作品概要
七匹の大蛇とは、名作ゲームブックシリーズ「ソーサリー」の第3巻である。
原題は「The Seven Serpents」
今までに三度翻訳されており、邦題は三作とも「七匹の大蛇」。
(創元推理文庫・1985年・訳者:成川裕子)
(創土社・2004年・訳者:浅羽莢子)
(SBクリエイティブ・2023年・訳者:柘植めぐみ)
主人公が城砦都市カーレを抜けてから、バクランドを横断し、スナタ森を抜けてイルクララ湖を渡り、ザメン低地に至るまでを描いた作品。物語の冒頭でアナランドのイヌワシから自分の任務がマンパンのスパイである七匹の大蛇に知られてしまった事を知らされた主人公は、七匹の大蛇を討伐しつつ、マンパンの大魔王が待つマンパン砦のあるザンズヌ連峰を目指す。
シリーズも3巻目ということもあり、偽の魔法はかなり少なくなってきている(読者が慣れてきた事を想定されているのだろう)。また、単純な剣による戦闘で乗り切れる場面はかなり少なく、適切に魔法を使ったり、持ち物を使ったりすることが求められるようになる。
七匹の大蛇全てを倒す必要はないが、倒さなかった数が多いほどマンパン砦の警備が厳しくなる(4巻で不利な項目に飛ばされる)。一方でマンパン砦で大蛇と会う事はない。
主な登場人物
主人公(あなた)
本作における主人公。職業は魔法使いと戦士の2つの中から選べるが、魔法使いのほうが実質的な難易度は低い。
女神リーブラ
主人公が信仰する正義の女神。冒険の中で一度だけ支援をしてくれる。選択肢によっては主人公が信仰を捨てる事もあり、当然以後は彼女からの援助を受けられなくなる(4巻でもそのまま)。
女神スロフ
たどり着いた神殿にまつられていた女戦士の姿の神。(「スロッフ」とも)
その神殿でスロフの怒りを買った際に「改宗するなら許すよ」と持ちかけられる。
当然リーブラの加護を失うが、スロフ自身も以後一切登場しない(=加護が無い)。
本来は、タイタン世界におけるドワーフ達の主神にして創造主。
黒エルフ隊商
バクランドで魔法の品を売る黒エルフの隊商。なぜか門外不出のアナランドの魔法の書を持っている。ゴブリンをネタにしたジョークがお気に入り。
隊商の長はセスター。金貨を払えば、ワートルスープとグロイスター、薬草茶の食事を提供してくれる。
根っからの商売人ゆえに、まず自分たちの利益を最優先する。
マナタ
蛇使い。平原の地割れの中にある岩屋に住み、数匹の蛇を飼っている(彼曰く「これは自分のムスメたち」)。笛を用い、その音色で蛇たちを操る。ブーツの類が好きらしい。
シャドラック
隠者。主人公を導いてくれる存在。
レンフレン
腹立たしい幻術師。けちな魔法を使って主人公を脅すが、自分が負けそうになると命乞いをする小物。旅のよそ者に対しては悪名髙い存在だったらしいが、ある恐ろしい存在を知り……。
7人の精霊
「魔法の文句」を教えてくれる精霊たち。しかし、この魔法の文句を唱えてしまうと……
フェネストラ
黒エルフでありながら善の勢力に与する貴重な存在。優れた魔法使いであり、こちらが礼儀正しく接すれば冒険に関するヒントをくれるほか、珍しいものを見せてくれる。
平原のディタインタ(シャム)
フェネストラ同様に、女魔術師。太った中年女性で、自身の姿を変えている。贈り物が好きで、何らかの品物をプレゼントされる事で正体を現し、主人公に助言と重要なアイテムをくれる。
イルクララ湖の渡し守
イルクララ湖を横断するための船を、有料で渡してくれる渡し守。見た目は不潔な太った男。この男を呼び出すためには、特殊な呼び子が必要。また、彼の渡す船が無いとイルクララ湖を越えて先に進む事は出来ない。
七匹の大蛇
作品のタイトルにもなっている本作の敵キャラ。七匹の大蛇のうち特に時の蛇は強敵で、ある事をしないと何もできずに蹂躙される。その他の蛇も強力だが、弱点を抱えているため上手く戦えば楽に勝つことも可能だ。
