――かつて、船があった――
あー、あー、本日天気晴朗なれども波高し。
進路ようそろ、では出港信天翁号。
概要
奇人、変人、ダメ人間達が集うオンボロ汽船『信天翁号』を中心に繰り広げられる、シリアスコメディ海洋冒険奇譚物。
古風で閉鎖的な世界観だった前作、前々作に比べて全体的に明るく、とっつきやすい。
泉鏡花を彷彿とさせる独特のテキストが特徴で、その古典文学のような、くどいとも取れる文体は人を選ぶが、ハマる人はとことんハマる。
ストーリー
積み込む荷物は横流し品に銃器爆薬飴玉お酒になんでもござれ、ただ阿片だけは勘弁な。
立ち寄る港は薄暗く、船員達は船長以下人間失格の奇人の目白押し、脛に傷持つ奴が当たり前、頭がおかしい奴はこの船だと当たり前。
積み込む荷物も運ぶ船員もおかしけりゃ、泊まる先々もどこかが変だ。
海図にない有り得ない島に遭遇するし、海往かば往ったで幽霊船やら巨大怪魚に巡り会う。
こんな毎日、信天翁号の愉快な毎日、
潮風に当たればちょっとくらいのおつむの病気なんか吹き飛ぶ素敵な暮らし、
だからみんなのりこんでくる―――なんでか脱走したがる奴もいるけれど。
そして前途に立ちこめるは文字通りの暗雲大波、天気最悪にして波大荒れ、しかれど船員達の意気は絶好調。
どんな大暴風雨が吹き荒れようと、どんな三角波がおっ被さろうと、船の中の方がもっと激しい。
船員達は嵐より狂っている。
あー、あー、信天翁号、どこから流れてなにを求めてどこへ往く、それは大いなる謎。
船長だってそのあたりの事、判っていない。
あー、あー、信天翁号、どこへ往く―――
―――なんだ、結局みんな、この船しか居場所がないんじゃあないかッ!?―――
(公式サイトより)
登場人物
朔夜直正
本作の主人公。
元は裕福な旧家の次男坊だったが、女を覚えたことをきっかけにダメ人間街道を高速で転がり落ちていたところを、やはり女の色香に騙され、信天翁号に乗り込むことになった。
酒と女の事しか頭に無く、義務や責任からはすぐ逃げる駄目人間。
船員学校に通っていた経歴から、船では一応二等航海士であるが、あまりの無能っぷりと怠惰な性格から、その扱いは下級水夫以下にまで落ちている。
躁鬱の気があり、鬱状態では重力にすら逆らえない置物と化し、躁状態では無敵の海の男となる(ただし無根拠な自信が付くだけなので結局弱いまま)。
徹頭徹尾ダメ人間だが、その本質は小心な善人であり、信天翁号の中に限って言えば常識人。
クロ
CV:金田まひる
本作のヒロインの一人。信天翁号の船長。通称“嵐を呼ぶ船長”。
ガリガリに痩せて目ばかりぎょろぎょろしている、アルビノの少女。
船長でありながらおつむも要領も極端に悪く、信天翁号における平時の扱いは最底辺。
しかし、嵐が近付き気圧が下がると脳の回路がかちんと繋がり、神がかった知性と心力で信天翁号を完璧に掌握し、曲者ぞろいの船員たちを的確に指揮していかなる難所も切り抜ける・・・のだが、船員たちからは「船長のスイッチが入ったから嵐になった」と思われてるので感謝されることはほとんどない。
シサム&キサラ
CV:野月まひる
ヒロイン。赤いリーファージャケットがトレードマークの、信天翁号の一等航海士。
北海生まれで金髪碧眼の美しい双子姉妹。
二人揃っている時の方向感覚・位置感覚は高性能のGPSにも比肩する精度を誇り、
いざ鉄火場となれば抜群の連携で愛用のコルト製リボルバーを楽しげにぶっ放す、頼れる存在。
その一方で、姉妹そろってとにかく荒っぽい性格で、必要とあらば犯罪行為もいとわない。
また、常に相方の身体と触れ合っていないと頭がおかしくなるという奇病に罹っており、 3時間以上相手を認識できない状況が続くと、極端な鬱状態になる。
彩久津泪
CV:水純なな歩
ヒロイン。悪名高い信天翁号をなぜか名指しで乗り込んできた女性客。朔屋とは以前からの知己。
船では最上の船室をあてがわれ、そこを更に豪華に改造している。
