概要
東方Projectに登場する八雲紫と宇佐見菫子のカップリング。
原作では2015年11月現在では両者は出会っていないが、作中における互いの要素に関連し合うものをもつことなどから二次創作において二人の様々な交流が想像されている。
特に先述の現在時点では主に菫子の要素である「秘封倶楽部」という文脈において二次創作のあり方の潮流の一つとして紫の側にも深く醸成され続けてきた特有の創作アプローチがあり、「ゆかすみ」においてもその創作アプローチが交わる事がある。
それは紫のエピソードにして紫と菫子の二人だからこそ描く事の出来る物語のあり方でもあり、「ゆかすみ」ならではの物語が多様に想像されている。
外の世界と幻想郷と「夢」
菫子は「外の世界」に所在する人間であり、『深秘録』において人間にして自らの意思で結界に隔てられた幻想郷へと臨み、菫子以外の意思による結果的な介入こそあったものの幻想郷に至る道を拓いた。その方法は『深秘録』に語られた通りで、その騒動を通して菫子は幻想郷と対峙することとなる。
『深秘録』以後はオカルトボールを通した従来の方法ではなく眠りと「 夢 」を通して幻想郷へと訪れるようになった。
紫は幻想郷を、現在の形にまで至るようつくり上げた妖怪である。
かつて紫は「外の世界」から幻想郷を博麗大結界をはじめとした種々の結界や境界で隔離し、同時に様々な存在を受け入れる下地を形成した。
菫子が憧れた幻想郷は、それが形作られる際には紫が大きく影響したのである。
また紫は外の世界との行き来も自由であるようで、外の世界から何かを持ってきたり、あるいは連れてきたりもしている。幻想郷に外の世界から人間が迷い込むケースにかかわることもあるようで、その場合は紫の結界操作による誘導(神隠し)による。
紫と外の世界については稗田阿求もまたその関係性について考察しており、阿求が記述するところによれば紫はそもそも「 外の世界の妖怪で、幻想郷に遊びに来ている 」のではないか、ともされるようである(「幻想郷縁起」、『東方求聞史紀』)。
さらに紫は「眠る」存在であり、冬や昼間は眠って過ごすとされる。
例えば博麗霊夢は紫について「 夜しか起きていない奴 」(『東方永夜抄』)と称し、紫と旧知の仲である伊吹萃香は紫が昼間活動している様子を見て「 昼間なのにこっちの世界に居るなんて珍しいじゃない 」とも語っている(『東方緋想天』)。萃香の言う「 こっちの世界 」が幻想郷を指すと仮定する場合、阿求の記述する「 寝ていると言われる時は、外の世界で過ごしているのかもしれない 」という考察とも関連し得る。
また阿求は外の世界がそもそも「 紫の夢の世界 」なのだとする「 噂 」についても記述している。
菫子は『深秘録』以後夢を介して結界を超えて幻想郷へとやってくるようになったが、紫もまた夢を通すことでも二つの世界を渡っているのではないか、とされるのである。
博麗神社
菫子が『深秘録』に初めて登場するのは同作における最初の霊夢のルートである。
このルートでは菫子はシルエットとしてのみ描かれ、菫子の視点からすると霊夢から突然攻撃を受ける訳であるが、この舞台となったのが博麗神社である。
その後複数のキャラクターの物語を通して菫子は幻想郷への道を得る事が出来、果たして幻想郷へと正式に(と本人は思っていた)やってくる。この際に菫子が初めてやってきたのも博麗神社であった。
さらに「 幻想郷の怖い夜 」を通して菫子が再び戻ってきたのも博麗神社であり、その後一時の脱出の後、外の世界にまで追ってきた霊夢に敗れ再び幻想郷へと引き戻されて霊夢らによる事後のお叱りを賜った場所も博麗神社である。
加えて『深秘録』とは別の形で幻想郷を訪れるようになった菫子は幻想郷側での活動に際しては博麗神社を拠点にしているようである。
博麗神社は幻想郷と外の世界の境界であり、『深秘録』あるいはそれ以降も二つの世界を渡る菫子の窓口ともなっている。
