概要
専用の矢を弓(板ばね)の力で飛ばす武器の一種。
弓床とよばれる基部先端に、弓が取り付けられている。弓の素材は様々あり、古くは木製のものもあったが、時代を経るごとに金属製や滑車を用いた強力なものになっていった。
構造上、縦の棒と横の棒がクロスしているからクロスボウというストレートな由来を持つ。
ボルトやクォレルと呼ばれる専用の矢は弓で使うものを切り詰めたような格好をしており、太短い事が多い。貫通力や殺傷力は非常に高く、熟練の長弓射手でなくとも敵の重装兵を倒しうる点が大きな強みだった。
東アジアでは弩と呼ばれ、かなり早い時期、紀元前6世紀ごろから武器として使用されていた。材質は木製で、携行用のもの以外にも、台座に取り付けた攻城/防衛兵器版、連射が効く「連弩」などが発明され、多くの戦いで使われている。
一方日本では古代のうちに伝来はしており「弩」と書いて「おおゆみ」「いしゆみ」と呼ばれていたものの、やがて武士の専門職業化が進んでいくにつれて廃れていった。古代中国のように多数の歩兵を動員しての戦闘が起こるようになった戦国時代にクロスボウも再輸入されたものの、威力や威嚇効果の面では火縄銃、速射と取り回しは和弓、手軽さとコスパでは印地(投石用のスリング)に劣る…という状況だった為に普及せず。世界的に見ても珍しく、伝来していたにも拘らず全く普及しなかった地域となった。
なおこうした歴史的背景があるためか、クロスボウは立派な殺傷力を持つ武器であるにも拘らず日本では2020年代まで銃刀法では規制されていなかったという実情がある。法律上の扱いは有害玩具、つまり高威力のエアガン・ガスガンや、実弾を発射し得るモデルガンなどと同様の扱いで、防犯グッズなどと称して取り扱っている通販業者などもあった。競技用に輸入されたボウガンがこうした通販業者経由で出回り、殺人や傷害、動物を殺傷する、器物損壊などのイタズラ目的で脱法的に所持・使用できる武器となってしまっていたため、2020年以降の改正銃刀法では単純所持が認可制となった。
狩猟のための道具として生まれ、後に武器としても使われるようになった弓とは違い、クロスボウは当初から対人戦闘用として開発され発達してきた兵器である。
弓の一種としてカテゴライズされる事が多いが、その扱い方は弓というよりむしろ銃に近い。
一般的には銃と弓が合体したような形状のものが有名だが、腕に装着するガントレットタイプのクロスボウも存在する。
使用方法
※このように矢をつがえる。
使用する際は弦を引いて短矢をセットし、撃ちたい方に向けて引き金を引くことでロックが解放され発射されるという仕組みである。
弓は威力(張力)を増そうとすると、熟練者以外が扱うのが難しくなっていく。一方、クロスボウは「弦を引く」と「射撃する」の間にワンステップが挟まることで、背筋力使って引き、セットしたら狙って撃つという流れで使用できる為に誰でもある程度狙った所に威力のある矢を飛ばす事ができる。
なお、普通に手で弦を引くだけのもの以外にも、先端に鐙(あぶみ、金属の輪)がついており、足をかけて引けるようになっているもの、テコやクランクを使った巻き上げ機構がついているものもある(「クレインクイン」「ウィンドラス」などと呼ばれる)。特に後者が搭載されたものに関しては、人力では到底弦を引けないような弓(板ばね)で矢を発射し得るため強力である。
古代ギリシア世界で使われていたポリボロス、中国の連弩などのように連射が効くものは機械式で次矢が装填できるようになっており、使用者はレバーを前後に動かすなどの簡単な操作で連射ができたようである。ただし、複雑な機構を備えていた都合上張力や精度は犠牲になっており、主に援護・制圧射撃用や毒矢を塗っての攻撃に使われていたようだ。
クロスボウの利点と短所
利点
狙いを付けている間、両腕で弦を引き張り続ける必要があるの通常の弓に対して、クロスボウは機械仕掛けで固定されるため狙いをつけるのが容易になる。
そのため訓練期間が弓よりも短く、さらに一旦矢を番えておけば(小型軽量のものであれば)片手でも扱えるため、もう片方の手を自由に扱えるなどの利点を有する。
威力の強いものなら、それに合わせて射程距離も伸ばしやすい。
欠点
構造が複雑で壊れやすい。
弓を張るのに時間が取られ次の射撃までに時間が掛かりやすい。
騎乗してのクロスボウの使用は「狙いが定め難い」「馬上では矢の装填が困難である」という理由から広くは行われていない。
そして前述の通り使用する矢が短く太いことに起因して有効射程は短い。通常の弓矢における有効射程と最大射程の到達距離比は「3:4」ほどなのに対し、クロスボウは「3:7」と早い段階で失速してしまう。
戦場におけるクロスボウの運用法
戦場においては、主に城や砦の防衛戦で多用された。夜戦においては
