ホエールウォッチング
ほえーるうぉっちんぐ
概要
野生のクジラやイルカなどを観察して楽しむ観光事業の一形態であり、俗にいう「エコツーリズム」の一環。類似した概念にバードウォッチングなどがある。イルカを専ら対象にする場合はイルカウォッチングやドルフィンウォッチングと呼ばれることもある。一緒に泳ぐ場合は「ホエール(ドルフィン)スイミング」と呼ばれる。
現在では世界中で莫大な利益を生む観光資源とされており、ホエールウォッチングのおかげで廃村化や過疎化を免れた地域があったり、漁師たちがホエールウォッチングに転向した事によって自然保護や地域経済だけでなく漁師の収入や安全面も大幅に向上した事例もあるとされる。オーストラリアやアルゼンチンなど、ホエールウォッチングが国家にとって重要な収入源としてみなされている場合も少なくない。
アイスランドやノルウェーは捕鯨国ではあるが、ホエールウォッチングの人気によって捕鯨自体が凋落しつつあるとされる。一方で日本では、捕鯨によって国内のホエールウォッチングに悪影響が出る場合もあるとされている。
また、人間に慣れる個体が増える事で将来的なツアーの成功度が時代が進むにつれて向上していくともされている。
ただし、ホエールウォッチング業が成功するか否かは完全に運任せだとされている。そもそもクジラやイルカがツアー中に見られるかどうかが運次第であり、天候や波浪などによって中止になることもかなり多い。
また、たとえばシロナガスクジラなどの注目度の高い種類が該当地域で見られるか否かによっても大きく左右される。
とくに(主に海外で)一部から「ホエールウォッチング御三家」と呼ばれる事もあるとされるセミクジラ・コククジラ・ザトウクジラは地域経済を文字通り左右し、これらの種類が安定して見られるのであれば間違いなくその地域でのホエールウォッチングは成功するとされる。その理由には以下の背景があるとされる。
- 好奇心が強くて人懐っこい
- コククジラはメキシコで、世界で唯一法的にクジラを触る事が許可されており、「ホエールタッチング」が可能である。
- ヒゲクジラなので大人しい
- 鯨類が人間を襲うこと自体がきわめて稀だが、近年は一部のシャチがボートを攻撃する「遊び」を覚えたことで注目を集めている
- 海岸から容易に観察できるほどに沿岸性が強い
- 陸近くで観察できるので天候や波浪の影響を比較的に受けにくく、仮に船が出せなくても陸上から観察できるので、ツアーが行えなくても地域経済が潤う
- 陸上からの観察を重視する事でクジラへの負担や危険性も減少し、設備の維持費なども節約できるとされる
- ジャンプなどの派手なアクションをよく行う
- ある程度体が大きくて動きも速くなく、人間によく近づくために、ジャンプ等をしなくても見ごたえがある
- 回遊をするため、比較的に広範囲の地域で見られる
- ホッキョククジラも「御三家」と共通する部分が多いが、基本的にはアクセスが楽でない地域で見られる種類である
しかし、ホエールウォッチングに適した種類というのは同時に捕鯨にも適した種類であったため、これらの種類は真っ先に捕鯨の犠牲になり、今では地球上にはこの「御三家」全員が安定して一緒に観察できる地域はもはやどこにも存在せず、セミクジラ類に至っては北半球では絶滅寸前になり、コククジラに至っては北大西洋では絶滅して今では北米大陸の西海岸でしかまともにホエールウォッチングができないほどに数が減っている。
また、これらの種類は捕鯨だけでなく、船との衝突や定置網への混獲、ゴミ、環境汚染などの影響を受けやすく、ホエールウォッチングに適しているというのはクジラ側からしたら決して良いことだけでない。
しかし、これらの種類は自然保護のバロメーターとも言われる「象徴種」および「アンブレラ種」であり、これらの種類を保護する事によって生態系全体や地域の自然環境が改善されるとされている。つまり、「御三家」が安定して観察できる地域は比較的に自然環境がよく残されているということである。というか、ホエールウォッチングがきっかけで自然保護区や世界自然遺産が新たに制定される事例も決して少なくない。