紫にとって博麗神社は「 私の神社 」(『緋想天』)であり、幻想郷を維持するための要所でもある。
『深秘録』における菫子が行おうとした二つの世界の境界をなくそうとする危険な試みなどについては紫は自ら手を下す事は無く、続いて巻き込まれる形で幻想郷もにも危機がもたらされた『東方紺珠伝』でも直接的に行動する事は無かった様子であるが、博麗神社とその謂れに自らが良しとしない別の意図が紛れ込もうとした際には紫自らが介入してこれを一時倒壊させるなどの大規模な行動をとる事もあった。
博麗神社の結界が意図せず揺らいだ際には「 幻想郷的な力 」を応用することでこれを修正したりもする(『東方三月精』)など、博麗神社については紫が特に心を砕く様子が描かれている。博麗神社は外の世界にも存在するが、外の世界のそれを含め、紫は「 大切な神社 」ともしている。
紫と菫子はそれぞれの形で博麗神社に縁をもち、それを通してそれぞれの世界を見渡したり体験したりするところに共感する要素をもつのである。
電波塔・標識
『深秘録』において菫子はその攻撃やスペルカード(<念力「テレキネシス 電波塔」>)などに「電波塔」を使用しており、スマートフォン等を(幻想郷で使用できるかは別として)持ち込んでいる事もあってその電波を中継する電波塔と関わりをもつ。
幻想郷でも電波塔そのものが幻想郷へと入ってきた事があり、その様子は『三月精』で語られている。
同作エピソードにおいてその電波塔の出現を前に会話する霊夢と霧雨魔理沙の前に現れるのが紫である。『三月精』で紫が登場するエピソードにおいて、紫が博麗神社とその周辺以外の場所に登場する数少ないケース(電波塔が出現したのは魔法の森の奥)であり、『三月精』(第三部)単行本第二巻の裏表紙もこの電波塔と紫を描いたものとなっている。
紫は「 忘れ去られ 」幻想郷に流れ着いた「 旧式で低い 」電波塔について想いを寄せ、さらにリアルタイムで建造中の「 今の電波塔 」についても語る。
そしてそのような物が幻想郷に来る事が無いようにと語るのである。
幻想郷へとやってきた電波塔はその後三妖精らによって「 妖精の神社」(または「 聖地 」)となるなど「 幻想郷的な力 」の一つともなった。魔理沙もまた幻想郷へやってきたことで変化し続けることとなった電波塔について「 幻想郷にはお似合い 」としている。
また菫子はアクションにバスの標識や道路交通標識などを使用するが、紫もまた標識をアクションに使用する。弾幕アクションで使用されたものとあって共に物理的に叩きつけるように使用したり飛ばしたりする形で使用しているが、それに物理的力を与えアクションとして効果のあるものとしているのはそれぞれの特殊な能力であるという点も共通している。
菫子はその超能力を操る程度の能力も通して廃材などの捨てられ忘れ去られようとしてるものを応用し、その一つに「電波塔」や「標識」があるが、紫は『三月精』において忘れ去られた果てに幻想郷へと流れついた「電波塔」を見上げて二つの世界の姿それぞれの姿を想い、スペルカードや様々なアクションでは「標識」を応用する。
遠く隔てた別々の存在を電波を通して結ぶ「電波塔」や、誰かが誰かにその意思を象徴的に伝えるものである「標識」など通しても、紫と菫子はそれぞれの形で縁をもつのである。
二次創作では
先述のとおり、二次創作では二人についての様々な考察が展開されており、多様な創作のアプローチがある。特にゆかすみの二人に特徴的な要素としては例えば「秘封倶楽部」がある。
秘封倶楽部は『深秘録』では菫子がつくりあげた「 秘密を暴く 」サークル活動であるが、上海アリス幻樂団作品にはもう一つ「秘封倶楽部」が登場する。
それが「ZUN's Music Collection」に登場する秘封倶楽部であり、こちらでは宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン(メリー)の二人のサークル活動として語られる。
