電脳破壊作戦
こんぴゅーたーはかいさくせん
「電脳(コンピューター)破壊作戦」とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第18弾「REBEL PLANET」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社。
銀河系にまで進出した地球人は、他惑星にまで行き来できる科学技術を手に入れていた。
しかし、今や地球人は、銀河系を支配する惑星「アルカディオン」のアルカディア人たちによる奴隷と化していた。
かつて、トロポス、ラディクス、ハルマリスといった惑星を開拓していった地球人たちは、惑星アルカディオンを発見した。そこに降下した地球人たちは、初歩的な科学技術しかもたないアルカディア人たちに、宇宙船からテクノロジーを奪われた。彼らは宇宙征服に意欲的で、開拓した惑星はもちろん、太陽系にまでその侵略の手を伸ばし、地球にも侵攻。わずか12年で、地球そのものも征服してしまった。
そしてアルカディア人は、超高性能有機巨大コンピューターを設立し、全ての同胞にこのコンピューターと連結する情動感知装置を内蔵。全員がコンピューターの一部となって活動する、個という存在を許さぬ蟻や蜂のような生命体となった。
超科学を手に入れたアルカディア人は、150年にわたり地球を圧政で支配していた。
が、人類は逆に気付いた。アルカディア人の中央コンピューターを破壊すれば、アルカディア人は生ける屍になる事を。
かつて惑星植民計画を担っていた組織「SAROS」は、いまやレジスタンス組織となっていた。そしてSAROSは、コンピューター破壊作戦を、一人のエージェントに託すことで実行した。
現在、人類の宇宙旅行は、アルカディア人に尽くす商人のみに許可されるようになっている。それを利用して、トロポス、ラディクス、ハルマリスの各惑星の地下組織と接触し、アルカディア本星の中央コンピューター破壊のための情報収集が可能になったのだ。
各惑星に送り込んだスパイたちの活躍で、不完全ながらアルカディア人と中央コンピューターの情報が明らかになってきた。人間の中には裏切り者もいるため、完全ではないが。それでも行う機会は今を置いて他にはない。
かくしてSAROSのエージェント=君は、コンピューター破壊作戦を開始した。
シリーズ18弾。
ロビン・ウォーターフィールドのデビュー作でもある。
「人類が、宇宙人に支配されている。それを覆すために、エージェントとして君が惑星を渡り歩き、情報を得つつ目的を遂行しようとする」と、過去のシリーズのSF作品の中でも、かなり一本筋が通った内容の一作。
設定・ストーリーともに「SF」であり「活劇」としても良くできた一作である。
ストーリーそのものは、ほぼ一本道であり、三つの各惑星の地下組織と接触し、情報を得て、次に進み……という内容である。が、ある程度選択肢を固定化しており、舞台を三つの惑星に分けている事で、だれる事なくメリハリのあるストーリーになっている。
戦闘自体も、基本的に接近戦のみ、それもレーザー剣による切り合いのみになっている。ただし、剣を失った場合の素手戦闘も設定されており、場合によっては一撃で相手を瞬殺させる事も可能(劇中ではフェーザー銃や手榴弾、爆弾といったものも存在するが、それらは基本的には人間は手に入らないし使えない・所持できない状況にある)。
また、本作のメインの敵である異星人「アルカディア人」は、三種類存在し、それぞれで特徴も異なっており、指向性も対処も異なる。「人類と異なる異種族」は、タイタンを舞台にしたシリーズでも、既にゴブリンやオーク、エルフにドワーフと存在しているものの、あくまでもファンタジーであり、SFで行われるような「異種族・異星人」という扱いではなかった。
ファンタジー以外のジャンルで、異種族・異星人という存在を、SF的な考察と設定とを行っているのは、本作が初めてと言える。
(「さまよえる宇宙船」では、それぞれの惑星でのイベントが短すぎたためにやや散発的であったし、「宇宙の暗殺者」もあまりその点は強調はされていなかった。「宇宙の連邦捜査官」は、登場するのがほぼ地球人のみなので論外)
本作品はファイティングファンタジーシリーズにおける隠れた傑作であると同時に、シリーズにおけるSF作品としても一つの到達点とも言える。そして同時に、SFのストーリーとしても、十分に面白く魅力のある作品である。
ベラトリックス
惑星トロポスの、地球人のレジスタンス組織のリーダーである女性。酒場「フィジョン・チップス」の電話ボックスから、そのアジトに入れる。たとえアルカディア人が相手でも、証拠が無ければ有罪と決めてはならないし、勝手に断罪する事もすべきでないと考えている。アルカディア本星の中央コンピューター設備に入るための、暗号コードの三分の一を入手している。
惑星アルカディオンの宇宙人。かつては、原始的な文明レベルで、宇宙旅行も初歩的段階のテクノロジーしか有していなかった。しかし宇宙征服の野望は人類のそれに劣らず強く、人類の宇宙船が数隻着陸した後に、そのテクノロジーを強奪し、宇宙艦隊を設立。奇襲を仕掛けて地球の植民惑星を次々に攻略。わずか12年で地球を降伏させて支配した。
