ロイド・フォージャー
ろいどふぉーじゃー
子ども(じぶん)が泣かない世界
それを作りたくてオレはスパイになったんだ
概要
本作の主人公。西国の諜報機関「WISE(ワイズ)」に所属する敏腕スパイ。
組織内でのコードネームは〈黄昏(たそがれ)〉。本名は別にあるが、スパイになった時に自ら捨てている。また、62話の過去編においても、名前を呼ばれるシーンこそあるものの黒く塗りつぶされている。
東国の要人デズモンドの戦争計画暴露の任務「オペレーション〈梟〉(ストリクス)」を命じられ、バーリント総合病院勤務の精神科医「ロイド・フォージャー」の偽装身分を取得。任務に必要な「家族」である娘のアーニャ、妻のヨルと共同生活を送りながら、主任務だけでなく日々舞い込む別件任務と格闘している。
人物
人物像
無愛想かつ冷徹な合理主義者だが、同時に真摯かつ誠実な人物。普段は人当りの良い好青年を演じているが、基本は重要人物に取り入る、あるいは目立たずに社会に溶け込むための処世術であり、スパイとしては任務の為に非情に徹することを心掛けている。
東西戦争による戦災孤児であり、その時に味わった孤独、絶望、無力感から戦争への忌避感と東西平和を守る事への拘りが強い。任務を第一に考える冷徹さも平和を守るためという信念に基づくものであり、根っからの冷血漢というわけではない。むしろ素の部分では情に厚い性格が垣間見え、絆されやすいからこそあえて一線を引き自分を戒めている節もある。そんな一面もまたロイドの魅力とも言える。
それ故子供に対しては非情になり切れない面があり、自身の過去もあってか強い父性を見せることもある。先の信条もあって、自分勝手に子供を虐げるような大人には怒りを覚える。
また、ツッコミ気質なところがあり、娘や妻が素っ頓狂な行動をしばしば起こす為、時々冷静さを失ってツッコミに走り墓穴を掘ることも。現在は「育児や家庭の維持」という未経験の任務に加え、別件任務もこなす激務のストレスで胃が荒れ気味になっており、コーヒーはブラック党だったが後に胃を労わってブラックは控えるようになった。煙草は紙巻派で嗜む程度。
能力
スパイになる際の訓練や元々の素質もあって、並外れた戦闘力・記憶力・情報処理能力を獲得している。特技は変装術で、単に特殊メイクで容姿を変えるだけでなく状況に応じた声・人格に扮する高い演技力もある。フランキーのナンパ特訓の回を見るに女性にも化けられる模様。
現在の肩書きである「ロイド・フォージャー」は、敏腕精神科医として周囲の信頼も厚く交友も広いが、研究を優先している為現場を離れがちという体で行動の自由を確保しているなど、敏腕スパイだけあって人脈構築と偽装工作は完璧。同僚によれば「転任してあっという間に主戦力」、看護師からは「患者さんにも丁寧に優しく接している」と軒並み好評。
ちなみに、精神科医としての腕前もガチという底知れない守備範囲の広さを誇るハイスペックさである。
「ロイド・フォージャー」以前にも様々な身分を演じることで任務をこなしており、東国の関係者の間ですら<黄昏>の名は知れ渡っているが、誰にもその正体(=誰が〈黄昏〉か)は悟られていない。しかしその能力の高さゆえ本部の人員不足も祟り、並行した複数の任務を押し付けられ過労気味。今回の主任務〈梟〉も敏腕振りを買われてのことと思われる。
が、最近になって本部から上司に対して彼への過重労働について警告があったようで、休暇を許可されるなど少しは落ち着きつつある模様。
また、飲酒しても酔わずに的確な行動ができるなど酒に対する耐性もある。
戦闘能力も高く、主に格闘術を駆使する他、その場にある日用品などを即席の武器にするなど目立つ武器を好まないスパイらしい戦い方を披露する場面もある。キービジュアルやアニメのOP・EDなどではオートマチック拳銃を持っている事が多く、実際、爆弾犬の回など拳銃による驚異的な精密射撃をこなすシーンもあるが「目立たぬこと」を鉄則としているためか意外と使われる機会は少ない。
