概要
1960~1972年にかけて動物行動学者のジョン・B・カルホーンによって行われた、ネズミを用いた実験のこと。
楽園実験と呼ばれることもある。25というのは25回目の実験という意味。
研究の目的は、都市計画におけるシミュレーションであり、「もしも楽園のような生活環境があった場合、どのような社会が形成されるのか」という点に注目している。
この「楽園」とは、「無限の食糧と水」「病気や天敵からの保護」「安全な住居」が与えられる環境のことであり、
実際の実験ではネズミたちにはタワーマンションのような施設が与えられ、餌と水は常に補給され、ごみや汚物は常に除去され、温度や湿度の管理も徹底された環境が与えられた。
実験の流れ
フェーズA
適応期ともいう。解き放たれた8匹のネズミが各々縄張りを決め、巣作りを始め、繁殖を行うまでの段階。
フェーズB
社会形成期ともいう。楽園に順応したネズミたちは順調に個体を増やし続け、遂には600匹を超えた。
なお、ネズミたちは広大な居住空間があるにもかかわらず特定のエリアに集中する傾向が見られた。これは自然に発生した「群れ」によるものであり、この群れが社会を形成するきっかけとなった。
フェーズC
停滞期ともいう。繁殖のスピードがじょじょに落ち始め、メスに興味を示さないオスや、子育てを放棄したり子殺しを行うメスが見られるようになった。
フェーズD
終末期ともいう。この時点で実験開始から約2年が経過している。
新生児の死亡率が100%となり、新たにメスが子供を産むこともなくなった。それゆえ高齢化社会となり、社会は崩壊。
かくして、楽園は滅びたのである。
「楽園」におけるネズミの分類
フェーズBの社会形成期では、ネズミたちの行動パターンによってタイプ分けがなされている。
オスは5種類、メスは2種類のタイプが見られた。
オス
- タイプA…ボスタイプのオス。一定の縄張りを得て、メスを容易に手に入れられるカースト上位タイプである。そのぶん争いも多く入れ替わりも激しい。
- タイプB…ノーマルなオス。ボスほど地位が安定しておらず、その座を狙って攻撃を仕掛けることもあった。
- タイプC…浮気者のオス。オスメス問わず多くのネズミに求愛した。正確はタイプBに比べると温厚で、争いには参加しない。
- タイプD…ストーカーのオス。タイプCよりもより執拗に求愛を続け、メスに付きまとう。
- タイプE…ニートのオス。基本的に引きこもっており、他の個体が寝静まった時間に餌を食べる姿が見られた。他個体に全く興味を示さない。
メス
- タイプA…家庭持ちのメス。オスのタイプAやBなど、比較的社会的地位の高いオスと結ばれた勝ち組。巣作りや子育てに積極的に参加する。
- タイプB…スラムのメス。社会的地位の高いオスに選ばれず、仕方なくタイプCやDのオスと交尾する。ただしタイプCやDのオスは縄張りを持たないため、メスが子供を守るために戦わなければならなくなる。このストレスで攻撃的になり、子供を虐待するメスが増加した。
考察
この実験から、仮に十分な物資や安全な居住環境が得られたとしても、健全な社会を持続させるためにはそれだけでは不十分であるといえる。
そしてこの実験はしばしば人類の未来を示唆しているという文脈で語られる。
特に近年になって「若者の異性への興味の希薄化」「女性の社会進出による晩婚化」「少子高齢化」「ニート・引きこもりの増加」「児童虐待」等のニュースと関連付けて話題になることが多い。
あくまで当実験はネズミの社会における一例であるが、近い将来にはこの実験と同じような滅びが待っているのではないか…という警鐘を鳴らしているのかもしれない。