概要
2006年8月23日に横浜スタジアムで行われた横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)対読売ジャイアンツ(以下巨人)戦の9回表、得点は1-1、1アウト満塁の場面で阿部慎之助の打席を迎えた横浜の守備陣はバックホームに備えて前進守備を敷いていた。
投手の吉見祐治は阿部に一塁真正面のゴロを打たせ、一塁手の佐伯貴弘がこれを捕球。誰もがホームゲッツーでチェンジ…と思われた次の瞬間、佐伯は何故か一塁へ戻ってベースを踏み、それから本塁へ送球したのである。捕手のもとにボールが届いた頃には時すでに遅し。彼の足元を三塁走者の鈴木尚広が滑り抜けて生還を果たし、巨人が貴重な勝ち越し点を獲得した。
このプロらしからぬ佐伯の凡ミスに、試合を実況していたTBSの松下賢次アナウンサーは
「どうしたんだ佐伯!何のための前進守備だ!これはいけませーん!!!」
と叫んだのである。
結局この1点が決勝点となり、横浜はこの試合を落としてしまっている。
なお、佐伯は打球を捕り損なってもいなければ悪送球もしていないので記録の上では「内野ゴロの間に走者生還」となるため、佐伯にエラーは記録されていないが、吉見には自責点が追加された上に敗戦投手になってしまうという踏んだり蹴ったりな結果となってしまった。
解説
この佐伯のプレーの何がいけなかったのかというと、佐伯が打球を捕球した時点では打者の阿部がまだアウトになっていないため、三塁走者の鈴木にはフォースプレー(進塁の義務が発生している状態)が適用されるので、彼よりも先にホームベース上で待っている捕手に送球が届けばタッチは不要なので、佐伯はそのまま本塁へ送球すればよかった。
ところが、佐伯は何を思ったのか先に一塁ベースを踏んで阿部をアウトにしてしまい、これにより鈴木は進塁の義務がなくなったためにフォースプレーが適用されなくなり、捕手が鈴木をホーム上でアウトにするにはタッチが必要となってしまったのである。
時間にして1分にも満たない僅かな間に起きた出来事だが、佐伯のミスによって生じた状況の変化と数秒の遅れが勝敗を分けることになった。
そもそも佐伯たちが前進守備をとっていたのは三塁走者の生還を阻止するためであり、三塁走者が当時の球界で屈指の俊足を誇った鈴木だったこともあって佐伯のこのミスは致命的のものであったと言わざるを得ず、松下アナの「どうしたんだ佐伯」「何のための前進守備だ」はこの上ないほど的確な実況である。