AKB商法
えーけーびーしょうほう
概要
「ファンにCDを何枚も買わせようと誘導する手法」のこと。
名前はAKB48や姉妹グループが始動当初から行ってきたことに由来する。「握手券商法」とも。
当初はさほど話題にならなかったが、2010年から同グループのCDの購入者が爆発的に急増しミリオンセラーがこの系列から多発するまでに至る。
その結果、2010年代のシングルのミリオンセラーは後述のEXILEを除き全て48グループという記録となった。
他のレーベルもこれに触発され、同様に特典を餌に多数買わせる商法を展開するようになり、CDの販売方法の一つのスタイルとして確立した。
後述の通り、CDのセールスや音楽のあり方の観点から批判も根強い。
主な例
- 同一タイトルシングルの複数仕様
いわゆる初回限定盤商法。
CDの場合で劇場盤と通常盤という仕様とノベルティの違う商品を併売している。通常盤についても2種類以上を同時に発売し、同じタイトルの曲として集計している。これについてはAKB特有ではないので念のため。
- 生写真などを封入
CD購入特典にメンバーの生写真を封入する。それ自体は普通なのだが、その写真はランダムで封入されている点に注意。メンバー全員集めたいなら最低でも十数枚単位で購入する必要がある。また似たようなものとして店舗特典などもある。
- 各種投票権
選抜総選挙や、「リクエストアワーセットリストベスト100」に、所定のCD1枚につき1票を投票できる。AKB系統の総選挙が株主総会と言われるのはこれが関係している。
- 個別握手会
商品1点あたりメンバー一人を指定して行う握手会。以前は秋葉原の劇場で行われていたが、最近は東京ビッグサイトや幕張メッセなどの大規模なイベント会場で行われることも。
- 全国握手会
12名程度のメンバーが全国各地を回って握手会を行う。握手会参加は基本的に抽選制なのだが、CD購入者に限って抽選なしで参加できる。
握手会自体は嵐も1999年のデビュー曲「A・RA・SHI」ではやっていたものの、当時Jr.時代から追っかけているコアなファンを除き彼らが無名の新人と見られていたことや、会場が都内の代々木第一体育館前しかなく全国展開を念頭に置いてなかったのもあって48グループのようなチャート荒らしを引き起こすような事態には至らなかった。
- フォトアルバム集
定価5万4千円(当時)、2千冊限定発売というファンですら購入を躊躇いたくなる代物。しかも結成10周年を迎える2015年開催予定のコンサートの招待券が特典として付属する。このフォトアルバムは2008年に発売されたのだが、7年の間にAKBが落ちぶれたり解散したりしなかったので、フォトアルバム集を手放さなかった「レジェンドファン」を迎えての10周年記念コンサートは開催された。
- ダウンロードコンテンツ
アルバム関連のダウンロードコンテンツ(DLC)を指定回数以上ダウンロードすることで握手会参加などの特典が得られるもの。
AKB商法に対する批判
下記の通り、年長の文化人や音楽家を中心に嫌悪する向きが強い。
- 「AKB商法って相変わらずスゴイなって思うんです。もう、経済の教科書に載せれば良いじゃんって」(伊集院光)
- 「投票している方々をテレビで拝見して、早く現実に戻れよと思った」(やくみつる)
- 「えげつない商売」「宗教」(桂南光)
- 「あんたらズルいよ」(桑田佳祐)
- 「本来の音楽としての価値観が崩れる」「僕の人生には不要」(山下達郎)
- 「それまでブロマイドを売っていた職種の人たちがCDを売ったというだけの話であり、音楽界の話ではない」(桜井和寿)
- 「これが日本の音楽業界の現状です。楽しんでいただけましたでしょうか?」(服部克久、2012年の日本レコード大賞にて)
なお同じCDを何枚も買うのは本人の自由意志であり、阻害されるべきではないので念のため。
AKB商法がもたらしたもの
かつてはCDのセールスと世間の流行はほぼイコールであり、ヒットチャートに載る曲は若者を中心に一定の認知度を得ているものだった。
しかし、AKB商法の台頭によりこの法則は崩壊。マイナーな曲でも、特典目当てでCDを買いまくればセールスに結びついてしまうため、ヒットチャートは世間が知らない曲で溢れた。
