小説家になろうに連載された冬瀬による小説(ライトノベル)作品。
フルタイトルはサブタイトル込みで『軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。~乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?~』となる。公式略称は『軍人少女』。
概要
2020年3月より「小説家になろう」にて連載が開始された作品。
2021年7月に本編が完結。以降は不定期に番外編がアップされている。
端的にぶっちゃけると「悪役令嬢+幼女戦記」に毒成分を抜きまくった状態をコンセプトとしているファンタジー学園青春ラブコメの転生チート添え。なお『幼女戦記』のフォロワー(リスペクト)作品であることは作者自身が公開の初手から明言している。(が、悪役令嬢ものとしてのラブコメ要素や、学園ものとしての青春要素が強化された結果として、リスペクト元とはきちんと差別化されている)
2021年3月に一迅社の女性向け新書レーベルであるアイリスNEOより書籍化。挿絵はタムラヨウ。現在3巻まで刊行。
のち一迅社発刊の少年向け漫画雑誌『まんが4コマぱれっと』にて2021年10月号よりコミカライズ版が連載開始。のち2022年4月の『まんが4コマぱれっと』休刊(事実上の廃刊)に伴い『ComicREX』に移籍して同誌2022年5月号より連載継続中。現在1巻まで刊行。作画者はsyuri22。キャラクターデザインは書籍版のものを踏襲している。
2023年1月より『マガジンポケット』および『Palcy』でも配信されている。
pixivタグとして
フルタイトルではpixivタグの規定文字数(30文字)を著しくオーバーする(およそ46文字前後)上、公式略称では他の関係無い「軍人の少女」や「軍服の少女」をモチーフにした作品もヒットしてしまうため、タグ付けにおいてはメインタイトルのみの使用が望ましい。
あと「こと」の誤変換(こと→事)に注意。
あらすじ
シアン皇国軍・魔物討伐部・五三七特攻大隊・隊長、ラゼ・シュス・オーファン中佐。子どもの頃に戦乱に巻き込まれ孤児になった彼女は、幼くして軍に志願し、持って生まれた転生チート(前世の記憶)を使って軍学校(士官学校)をもさっさと飛び級卒業して異例の大出世を遂げた16歳の軍人少女。
そんな軍学校すらもトップで卒業したラゼに、新たに与えられた任務は「平民を装ってセントリオール皇立魔法学園の生徒となり、入学する生徒たちの円満な人間関係の構築をサポートせよ」という某転生幼女が聞けば血の涙を出して羨みかねないレベルのステキな任務だった。
軍務で潜入任務もこなしていたラゼはどこぞの戦争バカよりもその方面ではよっぽどに優秀であるため一般市民を装うことなど何も問題なく、むしろ「任務に名を借りて憧れの学生生活!」と(上司にそう吹き込まれた事もあり)思わず浮かれていた。
が、入学したセントリオール皇立魔法学園は、いわば貴族の学校。つまりは将来、国のトップとなる官吏(キャリア)候補生たちが集う学校であった。同級生たちは皇太子やその許嫁(将来の皇帝と皇后さま)や、宰相の息子などラゼにとっての(現在の上司の息子たちや孫たちでもある)将来の上司たちが勢ぞろい。つまりラゼの任務の本質は国の将来を担うVIPたちの秘密裏による護衛であった。その事実に気付いたラゼは「ここで人間関係(≒任務)を下手にしくったら、将来ヤバい事になる!」と蒼くなり「とにかく目立たないようにしよう」と誓う。
ラゼは平民を装う都合上、ラゼ・グラノーリと名乗り学園生活に臨むが、入学式で自らと同じ平民(かつ孤児)出身の少女であるフォリア・クレシアスと仲良くなり学生寮のルームメイトとなる。
さらには入学後のオリエンテーションで外務大臣の娘にして皇太子の許嫁でもあるカーナ・フット・モーテンスとも親しくなる事に。