もともとは彼らの惑星は、広大な海で隔てられた三つの大陸で構成され、それぞれに住む三つの種族は統一され同盟体制が敷かれていた。
極めて適応力が髙く、巨大化した自身の帝国を支配するために、高性能有機コンピューターを建設(彼らは二本指のため、最初から二進法を採用していた)。
続き、同族のアルカディオン人全員の頭脳に、情動感応(エンパシー)によって中央有機コンピューターと連結する「情動感知機」を埋め込んだ。こうする事で、全アルカディア人は蜂や蟻同様に、巨大な単一知性を構成する、知性の一部と化した。
彼らは三種類の種族が存在する。北、南、中央アルカディア人の三種で、いずれもおおむねは人型をしている。手足はそれぞれ二本ずつあり、それぞれの手足には二本指を持つ。
北アルカディア人
最大で身長3m。ひょろ長く、手足の関節は人間のそれより多い。頭部はずんぐりして四角く、鋭い棘に覆われた尾を持ち、バランスを保つのと、戦闘時の武器としても用いる。
戦士タイプで、殺戮を好む。知能はあまり高くはなく、人間にとってもっとも理解しやすい。
南アルカディア人
北アルカディア人を小柄にしたような種族だが、彼らもまたその気になれば戦闘は可能。
北の同種との違いは、尾が無く、背が低くずんぐりした体型。頭部から一対の触角を生やしている(この用途は不明。感情を察知すると思われている)。
極めて敏感かつ、誌的な会話を好むが、普通の人間には理解しにくい。が、感受性の低い人間と話すため、「次元の低い」普通の会話もできる。性格的には、北と中央のアルカディア人よりも人間に対し寛容ではあるが、人間と意思の疎通のしにくさ、会話の理解の難しさから、かえって怒らせてしまう事も多い。
惑星トロポス
地球の植民惑星の一つ。パンの他にオームと呼ばれる原産の豆を用いたオートミールが主食。ジリディウムという鉱石が採掘される惑星で、そのおかげで宇宙旅行がさらに身近になった。
元は、過去の地球の生活様式を再現した植民惑星で、当時の地球で廃れて時代遅れになったファッションや習慣が、この惑星では残っていた。そのため、古き良き地球の生活をしたい者たちには、格好の植民地になっていた。
かつてアルカディア人との戦争が起こった時には、伝統的生活様式を守るために、激しく抵抗した。
現在は北アルカディア人が多く派遣され、駐屯している。警察署長も北アルカディア人で、人間に対し差別的な治安維持を行っている(アルカディア人が一人死んだら、人間を十人殺す事をその場で決めて実行しようとするなど)。
しかし、この惑星に住む人類も、全てがアルカディア人の支配から抜け出したいと考えているわけではなく、あえて従う事で、わずかに生きる期間を伸ばしてもらえるように懇願する裏切り者も多くいる。
フィジョン・チップス
廃墟になっている映画館「アドルフォ・ビデオラマ(最後にかかった映画は「スタートレック」らしい)」の地下にある、会員制のクラブ。客の大半は人間だが、アルカディア人の客もいる(そのほとんどは南アルカディア人)。
アルカディア人用の一角は、ソファや本物の木のテーブルで、人間用の一角は薄汚れたプラスティック製のテーブルのみ。アルコールの臭いと、軽い合法ドラッグ・グラジウムの煙が充満している。
この場で、ベラトリックスと、彼女が率いるレジスタンスに接触できる。
惑星ラディクス
地球の植民惑星の一つ。トロポスと異なり、南アルカディア人が多く移住している。
地球や他の植民惑星に比べ、自由はあるが怠惰でもある。もとから非常に肥沃な惑星で、入植後の人類の生活は安楽で豊かになり、そこから地球の基準からすれば怠惰で堕落した生活様式となっていった。
かつてアルカディア人との戦いでは、真っ先に戦わずして全面降伏していた。現在もラディクスの怠惰と退廃、自分さえよければそれでいいという考えは、宇宙に鳴り響いている。
ストリート・ファイター
ラディクスの都市部にて、衝撃波により建物を破壊するロボット。円筒形で、基部に内蔵した装置で移動。周囲に衝撃波を放つ事で目標を破壊する。頭頂部のアンテナが弱点。
建物に潜むレジスタンスの学生をあぶりだすため、ラディクスのアルカディオン人の警察が使用。
SAROS
「宇宙探索研究局(Search And Research Of Space)」の略称。元は人類の惑星植民計画と設立を行う国際組織。しかしアルカディオン帝国のもとで変身を余儀なくされた。現在は研究組織を装いつつ、帝国打倒のためのレジスタンス組織となっている。
レーザー剣
現在多く使用されている、携帯用の武器。
アルカディア人は、帝国を築き上げた後、人類にいかなる武器の携帯も許さず、銃や爆弾などの兵器を一か所にしまい込み保管、アルカディア人にのみ、威力の少ない武器の携行を自衛目的で許可するようにしていた。こうする事で、仮に奪われたとしても脅威にはならないためである。
ただしその代り、素手での格闘技が人類に復活し、アルカディア人の急所を突いて即死させる術をマスターした者も、地球人には存在している。