぃ!? “ラディゲ”だとぉ!?」
トランザ「あああああ!! ……ラディゲ様ぁぁぁーっ!!!」
それは、以前トランザがラディゲに行った仕打ちと全く同じものだった。
この時をもってして、ラディゲの長きに渡るトランザへの報復が遂に完遂されたのだった。
ラディゲ「そうだ! ……だが殺しはせん。人間として生きながら、一生俺の名を恐れるんだ!!」
満悦な笑みを浮かべつつ、そう言い放たれながら、敢えてトドメを刺す事なく高笑いを上げながら去っていくラディゲを、戦う為の力もバイラムの“帝王”という地位も失い、ボロボロにされた身体を抱えて絶望しきったトランザは、ただ地面に倒れ伏しながら見送る事しかできなかった…
場所が変わって『城東脳神経外科病院』と呼ばれる重々しい雰囲気の精神病院――-
そこには、一人の「身元不明の廃人状態の患者」が搬送されていた。
診察室から出てきたその患者を見送りながら、医師達はあまりに惨たらしい状態のその患者について話題が尽きなかった。
医師A「あの患者、まだ身元がわからないのか…?」
医師B「ああ……ひどいもんだよ。脳神経がズタズタにやられてる…。一生あのまんま(の状態)だそうだ……」
車椅子に乗せられ、生気を感じさせない虚ろな目を浮かべ、口からは涎を垂らしながら、隔離病棟へと移送されていくその重症の患者の正体は、ラディゲに心身共に甚振り尽くされたトランザであった。
トランザ「うわああああああーーっ!!! 助けてくれーーっ!! 許してくれ、許してくれーーっ……!!!」
ラディゲによって植え付けられた恐怖・絶望・苦痛は決して拭える事はなく、隔離病棟の鉄格子の扉が閉ざされた音に反応したトランザは、そこに存在しない筈のラディゲの幻に怯え、錯乱し、医師や看護師達に取り押さえられながら、物語は終幕する……
かくして次元戦団バイラムの“帝王” トランザは、かつて自らが追い落とした筈の宿敵 ラディゲの報復によってその全てを失い、そして彼から宣告された通り、二度と拭える事ができない恐怖と絶望に悶え苦しみながら、それまで自分が格下の存在としてゲーム感覚で甚振り生き続けてきた別次元の人間の一人として生き続けなければならないという死ぬよりも酷く、そして最早『因果応報』などという言葉では片付けられない程に悲惨極まりない形で物語から退場したのであった…。
この子供向け特撮番組とは思えない超ド級の壮絶ラストは、当時の全国の良い子と大きなお友達関わらず、大きなトラウマを与える事となり、それに伴い当回自体もスーパー戦隊シリーズの長き歴史において良くも悪くも忘れ難き一話となったのだった。
余談
- 当回の台本読み合わせの際に、シナリオを一通り読み通した出演者達は、その子供向け番組とは思えない凄惨極まりない内容に、皆思わず絶句したという。
- また、トランザの成長前の姿だったトランを演じていた久我未来氏も、テレビ放送で当回を視聴後、ショックのあまりしばらくテレビの前で茫然自失となってしまったという。
- 当初の予定ではトランザはそのままラディゲに殺害されるという形で退場する展開が予定されていたが、トランザ役の広瀬裕氏が「どうせ死ぬのなら、やりたいようにやらせて欲しい」と提案でこのような展開になったという。
- 言うまでもなくプロデューサーを始めとする制作陣の大半から大反対を食らったものの、広瀬氏の容赦のない大胆な発想を気に入った井上氏や東條氏からお墨付きを貰う形で採用されるに至った。
- 一方でラディゲ役の館大介氏は、当回をきっかけに元から劇中におけるラディゲの凶行のせいで視聴者から芳しくなかった好感度が最悪なものとなり、当時の子供に石を投げつけられる等の被害に遭い、脚本を担当した井上氏を相当恨んだらしい。また子供にこの話を見せたところ、しばらく口を聞いてもらえなかったという。
- 『ジェットマン』よりプロデューサー補として制作に参加していた白倉伸一郎氏も後年、当回のラストシーンについて語った際には「現在は言わずもがな、本来であれば当時(1992年)の基準でも、放送禁止になってもおかしくないレベルにエゲツない内容であり、脚本通り撮影するか否か、ギリギリまで制作陣の間で議論が繰り返された」と打ち明けている。