元は、ザメン高地に生息する巨大なハイドラ(ヒドラ、多頭蛇)だった。しかしマンパンの大魔王がこれと戦い、討伐。この蛇のあまりの強さに感銘を受けた大魔王は、死体を持ち帰り、七つの首を切り落としたうえで、複雑な黒魔術をかける。
こうして、七つの首は、七匹の翼ある巨大な大蛇へと変貌。七匹の大蛇は大魔王の忠実な部下となり、大魔王もそれぞれの大蛇に、当時に信仰していたとおぼしき七神の力をそれぞれに授けた。
以後、七匹の大蛇は大魔王の眼となり手足となり、マンパンから離れて各地を飛び回っている。
バクランド
本作の舞台。
カーレ北門から、マンパン砦が存在するザメン高地までの地域。
かつて世界に散らばった混沌の力が残っており、都市どころか村もなく、ここを横断する事は容易ならざる行為である。
バドゥ・バク平原
バクランドに広がる荒地。異様に痩せた荒地であり、混沌の力により自然の法則が捻じ曲げられている(太陽が沈んで夜になっても、バクランドでは陽が沈まず昼のままなど、超自然的な現象が多く発生している)。
イルクララ湖
バク平原の森林を挟み、ザメン高地を臨む湖。この湖を縦断する事で、ザメン高地のマンパン砦近くへと到達する事が出来る。
湖を越えるには、渡し守を呼び、船で渡してもらう以外に方法はない。呼び出すためには特殊な呼び子が必要である。
バクランドのモンスターたち
スナッタキャット(スナタ猫)
不細工な面構えの大型の山猫。精神を集中させて、透明になる事が可能。
バドゥ・ビートル(バドゥ甲虫)
バドゥ・バク平原の、荒地の地中に潜む巨大な甲虫。その甲殻は頑丈なのはもちろん、酸性の唾を吐きかける事で相手を攻撃する。強い光に弱い。
トビウオ
イルクララ湖に生息する。胸ビレが大きく、これを広げる事で滑空する事が可能。鋭い歯で噛みついて攻撃するが、落ちた場所が陸上や船上の場合は無力。
クラッタマン
バドゥ・バク平原に住む野蛮人の種族。
半遊牧民で、略奪する事で有名。そのため、平原を横切る旅人たちには恐れられている。知性よりも力を信奉しており、そのせいか非常に愚かで会話すらろくにできない。
死霊
ボロボロの長衣を着た骸骨姿のアンデッド。本来は墳墓などに出現し、墓荒らしなどに襲撃する。銀製の武器以外は受け付けない。なぜか本作では、バドゥ・バク平原に現れるが……。
ファイア・フォックス(火狐)
バドゥ・バク平原のスナタの森に棲息する、見事な赤色の毛並みを有する大柄な狐。全身から火炎を噴出させ攻撃力を増加させる。
その他
ワートル・スープ
灰褐色の、肉や野菜を煮込んだスープ。初めて口にする者には、時として発疹が起こるが、命に別状はない。
グロイスター
どろっとしたチーズのような練り物付きのパン。非常にまずく、臭いも最悪だが、食べると運勢を回復させるという不思議な効果がある。
薬草茶
薬草を煎じたお茶。黒エルフのセスターの隊商では、ワートル・スープとグロイスターと一緒に供していた。
関連項目
以下、各蛇の詳細(ネタバレあり)
バクランドではこの七匹の大蛇の脅威に対抗するため、様々な魔法の品が製造されてきた。
その中で特に有名なのが、「蛇の指輪」である。カーレ第七貴人が作った銀製のこの指輪は、これら七匹の大蛇に対して用いると、マンパンに関する情報を一つだけ引き出す能力を有している。持ち主の貴人は視力を奪われ、現在行方不明。
また、樫の木の若木をもちいて作られた『蛇の杖』も同等のアイテムで、これを用いると各蛇と戦う際に、その技量を減らす事が可能(技術点から二点引ける)。こちらは、平原の魔女ディタインタ、またの名をシャムと呼ばれる魔女が有しているらしい。
気の蛇
風の神パンガラの力を有す。気体で構成された身体を有しているため、剣は素通りしてしまう。ゆえに、戦いの時にはダメージをほとんど与えられない。同様の理由で火炎や電撃も効かない。普通に交戦した相手に、気体となって取り込み、ゾンビがごとく操る事もある。
弱点は、強風を発生させる呪文で吹き飛ばされる事。また、これまで用いていた死体に隠した、しなびた抜け殻を引き裂かれると、即座に死んでしまう。
蛇の指輪がもたらす情報は「闇の間では、血の蝋燭は使うな」
