概要
著者が2005年6月に発表した作品。雨男の死神「千葉」と彼が出逢った人々と日常を書いた6編から成るオムニバス・ヒューマンストーリーである。
その世界観と物語から数々の賞を受賞し舞台・ラジオドラマ・映画化として展開され、2013年7月には続編となる『死神の浮力』を発表している。
あらすじ
7日間の調査の後に対象者の生死を見定める「死神」の千葉。クールで少しずれていて音楽をこよなく愛する雨男の「死神」が出逢った人々の、ありふれていてほんの少し特別かもしれない日常の物語。
本作の「死神」の設定
作中の「死神」は『調査部』と『情報部』の二部門に分かれており、人間の世界に降り立つのは前者。
人の姿をしているものの仕事に応じて外見と年齢、服装を変える。名前だけは共通だが、全員市町村と同じ名である。調査対象と接触すると一週間にわたり観察し、その生死を見定める。
「可」(映画では「実行」)にした場合対象は八日目に死亡。「見送り」とした場合は対象は死ぬ事なく天寿まっとうする。「可」にするか「見送り」にするかどうかについて明確な基準はなく、裁定は死神の裁量に全て任される。だが殆どの調査対象は「可」となり「見送り」になる事は極めて稀。また調査期間の間に対象が死亡する事はない。調査の報告結果は公衆電話や携帯端末を通じて行う。
死神には痛覚や味覚などが無いため、基本的に飲食や睡眠はとらない。だが仕事上人間社会に溶け込むため、必要最低限の「ふり」はしている。また『死亡』という概念もなく、如何なる目にあっても死なないし薬や毒物も効かない。また死神が素手で人間に触ると、相手は気絶してしまう上に寿命が一年縮んでしまう。それを防ぐため死神は白い手袋をはめている。
死神達は共通して「ミュージック」が大好き。仕事の合間に時間が出来ればCDショップに行きCDを貪り聴く。その偏愛ぶりは「人間の死に興味はないが、人間が死に絶えミュージックが無くなることは辛い」と言わせるほど。他にもCDショップや音楽が流れる喫茶店に行けば必ずといっていいほど他の死神と出会う事が出来る。調査中に同僚と出くわす事もあるが、その場合は「感覚」でわかる。反対に渋滞は人間が作った中で一番醜いものだと考えている。
登場人物
千葉(ちば)
本作の主人公。死神。クールな性格で自らが行っている死の身定めを仕事と割り切っており、人間の死にも全く興味がなく「人の死に意味はなく価値もない」と考えている。その為か人間の世界の価値観や言葉などをあまりよく理解しておらず「雪男」と「雨男」を同じようなものだと思ったり、人間とは違う発言をしたりするため、人間と会話する際に微妙に会話がかみ合わないことが多々ある。
彼が仕事のために人間界へ赴くと必ず雨が降っており、青空を見た事がない。
名前の由来は、恐らく著者の出身地に因む。
藤木一恵(ふじき かずえ)
表題作に登場する千葉の調査対象で、大手電機メーカーの本社に勤めている。何かとツイていない。
苦情処理の部署に属してクレーマーの応対をするばかりの生活を送っており、自分の名前(何か一つでも才能に恵まれます様に。という意味が込められている)にもうんざりする日々を送っている。
藤田(ふじた)
2作目に登場する千葉の調査対象。中年のやくざ。
兄貴分を殺された敵討ちをうとうとしている。千葉が初めて関心を寄せた人間であり、最初は「ずっしりと重い尖った鏃」のように感じ取る。