「平和なエルフの国に、オークたちが攻め込んできた」
よく目にする、そんなフレーズ。
では、彼らは一体なぜエルフの国に攻め込むのか。
国を亡ぼすほどの大軍勢を、どうやってその場に送り込んだというのか。
そんな疑問に挑む、ひとつの近代軍事ファンタジー。連載です。
-ウェブ版紹介文より-
-カクヨム版紹介文より-
概要
「オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~」とは、小説家になろうに掲載されている小説。
作者は樽見 京一郎。
異世界もののラノベでは使い古された感のある「平和なエルフの国をオークたちが攻める」というシチュエーションを、戦争の理由、兵站などの多方面から描いた戦記。
あらすじ
豚頭族(オーク)の王、グスタフ・ファルケンハイン。
彼はとある日の狩猟で、銃で撃たれ倒れていた一人のダークエルフを見つける。
目を覚ました彼女―ダークエルフ氏族長、ディネルース・アンダリエル―の口から語られたのは、エルフの国で、白エルフがダークエルフを殺戮し、民族浄化を行っている。という情報だった・・・
主な登場人物
オルクセン王国
グスタフ・ファルケンハイン
オーク族。魔種族統一国家オルクセン国王。
とある日の狩猟で、狩場に倒れていたディネルースを助ける。
本人が「オルクセンでは最も魔力の高い者が王位に就く」と語っている通り、かなりの魔力の持ち主で、限定的ながら天候まで操ることができる。
それ以外にも農学や工学など様々な知識に精通しており、オルクセンの繫栄は彼がもたらしたといっても過言ではない。
ディネルース・アンダリエル
ダークエルフ族。氏族長。
エルフィンド内での民族浄化から、仲間のダークエルフとともに隣国へ逃れようとしていた。
追っ手の射撃で倒れていたところをグスタフに助けられる。
ちなみに酒はいけるクチで、アルコール度数の高い火酒を一本飲み干しても顔色一つ変えない。
後にオルクセンの軍籍に入り、ダークエルフで構成された「アンファングリア旅団」を旅団長として率いることとなる。
アドヴィン
巨狼族。王護衛役としてグスタフに帯同し、常に行動を共にしている。
グスタフとは彼がまだ王位に就く前からの仲で、出会いのきっかけは従軍中に事故に遭ったグスタフをたまたま通りかかったアドヴィンが助けたこと。
追手の弾丸で倒れていたディネルースを最初に発見したのも彼。
カール・ヘルムート・ゼーベック
オーク族。オルクセン国軍参謀本部参謀総長。上級大将。
酒が大好物で、自宅には秘蔵のワインコレクションがあり、ディネルースに「うちの配下に来れば酒には困らない」と豪語する。
グスタフにはたびたびワインをたかられる。
アロイジウス・シュヴェーリン
オーク族。上級大将。北部軍司令官としてエルフィンドとの国境地帯の守りを担う。
グスタフとは彼がまだ一兵卒だった頃からの付き合いで、彼からは「悪党」と呼ばれ親しまれている。
かつてディネルースたちとも干戈を交えたことがあり、「絶対に一対一の対戦は避けろ」「出会ってしまったら逃げろ」とエルフィンド内でも闘将として名を馳せていた。
ちなみに、オルクセンで元帥の階級は要塞を陥落させた者にしか与えられないため、彼をはじめとした上級大将はオルクセンの現役軍人における最高位であり、彼を含めて3人しかその位を持つ者はいない。
アウグスト・ツィーテン
オーク族。上級大将。陸軍騎兵監。
ヴェルナー・ラインダース
大鷲族。少将。国軍大鷲軍団団長。
飛行が可能な大鷲の特性を生かし、上空からの偵察および弾着観測を研究している。
ディネルースとは浅からぬ縁があるのだが……詳細は本編で確かめてほしい。
エーリッヒ・グレーベン
オーク族。国軍参謀本部次長兼作戦局長。少将。
エルンスト・グリンデマン
海軍第11戦隊司令兼砲艦「メーヴェ」艦長。中佐。
マクシミリアン・ロイター
海軍荒海艦隊司令長官。大将。
フロリアン・タウベルト
コボルト族。ビーグル種。陸軍輜重輸卒。
輸送馬車の御者として演習に参加するが…
イアヴァスリル・アイナリンド
ダークエルフ族。氏族長。
ラエルノア・ケレブリン
