概要
端的に説明するなら、大量のミサイルが複雑に絡み合った航跡を描きながら目標に飛翔する様子
……という訳ではなく、高速で動く物体を高速で動くカメラで捉えた映像にスピードと迫力を付けるための技法である。
ガジェットとしてマイクロミサイルが多用され、無数のミサイルが飛び交う映像が有名であるため勘違いされやすいが、本質はミサイルそのものではなくミサイル等の飛行物体をどの位置からどの位置へ動かして撮り、どのようなレンズ効果やデフォルメを付けるかという事である。
このことに関しては板野氏自身も「ミサイルが一本でも二本でも流れが綺麗なら板野サーカス」という言葉でその本質を表現している。
例を挙げると、映画『ULTRAMAN』でのウルトラマンと怪獣の戦いは直線的に飛ぶ光弾の撃ち合いであるが、カメラは殆ど制止せず、カメラとの距離によって被写体が意図的に歪んでいるので、両者の見かけ上の軌道は固定カメラから撮った場合よりも複雑さを増しており、ミサイルで画面が埋め尽くされていなくても密度の高いドッグファイトとなっている。
つまりミサイルがいっぱい飛んでいる画を再現したくらいで板野サーカスを名乗るのはあまりよろしいことではない。板野が公認しているサーカスの描き手は庵野秀明、後藤雅巳、村木靖とたった三名である。
近い映像を簡単に撮りたいなら、マクロスのゲームやエースコンバットで、僚機目線のリプレイ映像を見ると「角度を変えつつ目標を捉える」映像が手に入る。
勿論パースが全くないので期待よりしょぼい。解消するには根気よく一コマ一コマにパースを加えるか、大人しく手描きでパラパラ漫画を描くしかない。
原体験
このような演出の原点となったのは「人造人間キカイダー」にてハカイダーが乗るバイクからロケット弾が発射されるシーンに触発され、学生時代にバイクを改造してロケット花火を撃ち合いながら追いかけっこをしたという板野自身の体験である。
板野はこの時の事について「攻撃側よりも追撃される側のほうが面白かった」と述べている。ロケット花火を飛翔物に、追撃される板野の目を回り込みつつ捉えるカメラに置き換えることで空間表現能力を鍛えていったのであろう。
納豆ミサイル
とはいえ、やはり板野サーカスが一番映えるのはミサイル戦であり、特有な軌道が目を引く。
多くのパターンでは発射時に標的方向に対し、一時離れるように側方・後方に向かって発射された後、再び標的(前方)に向かって飛ぶためミサイルの軌道が直角~鋭角の急激なカーブを描く。
また、目標に向かって飛んでいくミサイルもただ複雑な軌道を描きながら飛び回る訳ではなく、軌道のタイプにも複数の種類があり
- 目標へ一直線に飛んでいく物(優等生タイプ)
- 目標の回避運動をを予測して先回りする物(秀才タイプ)
- 敢えて目立つ為にジグザグに飛んでいく物(劣等生タイプ)
等に描き分けされている。
ミサイルの弾幕描写の他にもこれを応用した弾幕回避描写は爽快感が高く、近年のロボットアニメにおいてはミサイルやホーミングレーザーといえばこの様な演出を成される事が多い。