上って行く坂の上の青い天に、もし一朶の白い雲が輝いているとすれば、
それのみを見つめて、坂を上っていくであろう。
概要
1968年(昭和43年)4月22日から1972年(昭和47年)8月4日にかけて産経新聞で連載された、司馬遼太郎原作の長編歴史小説。
秋山好古、秋山真之、正岡子規の3人を主人公に、西洋列強を目指して近代化に邁進する明治の日本を、基本的に史実に基づいて描いたフィクション作品である。
3人は様々な政治家や軍人、文豪、外国人などと出会いながら、日清戦争や日英同盟、そして日露戦争へと時代を歩んでいく。
NHKは、全13話を2009年から2011年までという3年がかりの三部構成にてテレビドラマ化。
好古を阿部寛、真之を本木雅弘、子規を香川照之が演じ、渡辺謙がナレーションを務めた。
第38回放送文化基金賞番組部門(テレビドラマ番組)本賞を受賞。
また受賞はならなかったがエミー賞にもノミネートされた。
ちなみに、歴史ドラマではあるが3年にわたって各年の大河ドラマ終了後の年末枠に放映されているため、分類は大河ドラマではなくスペシャルドラマである。大河ドラマの中には司馬が原作を務めたものも多く勘違いしやすいので気をつけよう。
反響
2009年からのスペシャルドラマ(準大河ドラマ枠)まで映像化作品が一切無かったが、原作は発表当時から明治期の政治・軍事・文化面で直面した困難を日本がいかに乗り越えたかを、著者独自の解釈や表現を交えながらも鮮やかに描き切った作品として著名であった。
著者本人いわく、「本当の主人公は日本という国家」との事。
著者は「描いたことはすべて事実であり、事実であると確認できないことは描かなかった」として事実上のノンフィクション作品であると逝去するまで主張していたが、実際には後年に歴史学者などの検証によって史実と明らかに食い違う部分もいくつか確認されており現在に至るまで物議を醸し続けている。ただし、司馬の執筆時や生前には発見されなかった新資料による史実への指摘も多いため、それを考慮せずに司馬の描写や主張を「偽り」と安易に批判すると、逆に不適切な評価になるため要注意!
また著者本人も「戦争賛美と誤解を受ける」といった理由から本作の映像化等の二次使用を許可しておらず、ドラマ化は遺族の意向によるものであった。
なお、特に日露戦争において第三軍を指揮し旅順要塞攻略を指揮した乃木希典大将に対する批判的な描写は現在も議論を呼んでおり、ドラマ化に際しては司馬が手がけた乃木を主役に据えた小説「殉死」の内容を合わせたうえで、乃木と児玉の友情を掘り下げることで若干のマイルド化を図った。そのため、ドラマ版は一部界隈ではそっち方面の人気もある。ただ、司馬は乃木を無能に近い軍人と評したが、誠実な人格については肯定的に描いていたことも留意する必要がある。
こうした経緯から『文学作品としては一級だが資料としては扱えない』といった声も一部の批評家からは強く、賛否両論となっている。
主な登場人物
幼名「信三郎」。陸軍将校であり「日本騎兵の父」と讃えられる名将。貧困ゆえに寺に預けられそうになっていた真之を「ウチが豆腐ほどの金をこさえるさかい」と父に懇願し引き留める。その後一度は教師を目指し師範学校に向かうが、「学問にお金がかからない」とされる陸軍士官学校に向かうこととなる。その後、ドイツ流軍学が主流の陸軍内にあって旧松山藩主当主の留学の付き添いで渡仏することになり、フランス流騎兵術を日本にもたらす。とんでもないクラスの酒豪。
幼名「淳五郎」。好古の弟で彼や母親からは「淳」と呼ばれている。頭の回転が早いガキ大将で、その才能が長じて日本海軍の連合艦隊作戦参謀として日露戦争に従軍する。一方で所構わず豆をポリポリ食う奇癖を持っていたり、部下の死に衝撃を受ける繊細な面を持っていたりと複雑な人物である。
