概要
特二式内火艇の設計が成功を収めたことは軍令部の作戦立案者たちを満足させた
そしてより強力な装甲と兵装を備える大型の車輌が、将来の水陸両用作戦や特殊部隊を用いた作戦に有用と考え、特三式内火艇として制式採用された。
1943年に開発が開始され、最初の車輌が任務に就いたのは1943年後期から1944年にかけてだった。
しかし海軍は艦艇と航空機の製造を優先、特別な水陸両用作戦のための確固とした計画が無かったため量産は後回しにされた。結果、日本本土にのみ配備され、作戦には参加していない。終戦時には横須賀第十六特別陸戦隊に20輛が配備されていた。
特三式内火艇は、陸軍の保有する一式中戦車の車体に大きな改修を施したものであり二式内火艇よりも相当に良好な装甲防御と火力を持っている。
前方の浮舟は艦艇の船首形状にカーブがつけられており、また戦車が上陸した際には、前後の浮舟ともに車輌内部から投棄が可能となっていたが、実際は敵砲火に対してわずかながら追加の防御効果を与えたことから、浮舟は普通外されないままに残された。
主砲である一式四十七粍戦車砲は日本陸軍の新砲塔チハ車が装備する47mm砲と同様。
副兵装は口径7.7mmの九七式車載重機関銃を同軸に装備し、また車体前面にも同じ兵装を装備。
浮舟を装備した水上状態でも車体(船体)のほとんどは水面下になってしまうため、砲塔からは投棄可能な円形のキューポラを持ち、丈の延長された展望塔が大きく突きだしていた。
潜水艦への搭載も考慮していたため、車体は水密化され、耐圧構造が施されていた。その為浮上後すぐ発進できた。
設計と構造
本車は一式中戦車と同等の戦闘能力を持つよう意図されて作られた水陸両用戦車である。こうした強化発展型の開発には、先の特二式内火艇の開発過程において、開発陣から装甲防御能力、火力、継戦能力が実戦運用に堪えないという疑念が持たれたためである。水陸両用の用途から、本車は一式中戦車とは構造が全く異なっている。
火力は一式中戦車と同等である。威力は1000mで30mm~35mm程度の第二種鋼板を貫通。装甲は前面50mm。装甲板には陸軍仕様ではなく、水中防御用に作られる均質装甲のNVNC甲鈑か、銅を加えたCNC甲鈑が採用された。撃角に左右されない防御性能を発揮し、陸軍関係者は驚きを示したとされる。
まず本車は車体中央部に直径3m、水深100mに耐える耐圧筒を配置している。主要機器は全てこの内部に収容され、潜水艦での長距離輸送にも耐える。この耐圧筒の左右に並行して張り出された側面袖部は浮上航行時の浮力を保持するための水密区画であり、潜水輸送時には水を注入する。
円筒形状の耐圧船殻内部の後方部分にエンジンが配置された。このエンジンから前方の変速機へ動力が伝えられ、操向伝動機から左右の操向変速機を介して動力が配分・減速され、さらに終減速装置が起動輪を動かし、左右の軌道を作動させる。変速は前進5段後進2段。ここまでは普通の戦車であるが本車は航行用の動力系統も持たねばならない。エンジンのすぐ前に置かれた伝動機から、床面近くを通る推進軸が通され、後方へと伸び、推進装置用の伝動機とクラッチに接続する。ここから900mm間隔で配置された2軸のプロペラへそれぞれ動力を分配し、車輌を水上航行させた。またプロペラは特二式内火艇とは異なり、上方へ55度はねあげることができた。地上とのクリアランスが取れ、損傷しにくくなっている。舵は特二式内火艇と同様のワイヤー連動式操舵装置が車体上面図に確認できる。
耐圧筒内部の床には、おそらく中央部のエンジンを避け、向かい合わせに燃料タンクが7基、滑油タンクが1基、補器類が配置された。
砲塔の下方、耐圧筒の床上砲弾箱に主砲弾90発、砲塔弾薬箱に30発を収容する。また床下に機銃弾3240発が搭載されたほか、機銃弾薬箱甲乙にも相当数が収容された。
前後部フロート(浮舟)は、シャフトを介して開閉操作可能なシャックル4箇所によって接続されている。つまりシャフトに、耐圧筒内部に設けられたハンドルからの回転を伝達、回転運動を端部のねじを介して伸縮運動に変え、水密構造のシャックル部分で開閉運動に変える。これによりフロートを戦車内部から切り離すことができた。前部フロートは左右2分割構造となっており、切り離せば車輌の左右へと分かれて分離する。本車の後部フロートを外した外形は、丸みを帯びた耐圧筒がそのまま剥き出しとなり、普通のAFVとは相当に異なる外見を見せている。この耐圧筒の丸みを帯びた後部は溶接ではなくボルト止めとなっている。推測であるが、整備の際にはここを外して内部のエンジン類を卸下搭載した可能性がある。
特三式内火艇は浮上した潜水艦からさほど時間をおかずに発進できたが、代償として構造が凝っており、生産性が低かったとの意見が開発陣自身から出ている。こうした反省から特五式内火艇は潜水艦からの奇襲上陸をしない、一般的な水陸両用戦車として設計された。
装備及び性能
全長 10.3m
全幅 3.00m
全高 3.82m
重量 28.5t(含む浮舟)
懸架方式 コイルスプリング[1]
速度 32km/h(陸上)10km/h(水上)
行動距離 320km(陸上)140km(浮航)
主砲 一式四十七粍戦車砲
副武装 九七式車載重機関銃、2挺
装甲 10~50mm
エンジン 統制一〇〇型
空冷V型12気筒ディーゼル
240馬力/2000rpm
乗員 5~7名
余談
日本最大(?)の戦車
実は量産された日本軍の戦車の中では一番大きくて重い。
特三式内火艇の全長は10.3mであるがこれは、オイ車のそれを上回る長さである。3mという全幅は試作で終わった四式中戦車を超え、五式中戦車に迫る広さであり、3.82mを誇る本車の全高は、戦後の国産戦車を含めても日本戦車の中で一番高い。