地の蛇
大地母神スロッフの力を有する。通常は、ごく普通の緑色の蛇を装っているが、正体を現すと巨大な茶色の身体と赤銅色の翼を持つ姿に変貌する。大地を揺るがし大岩を転がし、溶岩を作り出すなどして戦う。これらの攻撃に敵が耐えたら、普通に牙と巨体を用いて攻撃する。
こちらの攻撃は、直接的な呪文などでは通常の半分のダメージしか与えられない。しかしこの強大な力は『地面に触れている』必要があるため、浮遊や飛行、または強風の呪文などで宙に浮かせる、あるいは素手で組み付き地面から持ち上げる事で、装っていた緑色の小さな蛇の姿に戻す事が可能。その状態では普通の蛇と同じかそれ以下の能力しかないので、容易に倒す事が出来る。
蛇の指輪がもたらす情報は「徴税官ヴァルギニアに金貨をやるな」。
月の蛇
月の女神ルナーラの力を有する。青白い姿で優雅に空を飛ぶ大蛇で、出現の際には太陽がかげり、辺りが暗くなる。戦いの際には牙と巨体を用い、通常の武器では倒すのに苦労する。しかし火に弱く、松明など火を武器に用いれば有効打を与えられる。火球を放つ呪文は特に効果がある。
蛇の指輪がもたらす情報は「マンパン砦の門は四人の衛兵が守っている」。
時の蛇
カーカバードの時間の神クロナダの力を有する。緑の鱗に銀色の光沢を有する大蛇。七匹の中で最強と言われ、時間の流れを自在に操れる。時の流れを遅くして動きを鈍らせたり、あるいは流れを早くして高速で移動したりなど、思うがままにコントロールが可能なのだ。したがって対戦相手は、対抗手段が無い限り、武器を振るったり呪文を唱える事無く、敗北する結果のみが残る。
唯一の弱点は、対抗できる呪文、もしくはそれが記された呪文書を手に入れ、それを唱える事のみ。当然ながらめったには手に入らず、唯一所有している事が判明している黒エルフの女魔術師フェネストラも、沼ゴブリンの一団にその呪文が書かれた羊皮紙を譲ってしまった(そして沼ゴブリンたちも、この羊皮紙の呪文を読めないため、結果羊皮紙は失われてしまった)。
しかしこの呪文を手に入れ唱えると、蛇は時の神の力を失い、技量も体力も著しく低下。通常の剣の攻撃で倒す事が可能になる。
蛇の指輪がもたらす情報は「大魔王は姿を変えており、見た目でそれとはわからない」
火の蛇
炎の神フィラッシュの力を有する。緋色の鱗を持ち、その名の通り火炎を武器とする。通常は赤みがかかった黄色の蛇の姿で、獲物の前に現れる。そうして周囲に枯れ木などの可燃物が多い場所に誘導した後に、本性を現し襲い掛かる。
接近戦では、この蛇からの火炎と熱で、攻撃する側もダメージを受けるおそれがある。また、当然ながら火炎や熱の攻撃は全く効かない。
弱点は砂で、砂をかける事で炎が消され、元の赤みがかかった黄色の蛇の姿になる。この姿になると弱体化しているため、普通に攻撃する事で容易に倒せる。また、風にも弱く、強風を発生させる呪文で炎を吹き飛ばすと、やはり弱体化する。
蛇の指輪がもたらす情報は「スログの貯蔵庫の食料は口にするな」
陽の蛇
太陽の女神グランタンカの力を有する。金の鱗に覆われた翼と、頭部には冠状の棘が生えている。目からは炎の矢を発射して攻撃するが、水に弱い。そのため、大量の水を浴びせかける事で倒す事が可能。
蛇の指輪がもたらす情報は「マカリティックの吐く息に注意せよ」
現在、黒エルフの女魔術師フェネストラにより、降雨の呪文で空から引きずり落され、水晶玉の中に封じられたらしい。
水の蛇
海洋神ハイダナ、または河川神アクアリスの力を有する。全身が水で構成された大蛇。やはり液体で出来た翼及び身体を有する。剣や武器による攻撃は無効で、電撃や火炎、それらの呪文も効果は無い。ただし油には弱く、瓶一本分の油を浴びせかける事で即死させる事が可能。
蛇の指輪がもたらす情報は「拷問官ナッガマンテには敬意を払え」
近年、この水の蛇は女魔術師フェネストラの父親を殺したため、フェネストラから恨みをかった。そのため、彼女は復讐の機会をうかがいつつ、油の瓶を溜め込んでいる。