概要
本編の大正時代では、無一郎を含め双子の兄・時透有一郎、時透兄弟の父と母の4人家族だった。しかし幾つもの不運に見舞われ家族は命を墜とし、物語の始まり時点では双子の弟・無一郎のみ生き残った。
闘いとは無縁の生活を営んでいたが、実は鬼狩りへ重要な繋がりのある血統であったと判明する。
山の恵みと共に生きていた家族
時透家は大正時代における景信山(現・東京都八王子市と神奈川県相模原市の境界)の、人里離れた山の中で杣人(そまびと)を生業としていた。
家長の父が木を切る仕事を双子の息子たちも手伝い、母も家業の裏方や家事だろうか良く働く人だったらしい。
この辺りの家族背景は、アニメ版「刀鍛冶の里編」のエンディングアニメにて、山の清流で川魚を捕ったり、杣人(そまびと)に励む様子が描かれ、家族は幸せな時間を共有して暮らしていたと分かる。
自給自足のような、自然の恵みと共に生きていた時透家。
だが、時透の母は具合が悪くても働く女性で、それも最愛の家族を想ってだったろうが体を壊し、風邪をこじらせて肺炎になってしまう。時透の父は妻が少しでも具合を良くなるようにと想ってか、ある嵐の中を薬草探しに出でるが、崖から転落し還らぬ人に…。そして時透の母は病が悪化して病没…。
事故や病で父母が相次いで亡くなる不幸。時透兄弟・有一郎と無一郎が10歳の出来事であった。
それでも兄弟は杣人(そまびと)を続けながら、懸命に2人で生きていた。
そんな生活から1年後。
生き残った時透家に、ある来訪者が現れる。
剣士の血筋
山奥で木を切る家業を営む、11歳の幼い双子が二人暮らししている時透家。
ある春の日、こんな山中へ一人の女性が来訪する。
彼女は鬼殺隊の産屋敷あまね。お館様・産屋敷耀哉の御内儀である。
突然の来訪者から告げられた話「時透家が日の呼吸の使い手の末裔」によって、自分たち時透兄弟は剣士の子孫であると知る。しかも「始まりの呼吸」と呼ばれる使い手、とにかく凄い話に弟・無一郎は人助けのために剣士へなろうと善良な姿勢をみせる。これとは正反対、猛反対の意思を顕わにする兄・有一郎。時透家は自分たち二人だけ、幼い子どもに何が出来るのか。1年前に相次いで亡くなった両親の傷みが、元来に気が強い有一郎の心へ残酷さともいえる心情となって発露していた。
この不和が元となり、双子の兄弟二人は険悪な時を過ごしてしまう。
忘れていた記憶
そして季節は変わり、その年の暑い夏。
ある日の熱帯夜、時透兄弟が寝ている時に人喰い鬼が家の中へ入ってきた。
兄・有一郎は鬼に左腕を抉り落とされる重症を負う。さらに無情の言葉を吐く惡鬼へ弟・無一郎は、生まれて一度も感じたことのない、腹の底から噴き零れでるような激しい怒りが現れる。その激情は途轍もない咆哮を伴って、本能のまま最愛の兄を襲った鬼を朝日が昇るまで叩き潰すほどの信じられない力を発揮した無一郎。死にかけても死ねず苦しんでいた惡鬼は、弱点の日光が射した事で塵となって消滅。障害は退けた無一郎は、いつの間にか屋外まで暴れ出ていた事から、極度の疲労であったか無理矢理に体を動かし、家で瀕死になってるはずの兄・有一郎の所へ戻る。
兄は生きていたが、風前の灯火であった。
最期の時は「どうか弟だけは助けてください」と、神仏へ願っていた。今まで横暴な態度で接してきたバチが当たったのだ、悪いのは自分なんだ、だから助けてあげて欲しいと願う有一郎。
自身も深手を負って這いつくばって兄・有一郎の元へ、上手く動かない手を伸ばし、残っている彼の右手を掴む弟・無一郎。そして最後の家族、最愛の兄が告げた最後の言葉を聞きながら彼を看取るのだった。
人里離れた山中でおきた悲劇。
後に時透家で最後の生き残りとなった無一郎は、死の淵を見るほどの危篤状態になるも、運良く産屋敷家のあまねと子ども達が訪れた事で一命を取り留めた。
だが11歳の少年にとっても過酷な現実。
両親の不幸、それでも生きようと命を繋いでいた兄弟の絆を奪った鬼、これら無視できない事実から少年の記憶(こころ)は霞がかかり自分を忘却してしまう。
だから分かる。
自分を失うほどの「何か」があった事実。体が覚えている、死ぬまで消えない怒りがあった事。
時透家で最後の1人になった少年は、保護された鬼殺隊で鬼殺隊士となり、血反吐を吐く程に自分を鍛えて叩き上げ、それでも戻らぬ記憶を伴いながらも、組織内で最高峰「柱(はしら)」の一つ・霞柱になる程の人生を進んできたのだった。