その結果、音楽から「大衆の代弁」「流行の象徴」としての側面が消え、拝金主義的な要素が強く表れるようになってしまったのである。
これを指摘する音楽関係者やライターは多く、2010年頃の音楽シーンの転換点として頻繁に語られる。
皮肉めいた言い方をすれば、これも「音楽が時代を映した」結果と言えなくもない。
派生例
48系列と並びチャート上位勢のLDHも2013年にEXILEがシングル「EXILE PRIDE」をライブチケットと抱き合わせでリリースしミリオンセラーを記録し問題になった。
2010年代半ばには、エイベックスが開発したミュージックカード商法が蔓延。CDよりも単価が安く複数買いがしやすいことから48グループ、ジャニーズ、エイベックス系全てがこの商法に便乗するが、株式会社オリコンから「正確な音楽のヒットとは言えない」という判断を下され、2015年3月末をもって集計から除外されることとなった。
なお集計から外されるまでは除外対象にはならなかったため、上3つのミュージックカードを発売するレコード会社側は3月末の集計ギリギリまでに出されるミュージックカードの購買を煽る往生際の悪さを見せている。
2020年明け早々にはそれまでバージョン違いの初回限定盤でしか勝負しなかったジャニーズもSnowManとSixTONESのデビューシングルを両A面で2レコード会社からリリースし、1曲目だった方のCD売り上げで競わせる商法で初動一週間だけで合算132万枚ものセールスを売り上げた。
独禁法(と景表法)に違反しかけた事例
2008年に販売したシングルのAKB48劇場限定販促企画において、全44種類のポスターのうち1枚がランダムに封入されていて、すべて集めれば特別イベントに招待されるという手法を展開したが(CD44枚セットを購入すればポスターがフルコンプできる現場運用がなされたとの説もあるが、いずれにせよ)、SME及びデフスターレコーズ法務担当が「これは独占禁止法が定める不公平な取引に抵触するのではないか」と指摘。2日間のみで中止された。
一回もダブらずポスターをコンプリートできる確率は77京1468兆8909億1789万4000分の1で、まず不可能である。
(なお、この販促は景品表示法により禁止されているカード合わせ(別名コンプガチャ)の手法にも抵触している)
この事件が遠因となりSMEを解雇され、結果的に離れることとなったAKB48に声優のCDや「ハッピー☆マテリアル」でのノウハウを蓄えていたキングレコードが接近し、メジャー再デビューとともに現在の形での「AKB商法」が確立した。この商法の有用性を再認識したSMEは改めて秋元康陣営と接触し、「公式ライバル」乃木坂46を立ち上げた。その乃木坂46もタイプ別の限定曲や特典映像などで複数枚購入を勧めるAKB商法と似た売り方を行っていき、その後のAKB48の人気低迷も相まって今や「日本の国民的女性アイドルグループ」としての地位を確立した。妹グループの欅坂46(2020年に櫻坂46へと改名)や日向坂46も同様の商法を行っており、この商法は坂道シリーズにも引き継がれていると言える。
余談
- この商法はイベントがセールスポイントになる場合、日本列島に大規模な災害が発生した場合購買指数が落ちるという諸刃の剣でもある。2019年末から流行したCOVID-19はまさにAKB商法に突きつけられた天敵と言え、3密回避を理由にライブイベントの中止が相次いだことから、特典が意味を為さなくなった。しかし、この代替として「fortune Music」が運営する「fortune meets」による「オンラインミート&グリート」が開催され、ある程度の売り上げは取り戻している模様。2023年5月からCOVID-19が5類感染症へ移行されたため、同年6月には「リアルミーグリ」と称したお話し会が開催されており、段階的な制限解除が行われている。
- 多数購入したCDを、特典を抜き取ったうえでインターネットオークションや中古ショップで転売する例が多発した。新曲にもかかわらず中古市場での相場が早々に暴落することから、処分の手間を惜しんでそのままゴミとして廃棄する者も多かった。