ネイピア デルティック
イギリスのエンジンメーカー、ネイピア&サンの艦船用ディーゼルエンジン。ドイツ・ユンカース社が航空機用に製造していた対向ピストン式エンジンをもとに開発された。
対向ピストンエンジンとは、通常のエンジンのように底がふさがれたシリンダーに1つのピストンを入れる代わりに、両端が開いたシリンダーに2つのピストンを向かい合わせに入れる方式のエンジンである。シリンダー内の気流の向きを一方向にでき(ユニフロー掃気)、軽量化・小型化が図れる利点がある一方、2つのピストンが生む回転運動を1つにまとめる機構を設ける必要があるという欠点もある。
デルティックエンジンではこのシリンダーを3つ三角形に配置し、頂点部分に設けたシャフトにそれぞれ2つのピストンを結合。3つのシャフトは歯車により1つの駆動軸を回す構造となっている。3つのシリンダーで等間隔に燃焼が起こるようにするため、シャフトのうち1本は他と逆向きに回転する(なおユンカース社でも4つのシリンダーを正方形に組み合わせたエンジンが試作されていたが、燃焼が等間隔で起こるように調整するのが難しくボツになった)。この設計により小型でありながら高い効率と出力を有するが、ある意味芸術品的なエンジンであり、整備性は決して良いとはいえなかった。
名称の「デルティック」は、三角形を意味する「デルタ」をもじっている。
イングリッシュ・エレクトリック DP1 デルティック
戦時統合でネイピア&サンを傘下に収めた機械メーカー、イングリッシュ・エレクトリック(後にゼネラル・エレクトリックに買収される)が、鉄道車両にデルティックエンジンを利用するべく1955年に試作した電気式ディーゼル機関車。1650馬力の18気筒デルティックエンジンを2機搭載した強力機で、1955年からロンドン~リヴァプール間などで試験走行を行った。当時本線用に製造されていたイングリッシュ・エレクトリック タイプ4(イギリス国鉄 class40)が、幹線の高速化には性能不足であったこともあり、高い性能を示した本機は量産化が決定。その後も試験を続けたが、1961年に発電機の故障で引退した。現在はシルドンのNational Railway Museum Shildonにて静態保存されている。
イギリス国鉄 class55 デルティック
上記のDP1の量産車。1961年から1962年にかけて22両が製造された。主にロンドン~エディンバラ間の東海岸本線で運行され、特急の高速化に貢献した。しかし、構造が複雑なデルティックエンジンの保守が困難で故障も多く、インターシティ125(HST)が登場すると次第に置き換えが進んで両数を減らしていった。1982年に全車が現役を引退したが、愛好家団体によって動態保存されており時折本線を走行している車両もある。静態保存車を含めると8両が現存する。