とりあえずはフォリアやカーナという友人を得て学園生活を楽しむラゼだったが、カーナの素振りから、カーナと皇太子の間に微妙な空気を感じ取る。カーナと皇太子の間が破局して婚約破棄にでもなれば、国の上層部のパワーバランスが大きく揺れ動く地獄絵図となり、隣国の介入や戦争も起こりかねない……というか、そのまえに任務失敗でラゼの首が飛ぶ(物理的に)。
そうなっては困るラゼは密かにフォリアとカーナを観察していたものの、ある事をきっかけに実は同じ転生者であったカーナからとんでもない事実を聞かされる。
「この世界は乙女ゲーム『ブルー・オーキッド』の世界。ゲームのヒロインはフォリアで、カーナは悪役令嬢。やがてカーナはフォリアへの嫉妬と憎しみに染まり、魔物となってメインヒーローの皇太子とヒロインの聖女フォリアによって討伐され死に至る。その結果としてシアン皇国は貴族たちのパワーバランスを争う内乱と隣国の覇権争いに巻き込まれ、のちには大きく弱体化する」
この予言に行き当たったラゼは内心で思わず嘆く。
「オイオイオイオイオーイ! 乙女ゲームなんて聞いてないよ――――っ!!!」
こんな予言が的中されてしまえば、事態は自分の首どころでは済まなくなる。
ラゼは皇国軍人として、またカーナとフォリアの親友として、予言的中(ひいては皇国破滅)を阻止するため、カーナの破滅フラグを折りまくる日々を送る羽目になる。
今、皇国の未来は人知れず、たったひとりの軍人少女の小さな双肩に託されたのであった……。
登場人物
ラゼ・シュス・オーファン / ラゼ・グラノーリ
本作主人公。皇立セントリオール魔法学園に潜入した軍人少女。階級は中佐。
シアン皇国において最強の軍人に贈られる称号「狼牙」の名(本来は死後に追贈される名誉称号で、生還して名を受けたのは歴代ではラゼのみ)を賜っており、軍では「生ける狼牙」として生きる伝説になっている。得意魔法は「移動魔法」であり運用は達人級。瞬間移動も残像だも難なくこなす。暗殺や潜入任務にはもってこいの能力で、実際にそうした任務もこなしていた。が、それ故に軍において彼女の存在は存在しない事実(ブラック・ファクト)でもあり、その存在を知る者は彼女の部下や軍上層部などごく一部に限られている。
部隊では隊員みんなのお母さんかつ隊員みんなの妹。母役と妹役を同時にこなすとんでもねぇロリにしておっぱいがついたてのイケメン。部隊員からは「代表」と呼ばれ慕われる。軍上層部では年若いラゼを侮る(貴族出身の)キャリアも多いが、そんな奴らを前にした時には(演習に名を借りて)五三七特攻大隊の全員が狂戦士となる。
中佐かつ「狼牙」の称号から、実は一代限りの名誉貴族(ミドルネームが与えられているのは、そういうこと)なのだが、孤児出身&軍出身という事もあり貴族の常識は持っていない。ある意味で今回彼女に与えられた任務は「これから管理職も任される事もありうるから、そういう事も学べ」という事でもある。
軍人少女ではあるが、軍務や軍知識一辺倒というワケではなく、経歴上は一般市民に混ざった潜入任務もこなしている(また一般人だった前世知識もある)ため「軍社会と一般社会のギャップに苦労する」などという戦争紛争ボケや軍産複合体に喧嘩売った殺し屋教師みたいな醜態は演じてはいない。
国のため親友のため、親友の破滅フラグを折りまくり、そこに至らぬための別方向の恋愛フラグを立てまくる苦労人。
学校では特待生となっているが、これは軍務書類に混ざって「適性検査」と称されたガチの入学試験を(本人には内緒で)受けさせられた上で純粋な実力を学園に評価されての事であり実はカバー(偽装経歴)ではない。
転生者であり転生チートの持ち主だが、あるのは自覚と能力と感覚のみであり転生前の明確な記憶は持っていない。ただし何らかの刺激(同じ転生者であるカーナとの会話など)によって必要時に必要なだけの前世の記憶を部分的に思い出す場合はある。
