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概要

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope 以下JWST)とは、老朽化が進むハッブル宇宙望遠鏡の後継となる汎用宇宙望遠鏡。主鏡は18枚の六角形をした鏡を組み合わせているのが特徴。

ハッブルとは違い、可視光は検出出来ない(主に赤外線で観測を行う)が、およそ百倍もの性能(月にいる蜂が見えるレベルと例えられる)を誇り、遥かに精度の高い観測が出来ると期待されている。

その為、地球近傍の僅かな塵や、太陽や地球から放たれる電磁波も観測の邪魔になる。それを避ける為、月の軌道の外側にある、ラグランジュ点2「L2」と言う地点に置かれる。それ故ハッブルの様な打ち上げ後の修理は不可能となっている。

因みに、この望遠鏡が赤外線に特化しているのは、宇宙誕生から間もなく輝き出したと考えられるファーストスター(この天体からの光は波長が引き延ばされ、地球には赤外線として届いていると推測されている)を観測するのが主な任務とされている為。

計画自体は1990年代より始まっており、当初は2007~2010年頃に打ち上げの予定だったが、技術的・資金的な問題から延期。2016年に望遠鏡自体は完成したが、動作確認に数年を要し、試験中にネジの緩みが発覚し延期、その後ようやく打ち上げといった所に新型コロナウイルスの影響により更に延期、打ち上げロケットへの搭載時のトラブルによりまたまた延期、打ち上げ地点(仏領ギアナ)の悪天候の為にまた更に延期された。最終的には2021年12月25日に打ち上げられ、開発に掛かった費用は日本円換算で一兆円にも上った。

開発

1980年代に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡の後継となる近赤外線宇宙望遠鏡である。後継機と言っても設計上の共通性は少なく、観測波長がハッブルに近いという程度のものである。1980年代以来の技術の進歩を反映して完全な新設計となっており、大幅な性能向上が図られている。

ジェームズ・ウェッブはNASAの創設期にNASAの二代目長官として有人宇宙飛行計画の指揮などに活躍した人物。ハッブルが天文学者に由来するのに後継のJWSTが役人由来なのはいささか奇妙に見えるが、アメリカの天文学者でハッブルに並び立つような人物が見当たらなかったためである(近代の欧米の大天文学者として知られる人物はほとんどがヨーロッパ人である。

当初はハッブルと同程度の予算で開発する計画だったが、「ハッブルの後継」という大看板に対して天文学者からの観測能力の要求が殺到し、なかなか仕様が定まらなかったことに加え、宇宙空間で超高精度で主鏡を展開する技術の確立が難航し、プロジェクトは敢え無くグダグダ化し、打ち上延期と予算超過を繰り返し、実現が危ぶまれていたが、最終的に2021年12月25日に打ち上げられた。

結局一兆円を超える超巨大プロジェクトになった。単一の宇宙機にかけられた予算としては史上最高額になった。比較としてアポロ計画の総予算はは3兆円だが、これは専用の打ち上げロケット開発や複数回の有人月着陸を総合した費用であり、宇宙機1機にかけられた費用ではない。

性能

ハッブルの後継機と銘打たれているが、ハッブルの打ち上げ以降の技術の進歩を全面的に取り入れて観測波長が可視光・赤外線であることを除けばほとんど共通点のない宇宙望遠鏡になっている。

まず、JWSTは特定の目的に特化した宇宙望遠鏡ではなく、汎用的な観測に使用できる宇宙望遠鏡である。この点ではハッブルと共通のコンセプトと言える。

JWSTはHSTと同じく反射式望遠鏡であり、その構造は巨大であることを除くと一般的な反射望遠鏡と変わりがない・HSTでは一枚板で口径2.4メートルだった主鏡は六角形の分割鏡を組み立てて作る複合鏡方式とすることで有効口径6.5メートルという宇宙望遠鏡史上最大口径を実現している