防護用の大型の盾を設置し、射手を敵側の攻撃から防護する、陣形内で役割を決め、射撃速度を上げる等の工夫により、野戦でも使用されている。
派生
弓の張力を用いて弦に物体を番えて射出するというシンプルな構造のため、矢以外にも石や鉄球、果ては火炎瓶や爆弾などを射出可能なものが開発されている。
直近の事例として、第一次世界大戦においては手榴弾を射出する道具として「ソートレル(仏語でバッタの意)」と呼ばれる専用のクロスボウが英・仏両軍によって使用された。
また、クロスボウを大型化した攻城兵器も存在する。
ローマ帝国では「バリスタ」と呼ばれる巨大なクロスボウを馬に曳かせる事で、城の兵士を城壁ごとぶち抜くなどといった攻撃が行われた。
連射式クロスボウ
クロスボウは強力な武器であるが、次の射撃までに時間のかかる武器でもあった。
その「次の射撃までにかかる時間」を、何とか短縮できないか……という事で、考え出されたものが連射式クロスボウである。
種類として、弓床に矢を収める箱を取り付け、一射毎に矢が落ちてくる仕掛けになっているもの、
矢を番える台座と弓を、単純に重ねたもの等がある。
連続発射が可能であるため、通常のクロスボウと比べて次の射撃までにかかる時間は短い。反面、番える時間を短縮するために張力の弱い弓部分が使われている場合が多く、威力が犠牲となっている事が少なくない。
なお、東アジアにおいては、連射式クロスボウのことを「連弩」と呼ぶが、「矢を連射できる弩」だけでなく、「複数本の矢を一度に放つ弩」についても、連弩と呼ぶ事があるため、注意が必要である。
(例:漫画『ダブルアーツ』の「号泣する雨」、『SDガンダム三国伝』の「弩弓乱射砲」など)
フィクションにおいては、映画『ヴァン・ヘルシング』のヴァン・ヘルシングや『ベルセルク』の主人公、ガッツが左手の義手に装着するものが有名である(ただし作中ではボウガン表記)。
歴史
ヨーロッパ地域では、古代ギリシア時代に使用された「ガストラフェテス」にまでその歴史を遡る事ができるが、武器として広く使用されるようになるのは11世紀以降の事である。
12世紀頃、ローマ法王によって「キリスト教徒への使用を禁じる」令が出されるも、実際には異教徒・キリスト教徒の区別なく使用され続けた。
その後、銃器の性能が向上し、諸国の軍隊で大規模に採用されるようになる16世紀頃まで、クロスボウは戦場で用いられ続けた。
アジア地域においては、中国大陸において盛んに使用された。
特に、春秋戦国時代以後の、中国歴代王朝の軍隊で多用されており、火器が普及した明代や清代まで、弓と併用されながら使用が続けられた。
日本では奈良時代から平安時代前期(8~9世紀頃)に国家が兵士を徴兵する体制になっていたが、当時の律令では軍団への弩の配備が義務付けられていた。そのため、遅くとも奈良時代には弩が用いられていたことになる。
(※ただし、島根県の弥生時代の遺跡から、「弩のようなもの」が出土しているため、弩そのものが日本に入ってきたのはもっと古い時代の可能性がある。)
しかし専門戦闘集団である武士が台頭した10世紀以降は弩を採用する事例が急速に減り、その代わりに和弓が発達する。
武士が弩を採用しなかったのはなぜかというのは日本史の謎の一つであるが、弩のメリットである「訓練しなくても使える」は戦国時代よりも前の武士には必要なかったという説がある。当時の戦争はあくまで訓練された武士同士が行うものであったので、高度な訓練は必要だが射程と威力は弩より強い和弓が好まれたということだ。戦国時代になるとロクな訓練も受けていない足軽たちも戦争に投入されるようになったが、その当時はすでにヨーロッパから鉄砲が伝来して国内での銃製造が始まっていたので、弩が省みられることはなかった。
また、日本の加工技術は歴史的には木工が中心で金属加工の技術が必要な弩を整備する人材が少なかったので普及しなかったという説もある。この説の元では、日本の金属加工の技術は鉄砲伝来をきっかけに産業革命が起こり飛躍的に上昇し、江戸時代にはカラクリ技術などが花開いたとされる。
なお、アイヌはアマッポという弩を、狩猟のための仕掛け罠に使用していた。一説では中国の春秋戦国時代に使われていた弩が北回りで伝来したとされており、その歴史は和人よりもはるかに古い可能性がある。
銃火器が高度に発達した現代では専ら(主に北米地域の好事家の間で)スポーツハンティングや競技に用いられる。しかしながらコンパウンドボウにライフルさながらのストックや光学照準器などを搭載したそれは「なんかヤベェ戦闘兵器」を思わせるシルエットである。
またAR-15のアッパーフレームを換装し、クロスボウとするTAC-15という変わり種の製品も存在する。
ボウガンという呼称について
クロスボウの通称として、しばしば用いられているボウガンは、株式会社ボウガンの登録商標である。詳細はボウガンの項目を参照。