実は『ブルー・オーキッド』には名前すら登場しないモブキャラあるいは裏設定キャラクターであり、本作の「現実世界」と「ブルー・オーキッドの世界」の最大の差異にして特異点。原典世界を遵守する者たちからは世界を狂わすバグと呼ばれる。
フォリア・クレシアス
ラゼのルームメイトで、本作原典となる乙女ゲーム『ブルー・オーキッド』のプレイヤーキャラクターとなるヒロイン。ラゼいわく天使。ラゼのルームメイト。とても良い子。
回復魔法が得意であり、のちには覚醒イベントを起こして回復魔法の能力が規格外に成長しシアンの聖女となる事が運命付けられている。
実は国教枢機卿家のバックアップを受けており、枢機卿家の年若い当主に想いを寄せている。本来は彼とは死に別れる運命だったが、ラゼの活躍によりその死亡フラグは回避された。
カーナ・フット・モーテンス
ラゼのクラスメイトで外務大臣の娘。皇太子の許嫁で将来の皇后さま。気品と気さくさを併せ持った、人の目線に立てる穏やかな令嬢で、ラゼいわく女神。
実は転生者で乙女ゲーム『ブルー・オーキッド』のヘビーユーザー。原典乙女ゲーム『ブルー・オーキッド』の悪役令嬢であり、その運命に怯えていた。しかしゲームには存在しないラゼの登場により、彼女の存在が大きな希望となる。
実は『ブルー・オーキッド』のプレイヤーとしての記憶を取り戻したことが影響したのか、皇太子との恋愛フラグはアツアツで、ラゼいわく悪役令嬢フラグなんてとっくにブチ折れている状態だが、本人は気付いてない。
ルベン・アンク・ローズベリ
ラゼのクラスメイトで皇太子。将来の皇上(皇帝)でラゼにとっては将来仕えるビッグ・ファーザー。カーナの許嫁。周囲に輝きを振り撒きまくるガチの王子様。
『ブルー・オーキッド』ではフォリアと惹かれ合い、嫉妬の末に魔物と化したカーナを泣く泣く倒し、弱体化した国を取り戻すメインヒーロー。
ただし、この世界ではカーナにラブラブ。しかも女友達であるラゼやフォリアにすら嫉妬するレベルで、少し束縛気質がにじみ出ている。
アディス・ラグ・ザース
ラゼのクラスメイトで、宰相の息子。ラゼにとっては直属の上司の息子。父親によく似た容姿の持ち主で、初対面の時にはラゼの顔は(ムチャ振り上司と同じ顔ゆえにトラウマが刺激されてしまい)思わず引きつっていた。本来は騎士団(近衛騎士)を志望しており、そちらの養成所への進路を希望していたが、父親にムリヤリ学園に放り込まれ不満がある。そして、その不満を誤魔化すためナンパに勤しんでおり(「行状が悪ければ、父も自分を叩き直すために、騎士団か軍に入れてくれるだろう」とか思ってた)ラゼからは第一印象で最悪に思われている。
一方、体育の剣術においてルベン殿下に花を持たせ、あえて負けを踏むなど宰相の息子だけはあり空気は読める方。
その一方で自身も自らになびかず、なおかつ自分より優秀なラゼに対しては壮絶な違和感を抱いており、お互いに「食えないイヤなヤツ」とか考えていた。要はラゼのケンカップルの相方。ある事が原因でラゼにコテンパンにされた後には「絶対にラゼの鼻を明かしてやる」とナンパな自分を改めて奮起する事となる。
クロード・オル・レザイア
皇宮執事長の息子。皇太子の幼馴染で事実上の護衛役。常に手袋をしており、時折(特に苛立った時や感情を隠す際に)これを深く履き直す癖がある。
実は執事長家は皇家に仇なす者を排除する事を生業とする陰の家であるためクロードも幼い頃からそうした「汚れ仕事」に手を染めており、皇太子を慕う反面で「こんな汚れた自分が何も知らない皇太子の側にいてもいいのだろうか」と(完全に杞憂な)苦悩をしている。
とある事情から魔物に襲われラゼの加勢を得た際、魔物の返り血で汚れきってしまったラゼから「汚いと殿下やカーナ様たちの側にいられないのかな? でも私は皆に拒絶されるまでは側にいたい。だって、みんなが大好きだから」と言われ、その言葉に悩みの答えを見出だし、自らの誇りを取り戻した。