6.5メートルという口径は宇宙望遠鏡としては言わずもがな地上の天体望遠鏡との比較でも最大クラスに入る。分割鏡の展開は非常に高い精度(しかも失敗が許されない本番での一発成功が必要)が要求されるため開発難航の原因となったようだ。

鏡面は金でメッキされている。金は波長の短い可視光(青色光)を反射せず吸収してしまうが、JWSTが主な観測領域とする赤外線領域での反射率が最も優れていることから金メッキが選ばれている。主鏡で反射された光は副鏡で再反射されて観測装置に導かれる。観測装置は4種類を搭載しており、観測目的によって切り替えが可能である。

観測装置

小規模予算で簡易的な宇宙望遠鏡では、望遠鏡と観測装置が一体化し単一の観測目的に特化している場合が多いのに対し、JWSTでは天体の光を集める望遠鏡部と、集められた光を処理・記録する観測装置が独立して役割を果たし、観測装置を切り替えて様々な観測を行うことができる。

JWST同様に観測装置が独立した構造を持つハッブル宇宙望遠鏡では観測装置の交換が行われたりもしたが、地球から離れたラグランジュ点に設置されるJWSTではそのようなことは困難で、打ち上げ時に搭載する観測装置を最後まで使い続けることになるとみられる。

全体的には波長0.8~27μmの範囲の可視光および赤外線で観測を行う。特に波長5μm以下の領域がメインの観測波長で、複数の観測装置でカバーされる。可視光のうち波長の短いもの(青色光)や紫外線は主鏡の金メッキで吸収されるため観測は不能。

赤外線を観測するために観測装置は遮光板(太陽光を遮る)の背後に置かれて冷却される。装置の温度が上がると装置自身が赤外線源となり観測ノイズが増えるためである。赤外線でも波長数μM程度までなら必ずしも冷却は不必要ではないが、波長数十μMまで観測するJWSTでは必須になっている。

:NIRcam;近赤外線カメラ。近赤外線波長領域(0.6-5μm)で天体写真を撮影する装置、銀河や星雲などの微細構造を観測できる。天体の光度変化を測定する用途にも使える。広報用の天体写真も主にこの装置で撮影されることになると思われる。

:NIRspec;近赤外線分光器。近赤外線波長領域で天体の電磁スペクトルを記録する分光器。その光を発した天体の物理的状態を間接的に調べることができる。条件によっては太陽系外惑星の大気成分の観測にも使える

:MIRI;中赤外線汎用観測装置。NIRcamやNIRspecよりも波長が長い中赤外線波長領域(5~27μm)で観測を行う。撮像装置と分光器の機能が統合された観測装置になっている。近赤外線よりもさらに低温な天体の観測が可能

:FGS;ガイドセンサー。観測対象の天体の位置を測定し、望遠鏡の姿勢を精密に測定する。観測装置というよりは制御システムの一部だが、NIRISSという名の近赤外線観測装置が併設されており、FGSで捉えた光を観測データとして記録する。NIRISSは撮像装置(カメラ)と分光器の機能を併せ持ち、波長0.8-5μMの範囲で観測を行える。

打ち上げと運用

2021年のクリスマスについに本当に打ち上げられた。打ち上げ後は力学的に安定かつ地球の赤外線を避けながら観測が可能な太陽-地球系のラグランジュ2(L2)点へ向けて移動し、遮光板や主鏡を展開し、テスト観測と較正などの調整が半年間行われた。2022年7月、初の観測データが発表され、ついにJWSTによる科学観測が開始された。

JWSTは観測初年から、史上最遠とみられる銀河や系外惑星の直接観測など、次々に成果を上げている。

なおハッブル宇宙望遠鏡は度々スペースシャトルを横付けしての船外活動で修理が行われていたが、JWSTが設置されるL2点は地球から遠く離れているため、人間が修理に赴くことは事実上不可能(修理に行くより複製機を作って打ち上げた方が安くなる)であり、故障したら一巻の終わりである

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