ダークエルフ族。副氏族長。
登場兵器
艦船
砲艦メーヴェ
艦船。コルモラン型砲艦三番艦。
排水量七五〇トン。衝角付き。武装は一二センチ砲二門。
仮装巡洋艦ゼーアドラー
オルクセン王国所属の仮装巡洋艦。平時はオルクセン第二の船会社「北オルク汽船」に所属し、貨客船「キルシュバオム」として活躍しているが、戦時には仮装巡洋艦に改造しやすいよう設計されている。
排水量三八〇〇トン
開戦1~2日前に、本国からの電信指示で寄港中のキャメロット港からオルクセン、ネーベンシュトラントに帰港。そのまま入渠し仮装巡洋艦に改造され、通商破壊作戦に投入された。
仮装巡洋艦プフラオメ
ゼーアドラーの同型艦。平時は貨客船「プフラオメ」として活躍している。
基本的なデータはゼーアドラーと同じだが、仮装巡洋艦としての艦名は不明。
排水量三八〇〇トン
開戦1~2日前に、本国からの電信指示で寄港中のグロワール港からオルクセン、ネーベンシュトラントに帰港。そのまま入渠し仮装巡洋艦に改造され、通商破壊作戦に投入された。
銃器、砲など
エアハルトGew74
4年前に制式採用された、オルクセンの最新鋭歩兵銃。
動作方法はボルトアクション式単発。
最大射程距離は1700mで、他国の小銃と撃ち合った場合、圧倒的な有利に立つことができる。
オルクセンの高い技術力で可動部の隙間を極限までなくし、同時に装薬から弾頭まで全く新しいものを開発し、制式採用している。
エアハルトKar74
Gew74の銃身を短縮した騎兵銃仕様のもの。
騎兵銃は銃身が短いため射程に劣るとされているが、本銃は元となったGew74自体の性能が桁違いであるため、騎兵銃としては異例の射程800mを誇る。
世界観及び国の設定
全体的な世界観
こちらの世界は、いわゆる異世界ものと同じく、人間、エルフ、オーク複数の種族が存在するファンタジー的な世界である。
しかし、この世界が他の異世界ものと違う点は、すでに産業革命や市民革命が起こっており、銃や動力付きの艦船、魚雷などが実用化されていることであろう。
これにより、よく異世界ものと聞いて思い浮かべる「剣と魔法」の世界から、産業革命を境に「銃と魔法」の世界に変貌を遂げている。
こちらの世界の歴史で言うと、第一次世界大戦前の日清/日露戦争ごろ。他の作品だと軍靴のバルツァー作中と同じくらいの民度/工業水準と考えると分かりやすいだろう。
国家
オルクセン王国
「魔種族統一国家オルクセン」とも。グスタフ・ファルケンハインを国王とした多民族国家。
巨狼、コボルト、大鷲など、エルフの手で駆逐された魔族種を領民として受け入れ、他種族を食べることを国法で禁忌としている。多民族国家の様相を呈する。
現在のオルクセンの繁栄は、コボルトの魔術力と商才、ドワーフの技術、大鷲の天候予測など、他種族の技術に支えられていると言っても過言ではない。
エルフの国、エルフィンドとは、国境のシルヴァン川を挟んで隣り合っており、120年ほど前までは戦争を行っていたが、現在では戦争を行っていない。ただし、個人レベルでの交易すらなく、国交断絶に近い状態。
エルフィンド
エルフの国であり、オルクセンの隣国。
国境のシルヴァン川を挟んで隣り合っており、120年ほど前までは戦争を行っていたが、現在では戦争を行っていない。ただし、個人レベルでの交易すらなく、国交断絶に近い状態。
白エルフとダークエルフの2つの種族が存在し、白エルフはダークエルフに対する差別意識を持っている。また、人口も白エルフの方が多い。
また、白エルフは120年前のオルクセンとの戦争に乗じてドワーフの国を滅ぼしている。
今回、白エルフのダークエルフに対する民族浄化がオルクセンに露見し、オルクセンの介入を招いた。
用語
デュートネ戦争
作中年代より60年ほど前、25年にわたり続いた戦争。
グロワールにおいて一砲兵将校から皇帝にまで上り詰めた英雄「デュートネ」が周囲を侵略し、オルクセンをはじめとした諸国家と戦争状態となった。
この際、オルクセンがグロワール領内に逆侵攻した際に兵站線の維持が不可能となり、やむなく食料の現地調達に踏み切った。
