私は一人深淵の漆黒の世界で、深い眠りと覚醒を繰り返していた。
だが、源家の陰陽師が私を見つけたあの日、全てが変わった。
私が祀られている祠を見つけた陰陽師は、崩れかけた祭壇を修復し、取引を持ちかけてきた。私はその陰陽師と、生贄と交換に、ヤツに力を与える契約を交わした。
生贄など私にとって特に意味を成さないものだったが、生贄の儀式を通じて、私は人間を観察する目を手に入れたのだ。
「人間とは、まるで桜のように儚く、一瞬で散り去る生き物だ。」
「え?」
陰陽師は動揺していた。彼は頭を下げ、こう聞いてきた。
「何を仰っしゃりたいのでしょうか?偉大なる邪神様。」
「お前たちはこれほどにも脆く、弱いというのに、常に永遠に生きる事を追い求めている…愚かな生き物だ」
「これは信念なんです」
源家の陰陽師は躊躇せず答えた。
「一族が未来永劫繁栄する事が、私達の信念なんです。」
「……愚かな考え方だ。」
ヤツの考えは浅はかではあったが、その眼には固い決意が見えた。
「……だが、その愚かさ、羨ましくもある。」
「どういう意味でしょうか、邪神様?」
「この世界のすべての命には、始まりと終わりがある。神だけが例外だ。」
私は自分に言い聞かせるよう、言葉を繰り返した。
「そう……神だけが例外だ。」
私は深淵の暗闇の世界を見回した。どうすれば陰陽の境を越え、この目で現世を見ることが出来るのだろうか?
(伝記一より)
概要
CV:宮野真守
高天原より来たる邪神、かつては陰と陽の狭間に封印されていた。
その身には強大な力を有し、人間の生死は散りゆく花びらと同等にしか思っていない。
邪神は人間から嘘と偽りを覚え、同時に都の陰陽師とある約束を交わすこととなる。
(陰陽師「式神図鑑」より)
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