公式ファンブックによれば「単純な身体能力で言うとヨルを100とした場合は6~70程度で、持ち前の頭脳や銃火器・罠などを駆使すれば同等程度」らしい。
当然の様に家事も得意でフォージャー家の調理を担当しており、短編では完璧な描画と声帯模写を用いて自力でアニメを作るなど何でもできてしまう万能超人だが、普段の任務に必要な打算的な交際(ハニートラップ)はできても、プライベートな関係である「家族」を作った経験は流石にないようで、なまじ優秀であるがゆえに真剣に彼女たちの内面を推し量ろうとして、盛大に的外れな結論を導いてしまい、そこが彼独特のギャグとして機能している。
人間関係
フォージャー家
名門イーデン校の特待生とその親のみ出席可能な懇親会に出席し、東国の重要人物から情報を探る任務のための偽装家族。
自身の子供として学校に送り込む人員として孤児のアーニャを娘にし、父母同席が必須の入学面談を乗り切るためにヨルを妻に迎え、結成した。
自身がスパイであることを隠しながらロイド・フォージャーとして家族に接するが、アーニャとヨルも超能力者と殺し屋というそれぞれ明かせない秘密を抱えているという奇妙な偽装家族となっている。ヨル含み表向きはアーニャは死別した前妻(架空の人物)との間の子という扱い。
ロイドは任務が終われば捨て去ることになる偽りの関係性に諦観とわずかな負い目を感じており、良好な関係を維持することに腐心しつつも踏み込み過ぎない様に自戒する傾向がある。一方で内心では二人への親愛が芽生えつつあることが窺える描写も多い。
ロイドの娘。自称6歳。イーデン校に送り込む人員としてロイドが孤児院から引き取った。ロイドには隠しているが他人の心が読める超能力者で、家族全員の正体に唯一気付いている。
ロイドの任務には協力的だが、成績が悪い、一向にダミアンとの仲が進展しない、(天然・方便の垣根を超えて)はちゃめちゃな言動をするなど、ロイドの悩みの種でもある。当初は任務に利用するだけの対象と見ていたが、彼女の成長に純粋に喜びを感じるなど父性的な面も見られる様になる。
ロイドの妻で市役所職員。家族には隠しているが東国随一の殺し屋でもある。
イーデン校の面接でアーニャの母親役が必要だったロイドと、弟を安心させるため(及びスパイ嫌疑をかけられない為の予防線)に独り身であることを隠したいヨルの利害の一致からの偽装結婚の関係。書類上は1年前に結婚したと偽装しているが実際は新婚ほやほや(イーデン校側に即席家族と見抜かれないようにするための対策)。
偽装夫婦ということもあってかお互い一定の距離感を保って接しており、アーニャの良き親となるため互いに協力し合っているが、男女としては実際に交際を経た訳ではないため相手に配慮している(夫婦で寝室を分けるなど)。そのため、仲が良いとかイチャイチャ(byアーニャ)とか言われると夫婦揃って否定する。しかし互いの人となりを知るうちに信頼関係が生まれ、基本的に関係は良好である。
フォージャー家の飼い犬。犬種は不明。テロリストに爆弾犬にされそうになっていたところをアーニャと協力して脱出。その後、アーニャの機転でフォージャー家の飼い犬になった。元はプロジェクト<アップル>という軍事研究の実験体で未来予知の超能力犬。
ロイドはボンドの予知能力は把握していないが、実験体であることは認識しており、ボンドの過去には同情的。
犬ということもあり、フォージャー家で唯一スパイであることを隠していない相手で、ボンドと協力して任務を達成したこともある。なお、ボンドからは猟師だと思われている他、ヨルが作った料理で死にかけたことがあるため彼の作る餌を心底希望している。
西国情報局対東課〈WISE〉
黄昏の所属する西国の諜報機関。ちなみに、同僚スパイには黄昏のファンが多い模様。