現在オルクセン軍のインフラ、兵站重視のドクトリンは、この際の戦訓によるものが大きい。
ちなみに、この「デュートネ」という人物、こちらの世界には俳優として存在し、とある映画で砲兵から皇帝にまで上り詰めたとある英雄を演じている。
書籍情報
2022年、第2回一二三文庫web小説大賞において金賞を獲得。書籍化とコミカライズが決定した
小説版
2023年12月15日、第一巻が一二三書房より発行。ISBNは「978-4-8242-0075-4」。
カバーイラスト及び挿絵はpixivユーザーでもあるTHORES柴本氏が担当し、ウェブ版第六章までの内容が収録されている。
ちなみに、この一巻、本編だけで300ページ近くあるが、そのほぼ全てが戦争準備であり、まだ本格的な戦争シーンは入っていない。
発売から数日で書店の在庫が完売し、急遽重版されるほどの人気となった。
第二巻以降も心して待とう。
コミカライズ
2024年1月12日より、コミックノヴァにて連載がスタート。
作画は「紫電改のマキ」や「ガールズ&パンツァー リボンの武者」などで高い評価を得ている野上武志氏が担当。
ちなみに、野上氏は「みんなでアクセスしてサーバー吹っ飛ばしちゃえ(危険思想)」と告知の際にツイートしていたが、コミカライズを待ち構えていた読者諸兄の波状攻撃により、本当にサーバーがダウンしてしまった。
これにより、読者諸兄からは「エルフィンドの次はコミックノヴァのサーバーを焼き払った」「オルクセン軍の奇襲作戦成功」「この功績をもって野上氏をオルクセン軍元帥に叙すべき」などと言われることに・・・。
なお、氏は作品紹介であればページのキャプチャは認可している。
関連イラスト
作者がMidjourneyを用いて制作したイメージ画像一部はコミカライズ版でオマージュされたコマが登場する
関連動画
関連タグ
ファントムおじいちゃん無頼:本作の作者が名づけ親
外部リンク
実際の世界観(ネタバレ注意)
以下、作品の設定根幹をなす重大なネタバレ(web版)となるので、雰囲気を壊したくない人はスクロールしないように。
オルクセン王国史の世界は、恐らく高度に発達した並行世界の地球文明によってエルフとの触れ合いをメインにしたファンタジー系シミュレーションゲームの舞台として作り出された人工宇宙(VR等の仮想ではなく、次元などを弄って作られた本物の宇宙とそこに生活する生物が存在する)である。
そのため、衛星が12個あること、運用開始直後に衛星が大海に衝突して地理や環境が激変したことを除けばほぼ我々の宇宙における地球とほぼ同じであり、歴史も地理も地球のそれをほぼなぞっている。
(もっとも衛星衝突は決して軽い話ではなく、新大陸で南北戦争が冷戦中も続き、旧大陸極東と新大陸間の海は産業革命の技術レベルでも通過不可能な断絶海域になっている)
どうやらこの世界だけでなく、無数の企業や組織がMMOのように多数の異世界を運用しているらしいが、この世界は上記の事故から致命的欠陥(プレイヤーとしての召喚ではなく、別次元から無関係な人物を強制的に転生させてしまう)を内包したまま運用しており、見過ごせなくなった規制当局から放棄を指示されたとのこと。
この時点で実際に生きているNPCキャラクター(主にメインエリアのエルフ種族)にゲームプレイヤーが介入しすぎて予測不能になりつつあったため、プレイヤーへの速やかな離脱要請と遭難者への最低限の救済システムをエルフィンドに残している。
つまり、この世界のエルフ種族が極端な性質になっているのは、良かれと思ってプレイヤーや転生者たちが時代錯誤な高度な技術や思想を古代から伝え続けた結果、エルフたちが自種族優越主義に染まってしまったことに起因している。
一方、グスタフが100年かけたとはいえ、ファンタジー世界でテンプレ的野蛮種族であったオークを他種族に融和的な高度な文明種族へと発展させえたのは、我々のような魔法がない現代の地球から事故に巻き込まれて転生した"知性ある人間"だったから。
エルフィンドの遺構から推測されるに、彼はシステム放棄直前に巻き込まれた最後の遭難者と思われる。