真之の幼馴染で彼からは幼名「升(のぼる)」にちなんだ「ノボさん」と呼ばれている。一時期は真之とともに学者を志すが、真之が海軍に転向したあとは自身も俳句や短歌にのめり込み中興の祖となるが、脊髄カリエスに倒れる。
子規の妹。幼い頃かた気弱な兄を守ろうと振る舞っていた気丈な女性。真之からは「りーさん」と呼ばれている。子規が病に倒れてからは俳句や短歌を一つでも多く残そうとする兄を支える。原作では子規死去後は作品からほぼフェードアウトしてしまったが、ドラマ版では真之の妻となった季子と仲良くなり夫の無事を案じる彼女を支えたり、子規亡き後の門下生たちの世話をする姿が描かれるなど、出番が全般的に増えている。
日露戦争における連合艦隊司令長官にして日本海海戦での圧倒的勝利により戦史に名を残す名将。原作では舞鶴鎮守府長官という閑職に追いやられていた彼が司令長官に任命される経緯が描かれ、ドラマ版では日清戦争前に来日した清国北洋艦隊視察において真之と出会っていたというオリジナルエピソードが追加された。
日露戦争における陸軍第三軍を指揮する大将。ロシアが作り上げた鉄壁の旅順要塞を攻めることになり苦戦することとなる。原作、ドラマ版ともに旅順攻略は後半でもかなり具体的な描写がなされているため登場回数も多い。なお、ドラマ版では第3部1、2話の実質的主人公でもある。なお、ドラマ版では柄本の重厚な演技もあって「悲劇の将軍」としての一面もクローズアップされた。また児玉との友情についても掘り下げられた。
日露戦争において陸軍参謀長として辣腕を振るった名将。乃木とは同郷の昔馴染みで、旅順攻略に苦戦する彼を督戦するために旅順まで赴く。
なお、好古の属した陸軍大学校の初代校長も務めており、第一部から登場している。
元老。「恐露病」と揶揄されるほどロシアとの戦争を回避しようとする非戦論者だが、開戦と決まると金子堅太郎を呼び寄せ、同窓生であるセオドア・ルーズベルトを仲介とした日露講和の準備を命じる。
日露戦争時の副総裁。真之と子規の予備門時代の英語の教師でもある。原作での出番は予備門時代のちょい役と日露戦争時に戦時国債を売るべく奮闘する姿ぐらいだが、ドラマ版では真之、子規を連れて横浜沖の観艦式を見に行ったり、駐米武官になっていた真之と再会しネイティブ・アメリカンの歴史を話すなど大幅に出番が増えている。
明治・大正を代表する小説家で、真之と子規の予備門時代から友人。こちらも原作ではそれほど出番は多くない(真之からは予備門で数年一緒だっただけでそれほど親しかったわけではないとまで言われている)が、ドラマ版では大幅に出番が増え、海軍に入り予備門を中退した真之とも面識がある。主に子規パートでの登場が多い。
一方で、日露戦争において負ければ古来からの文化が破壊されるという恐怖の中、戦争の役に立たない自らの立場に悩み、前線で奮戦している真之に密かに嫉妬しているという一面もある。
士官学校出身である正真正銘の陸軍将校だが、日露戦争時には端的に言えばスパイの役割を果たした。ロシア帝国に内部から揺さぶりをかけるべくロシア国内の反帝政派、さらにはロシアに支配されていたフィンランドやポーランドの独立運動指導者に接触し、資金を調達することで彼らの地下活動を支援。その功績は、「明石ひとりだけで師団10個分の戦果にも相当する」と評されたほどであった。
元々はクビ寸前の冴えない外交官に過ぎず、日清戦争前、北京の日本公使を務めていたころは日本人にしても小柄すぎる体格から「ねずみ公使」とあだ名され、列強各国の公使たちからは嘲笑されていた。しかし日露戦争終結後のポーツマス条約締結の場では日本側全権を務めるなど活躍。結果的にはロシア側から一銭たりとも賠償金を引き出せなかったことから、日本帰国時には当時の国民から非難を浴びた。
真之の友人で、同じ海軍将校。日露戦争では、旅順港閉塞作戦の際に砲弾が直撃し戦死する。