東国で活動するWISE諜報員の<管理官(ハンドラー)>を務める女性で黄昏の上司。黄昏と同じく東西平和への拘りが強い。黄昏がスパイになるための教育は彼女から受けた。つまり上司兼師匠である。
WISEの諜報員で、コードネーム<夜帷(とばり)>。黄昏の後輩にあたる。バーリント総合病院事務「フィオナ・フロスト」として、精神科医「ロイド・フォージャー」を演じる黄昏のサポートをしている。
黄昏には隠しているが彼に対して盲目的な恋心を抱いている。が、当の黄昏には肩書き上でもスパイとしても、一人の同僚以上の扱いは見られない。
国家保安局
東国の防諜機関。いわゆる秘密警察。
ヨルの弟であり、ロイドの義弟。重度のシスコンであり、姉を奪ったロイドのことを毛嫌いしている。
表向きは外務省勤務の外交官だが、実際には秘密警察所属。ロイドはそのことを察してスパイとして警戒しているが、姉同様天然な一面をつい心配してしまう場面も。
また、ロイドは密かにヨルとユーリの家族の絆を羨んでいる節がある。
東国国家統一党
東国の野党第一党で極右政党。東西戦争期に政権を握っていた政党でもある。
東国国家統一党総裁。再び東西戦争をひき起こそうとしていることが疑われている危険人物。彼に近付き戦争計画を探ることが黄昏の任務目標となっている。
その他
黄昏に協力する情報屋。黄昏からの扱いは若干雑だが、落ち込んでいる時には励ますなど友人として接する場面もある。実は長い付き合いで、ロイドがスパイではなく単なる一兵士の頃からの付き合い。腐れ縁とも言える関係。
両親
父と母の三人家族。黄昏のアーニャに対する態度は、父の反面教師としての一面もあるようだ。
〈大将〉〈伍長〉〈少佐〉
幼少期、共に戦争ごっこをした友人達。戦地で再会するが上層部の無茶な作戦で死亡。
過去
コミックス10巻以降のネタバレあり
幼少期は父と母の三人で西国に暮らす、ごく普通の子供であり、同年代の友達と戦争ごっこをして遊ぶ無邪気な性格だった。ちなみに当時は〈参謀〉というあだ名で呼ばれていた。ごっこ中は迫真の演技を見せ、友人達も感心するほどだった。
母のことは慕っていたものの、時に手も上げるような厳しい父とは上手くいっておらず、自分の事で言い争う両親に心を痛めていた。
友人とのごっこ遊びで使う玩具が無いのを馬鹿にされ、父に参考書を買うと嘘をついて玩具を購入した事がある。…が、この一件は後に起きた出来事のせいで黄昏の心に影を落とす事となる。
いつもと変わらぬある日、突如として始まった東国との戦争で故郷が空襲に遭う。その日父はいずこかへ出張に出かけていたが、黄昏は母と共に親戚の家へ疎開せざるを得なくなり、それきり父とは離れ離れになってしまう。
敵軍の爆撃に怯えながら母と暮らしていたが、ある日大規模な絨毯爆撃が疎開先を襲い、親族もろとも母は死亡。孤児となった黄昏は軍に入り、身分を偽りながら戦地を渡り歩く日々を送る。
まるで無力な自分の死に場所を求めるかのように…。
この時フランキー・フランクリンとも敵同士ではあるが知り合っている。
その後死んだと思っていた故郷の友人達と奇跡的に再会し、束の間旧交を温めるが、友人達は上官の無謀な作戦の犠牲となり命を落とす。
死んだと思い込んでいた友人達を救えなかった今。
国の意思も理解できないまま参戦した日々。
戦争は起きないと信じていた無垢で無知な過去。
相手のことを碌に知ろうとせず、東国人は悪魔だと思い込んでいた自分。
『東国人の悪行をその目で見たのか?』
『直接話をしてどんな連中か知ったのか?』
『自ら争いを望むな!』
父の言葉が響く。
己の愚かさと無力さを、黄昏は悔やんでも悔やみきれなかった。
やがて彼の軍での立ち回りに目をつけた陸軍情報部の男がスカウトに来た。
二度と子供が泣かない世界を作るため。
男は名を捨て、過去を捨て、縁を捨てる。
こうしてエージェント〈黄昏〉は産声を上げた。