先述の現在時点では菫子の秘封倶楽部と蓮子・メリーの秘封倶楽部の両者のかかわりについては語られていないが、蓮子・メリーの秘封倶楽部については以前から紫との関係が二次創作においても多様に想像されていた。紫は『深秘録』以後、「菫子の秘封倶楽部」と幻想郷で出会う可能性が拓かれたが、ファンの間では「蓮子・メリーの秘封倶楽部」と紫との出会いもまた想像されていたのである。
また蓮子・メリーの秘封倶楽部において紫との関連を見出す想像の中にはこの両者に特徴的なものとして「紫=メリー説」があり、これは紫とメリーのアイデンティティが何らかの形で同一であるとするものである。この立場に立って「ゆかすみ」を見る場合、メリーは自身も蓮子とともに活動する(または活動することになる、あるいは活動していた)秘封倶楽部に、菫子を通して紫として出会うこととなるのである。この場合の「ゆかすみ」は、「菫メリ」とも触れ合うものといえるだろう。
また、「紫=メリー説」以外にも紫とメリーの間に何らかの接点があると考える二次創作は多く、その場合は「蓮子と繋がりのある菫子」と「メリーと繋がりのある紫」という組み合わせが、そのまま「蓮子とメリー」という組み合わせの相似形となる。
紫にとって菫子の出会いは秘封倶楽部との出会いでもあり、それは(先述の現在時点では)直接のものではないながらも、ファンの間で長らく想像されていた紫と秘封倶楽部の出会いでもあるのである。
「ゆかすみ」を想像する際には紫と菫子の二人の出会いを想像するものをはじめ、紫のバックストーリーにも考察を寄せ、紫において醸成されてきた二次創作的アプローチも多様に関連させながら紫ならではの想いをこめて菫子と触れ合う様を想像するものもあるなど、「ゆかすみ」ならではのアプローチがあるのである。
「秘封倶楽部」に限らず広く「ゆかすみ」の二人にまつわるアプローチとしては、例えば二人とも「眠り」という文脈でも語られているため、心地よい睡眠(=睡眠を通したより良い別世界ライフ)を求めるいわば良睡眠の求道者同士として共感すると言うストーリーもある。
加えて菫子は物理学の知識を通して霊夢と語りあうシーンがあり、紫については紫の式である八雲藍がその数学的センスについて想像もつかないほど高度であるとしているなど、共に理数科系の分野に開かれている様子からこの話題を通して二人が交流するというアプローチもある。
なお、菫子の興味の無い科目は「 現国 」(『深秘録』、対戦モード菫子勝利セリフ)。
互いが互いをどのように感じるかについてもそれぞれの創作の方向性から、世代間に見られるようなギャップや軋轢として描かれたり、あるいは他方に対する憧れのような魅力として感じられたりと様々である。
この他、二人にまつわる謂れとして、菫子の通う「東深見高校」と「八雲」との関連を見る事も出来る。
「東深見」を仮に地名とする場合、実際の神奈川県に「深見」または「深見東」という地名があり、ここに「深見神社」がある。深見神社には摂末社(本殿祭神と縁が深いか、あるいは何らかの縁で当該の神社の管理の中にある祭神を祀る社)の一つとして「八雲神社」があり、八雲神社は今日では「八雲」の歌を詠んだスサノオが祀られている。
大和市イベント観光協会ホームページ(下記外部リンクなどを参照)によれば、こちらの八雲神社の由来は不明。なお深見神社には諏訪社も合祀されている。
「ゆかすみ」の二人については『深秘録』以後も多様なあり方が想像されており、菫子が幻想郷へ挑んだ『深秘録』から物語が継続した『紺珠伝』で紫がその存在を示し全ての「 混乱 」を肯定したことで、「ゆかすみ」はまた一歩物語が広がった。
(真偽の確認はできないものの)博識でおしゃべりを好む紫と思春期の最中にある菫子との交流についての想像は、広がりと深みとを増し続けている。