罵声大会
鉄道ファン、特に撮り鉄の興味の対象となりやすいのが、団体列車・お召し列車・蒸気機関車・廃車回送・工臨などの所謂「臨時列車」や、廃止・引退間際の「ラストラン」である。
非常に珍しい、又は二度と拝めないその雄姿を写真に収めようと、駅や撮影ポイントには撮り鉄が集合する。そこでただ写真を撮って帰るだけなら平和に終わるのだが、現実はそうもいかない。
撮り鉄たちは一度きりのチャンスを最高の形で撮るために、ピリピリしていることが多い。
そんな人たちが集合し、互いの緊張感やストレスが爆発した結果、大声で暴言を吐く輩が現れる。
すると他者もつられて暴言の応酬が始まる。
これが罵声大会である。
罵声大会が起こる理由
発端となるのは、他の撮り鉄・一般客・駅員などがファインダーに映り込んで邪魔になる、他者がフラッシュを焚く、単純に狭苦しさから来るイライラなど。
要するに、彼らにとっては死活問題だが一般客から見ればどうでもいいような些細なことである。
補足すると、列車に向かってフラッシュを焚くのは運転士の視界をくらまして信号や標識確認に支障をきたす恐れがあるため御法度である。
しかし、彼らが怒る理由はフラッシュがバルブ(長時間露光させる夜間撮影の手法)の障害になるからであり、運転士への配慮ではない。
一度罵声大会が始まると自浄作用はまず働かず、対象の列車が通過するまで収める術はない。
駅員が注意しようが効果はなく、逆に駅員が罵声の対象になることも多い。
その様子は動物園にも喩えられ、傍から見れば素人カメラマンの群れが大声で騒いでいるだけの滑稽な光景である。
また、何故かオウム真理教ソング『魔を払う尊師の歌』が度々流れる。都市伝説によると、撮り鉄狙いの宗教団体の勧誘対策らしい。
昼間だろうが真夜中だろうが、都市部だろうが住宅地だろうが彼らにはお構いなしなので、騒音が問題なのはもちろん、鉄道会社の解釈次第では威力業務妨害にあたる可能性がある。
鉄道会社の対応
各鉄道会社もこの実情に頭を抱えており、JR東日本では罵声大会防止のため撮り鉄ごと排除する試みが行われた。
それは2017年に運行開始したクルーズトレイン「トランスイート四季島」の一番列車である。
起点である上野駅の乗車ホームは乗客とメディア以外の立ち入りを禁止、更に反対ホームには長編成の回送列車を置き、四季島の姿が見えないようにした。
Twitterでは撮り鉄から不満が噴出したが、世論は概ねこの対応に賛同しており、撮り鉄に対する視線の冷たさが垣間見える例となった。
2018年、東京総合車両センターの一般公開イベントでは事前の告知なしにEF58 61号機がサプライズ展示された。
同機はお召し列車を長年牽引した人気の高い機体であり、展示も10年ぶりということで、来場者は大いに沸いた。
しかし、ここでもやはり罵声大会に発展。ファン同士の揉み合いだけでなく、安全誘導のために配置されたJR職員にまで食って掛かる暴徒もいた。
その結果、JR東日本は翌年の同イベントでの車両展示自体を中止。
理由は「車両の都合がつかないため」と説明しているが、この決定に前年の騒動が影響している事は想像に難くない。
このように、罵声大会や鉄オタの暴走は結果的に自身の首を絞めることになると複数の実例で示されている。
これ以上同じ悲劇を繰り返さないためにも、鉄道ファン各位はマナーを自戒されたい。