クロスボウを使うキャラクター
※基本的に作品50音順。
※クロスボウ型の武器全般を含むが、主装備にしていないキャラクターは除く。
ゲーム
- アドナキエル(アークナイツ)、シュヴァルツ (アークナイツ)
- ケビン・グラハム、ルフィナ・アルジェント(軌跡シリーズ)
- ジェイクリーナス、バドラック(ヴァルキリープロファイル)
- メルセデス(オーディンスフィア)
- 大鳳(艦隊これくしょん)……矢が飛行機(艦載機)になる
- シグバール/ブライグ(キングダムハーツ)……二丁合体でライフル状になる
- アステール、ミラオル(グランブルーファンタジー)
- マール(クロノ・トリガー)
- セバスチャン・カステヤノス(サイコブレイク)
- 練師(三國無双シリーズ)
- 細谷はるな(シークレットゲームCODE:Revise)
- フィーナ(神撃のバハムート)
- リンクル(ゼルダ無双)
- 奴隷騎士ゲール(ダークソウル3)※
- アポロ(チーターマン)
- メタルハンター、キラーマシン(ドラゴンクエストシリーズ)
- ラゴス(ドラゴンクエストⅣ)……オリジナルではブーメラン使い。矢を使うのはリメイクのPlayStation版以降
- アロードッグ(ドラゴンクエストⅥ)
- マミエル(ビビッドアーミー)
- ベルガー(ファイナルファイト)
- ロビンフッド、ウィリアム・テル、パリス(Fateシリーズ)
- 善(ペルソナQ)
- アーサー(魔界村)
- 環いろは(マギアレコード)
- ベル、ワイルドハンター、クロスボウマスター、メルセデス(メイプルストーリー)
- ザ・フィアー(MGS3)
- リンク(リンクのボウガントレーニング)
- ピリジャー、ピグリン(Minecraft)
- ヒルチャール、宝盗団、野伏衆、エルマイト旅団(原神)
漫画・アニメ
- WeiEn(RHG)
- ヒルド(ヴィンランド・サガ)
- ボーガン男(SAMURAI7)
- ジョセフ・ジョースター、ワムウ(ジョジョの奇妙な冒険 第2部)……吸血馬による戦車戦の武器として鉄球を撃ち出すクロスボウを使用
- 雪音クリス(戦姫絶唱シンフォギア)
- 弓梓(ソウルイーター)…自身がクロスボウに変化する
- ルナティック(TIGER&BUNNY)……炎を放つ
- リーフ・ラング・ド・シャー・ハルヴァー(DOGDAYS)……腰に装備している剣と使い分けている。
- ハントレス(バットマン)
- ヂートゥ(HUNTER×HUNTER)
- ゴウヒン(BEASTARS)……竹の矢を放つ
- バズビー/バザード・ブラック(BLEACH)……幼少期にクロスボウを使用。滅却師の技である神聖滅矢の弓がクロスボウ型
- ガッツ(ベルセルク)
- 陽夏木ミカン(まちカドまぞく)
- 真宮裕明(ミスミソウ)
小説
- ウィノナ・ピックフォード(テイルズオブファンタジア 語られざる歴史)
- 伊予島杏(乃木若葉は勇者である)
- 赤松義生、新井田和志(バトル・ロワイアル)……赤松に支給されたものを後に新井田が使用
特撮・実写作品
※基本的にエネルギーの矢を放つ。
- 仮面ライダーシリーズ
- スーパー戦隊シリーズ
- ギンガイオー(星獣戦隊ギンガマン)
- 恋煩い忍者チューピッド(忍風戦隊ハリケンジャー)
- マジイエロー(魔法戦隊マジレンジャー)……マジスティックをボウガン型に変型させる
- ゴセイブルー(天装戦隊ゴセイジャー)……全員の武器を合体させたバズーカもクロスボウ型をしている
- ボウガンス(動物戦隊ジュウオウジャー)
- テンビンゴールド(宇宙戦隊キュウレンジャー)……厳密には弩弓型ライフル
メディアミックス
その他
特定のキャラクターではなく、組織の装備として大量配備されているケースとして、ゲーム『龍が如く7』の韓国マフィア「コミジュル」がある(余談だが、実際に暴力団などの装備として検討されたケースがあるとのこと。要約すれば、高い殺傷力を持ちながら法的な網を掻い潜れ、かつ入手が拳銃ほど難しくないためだが、隠し持つのが困難なため導入を見送ったとのこと)。
参考動画(ボウガンについての話は7:08から)
また、『北斗の拳』のスペードをはじめとするモヒカン・ザコが比較的頻繁に利用しているイメージがある。銃器は世界観を崩すので大量に使えないが、手持ちで適度に威力のある飛び道具としてワイルドなイメージからもうってつけ、という部分があるのだろう。だが、ケンシロウ他一流拳士には基本的に通用せず、棍棒や斧のような「かませ犬」的武器にされてしまっている。
脚注
※ネタバレ回避。白霊として呼び出す際には所持していない。
関連イラスト
関連タグ
罠…引き金を引くと矢が飛び出す罠に使われる。
KTM…バイクメーカーだが、「クロスボウ」(表記はX-Bow)というスポーツカーも生産している。