男ならば惹きつけられずに入られない魅力を放つ、優雅と倦怠を兼ね備えた女性だが、
同時に本人の意思に関係なく、関わった男を軒並み破滅させる性質でもあり、
朔屋からはひどく畏れられている。
なお、朔夜は信天翁号に乗る前に泪と三回ほど会ったことがあるが、三回とも嫉妬に狂った見ず知らずの別々の男に殺されかけた。
かなりの豪胆の持ち主で、目の前で血生臭い光景が繰り広げられるようとも優美な態度は変わらず、己が身を賭けとしたギャンブルの場でも平然としていた。
水夫長
四十がらみの屈強なベテラン水夫長。
本名は不明。通称“龍(ロン)の親爺”だが、役職である水夫長(ボースン)で呼ばれることが多い。
顔から肩にかけて龍の刺青が彫られているのが特徴で、見た目も行動も海賊そのものだが、
実は重度の活字中毒者で、そのせいかかなりのインテリ。
一日一冊以上本が読めないと幼児退行を起こして泣き喚くという奇癖を持つ。
水夫たちの間では、そんな状態の彼を宥めるための読み聞かせの当番が存在する。
しかし、信天翁号の暮らしでは中々本など手に入らないので、
しかたなしに同じ本を何度も何度も読み返している。
ロックフォール・王(ワン)
信天翁号の機関長。
純黒のスーツを身に纏い、丸い黒眼鏡のインテリ。
船の中でも特にか過酷な機関室にほとんど籠りきりにもかかわらず、
そのシャツには煤一つついておらず、船の中のあらゆることを把握している。
物腰丁寧で、深い教養と見識を持つ船に欠かせない存在。
しかし、職分や性格の違いから、水夫長とはそりが合わない。
前向的健忘症のため近々(5分以上)の記憶を維持できず、
彼と会話するには、一つの話題で同じ説明を何度も繰り返さなくてはならない。
しかし、時折万事心得ているかのような笑みを見せることもある。
下級水夫たち
CV:草柳順子
信天翁号で働く水夫たち。
全員同じ貌で、いつの間にか増えたり減ったりする。
たいそう可愛らしい貌立ちなのだが、全員もれなく男。
外見上の個性はないが、性格や口調にはそれぞれ異なる。
酒場のお姉さんたち
CV:草柳順子
信天翁号が寄港する港町の酒場に、なぜかいつもたむろしているご婦人方。
流れ者の船員たちと一夜限りの恋をして生活しており、朔夜もお世話になったことがある。
たいそうな美人なのだが、なぜかみんな同じ貌。
なお、彼女たち曰く、下級水夫たちは「弟のようなもの」らしい。
殺し屋
何者かから朔屋殺害の依頼を請けて船に乗り込んできた男。名前は智里。
服装や外見はどう見ても日本人だがなぜか碧眼。
その眼にはヒトに見えないモノが見えてしまっているらしく、語る言葉が脈絡がなく余人にとっては意味不明なためにおよそ会話が成り立たない。
人を斬ること自体には躊躇いがなく、また、その剣腕は達人の領域だが、
なぜか標的の朔屋とよくつるんで酒を飲んでおり、その真意は不明。
非常に要領が良く、厄介ごとを押し付けられそうな時はいつの間にか消えており、
逆にその剣腕が役に立ちそうな場面ではいつの間にか現れる。
宗右衛門
フルネームは時雨宗右衛門。威風堂々とした大黒猫。
数年前に「御護り役」として信天翁号に積み込まれ、本来は船が嵐に遭遇した時の安全祈願として海に沈められる筈だったが、持ち前の知力と攻撃力で最終的に船に居つくこととなった。
その貫禄には水夫長や機関長、双子航海士ですら一目置いており、現在では信天翁号の頂点に君臨している。
・密航者
CV:高槻つばさ
緑がかった長い黒髪に白い肌、東洋と西洋が絶妙に混ざり合った美少女。本名は不明。
いつも港で船に積み込まれる予定の荷物に潜り込むのだが、なぜか決まって信天翁号に積み込まれる。
そのため船員に見つかるたびに碌な目に合わないのだが、気が付くといつの間にかまた船内に(当人の意思に関係なく)舞い戻っていたりする。
航海に固執しているのは一つ所に七日以上いると精神異常を起こして発狂するという持病を患っているためで、密航という手段を取るのは、まともに船に乗る持ち合わせなどないから。